タイトル | アノニマス・コード |
ジャンル | メタ科学アドベンチャー |
対応機種 | Nintendo Switch PlayStation4 |
価格 | 通常版:8,580円 限定版:11,880円 ダウンロード版:7,700円 |
プレイ時間の目安 | 10~15時間 |
「アノニマス・コード」は「STEINS;GATE」などのスタッフが手掛ける科学アドベンチャーシリーズ最新作です
発表は2015年。7年もの開発期間を経て、ついに発売になりました
確かに良作
面白い作品であることは間違いない。
ただ7年の歳月で高まった期待に、十分応える内容だったとは言い難い。
始めに言っておきましょう。
「アノニマスコード」は面白いです。
発展し続けあらゆる場所に介入したテクノロジーが、突如牙をむくスリル。
そうして巻き起こる大事件に立ち向かう主人公たち。
そんなシナリオを実在の科学技術、陰謀論などを盛り込み、リアリティを持たせて展開していきます。
「こんなのファンタジーだろう…」
そう思った科学技術を検索してみると、それらはみな実在する。
ではこのような事件も、いつか現実で起こり得るのか?
本作のシナリオは、確かに面白かったです。
キャラクターにも好感が持てました。
主人公は気持ちの良い性格をしています。
過去の科学アドベンチャーと比べると美少女ゲームらしらも随分薄れ、苦手な人にでもオススメしやすくなったとも。
もちろんヒロインは登場します。たった一人ですが、可愛らしく描けていると感じます。
ただそれでも、期待通りの内容ではなかった。
そう言わざるを得ません。
理由をひとことで言うならば、シナリオがどうも軽いのです。
人物の深掘り不足
遊ぶ者の感情を揺さぶり、余韻を残し、当分忘れられず、「アノニマス・コード、スゴかったよな」と語り継ぎたくなるような作品になっていない。
なぜか。
それは本作が、人物に厚みを持たせられていないからです。
と言いますか、人物に厚みを持たせる大切さを十分認識しつつ、それを可能な限り縮小した結果、物語が軽くなってしまった。
そのような印象を受けました。
本作には主人公、ヒロインの他にも多数の魅力ある人物が登場します。
相棒の「弓川クロス」や「牧ウィンド」
秘めた過去を持つ中年オヤジ「オズ」に、天才発明少女「ノンノ」など…
実に多様な顔ぶれが、物語を盛り上げてくれます。
が、残念なのは彼らキャラクターの深掘りがされない。
あるいは必要最低限であったり、気づかないような分岐先にエピソードが置いてあったりする。
その人物がどのような考えを持っており、その背景にどんな物語があるのか。
なぜ主人公に協力するのか。
巻き起こる大事件の最中、いったい何を思うのか。
このようなキャラクターに厚みを持たせるための描写が、実にあっさりしています。
だから「アノニマス・コード」は軽い。
出来事はダイナミックでも、そこに厚みある人物と感情がのっていない。
感情を感じられないから、こちらの感情も揺さぶられない。
彼らと一緒になって怒って、泣いて、最後には笑い喜ぶ。そんな体験ができない。
出来事が過ぎ去っていくだけで、その出来事自体は面白いはずのに、どこか物足りない。
繰り返すけれど、本作は確かに面白い。
ただそれでも、7年分の期待に応える重みがあったとは感じられません。
歯に衣着せずいうならば「これで終わり?」とすら思う。
その要因は、人物に厚みを持たせるための、深掘りの不足にあると感じました。
…ただ私は、本作のこの内容を、好意的に受け止めたいとも思っています。
読むだけのゲームを、受け入れてもらうために
肌間隔ではありますが、大ボリュームのテキストADVのヒットは難しい時代になったと感じます。
「月姫 -A piece of blue glass moon-」などは話題になりましたが極めて異例で、2021年末にテレビ朝日で放送された「国民5万人がガチ投票!テレビゲーム総選挙」には、テキストアドベンチャーゲームは一本もランクインしませんでした。
インディーズ、フリーゲームなどでは未だ人気のジャンルであることは間違いありません。
ただ「Milk inside a bag of milk inside a bag of milk」や「Doki Doki Literature Club!」など、国内にも届くほどのヒット作には短編が多いように感じられます。
だからこそ本作も、照準を本筋に絞り、削れるものは可能な限り削る…あるいは寄り道の先に置くなどし、手に取りやすいスリムな内容にしたのではないかと思うのです。
上で本作のシナリオを「軽い」と言いました。
ですが同時に、7年も開発していたにもかかわらず、驚くほどムダがないとも感じます。
これだけ長い間作っていればどうあったってシナリオは膨らむでしょうが、それを感じさせません。
人物の深掘りが不足していますが、ないわけではありません。
むしろコンパクトなシナリオとキャラの深掘りを同時に実現しようとした結果が、「アノニマス・コード」なのかもしれない。
いずれも勝手な予測にもとづく意見ですが、ロートルに近付きつつある私の感覚だけで、本作を微妙と切って捨てることをしたくないと、確かに思うのです。
やたらめったら長いものが売れる時代じゃない。
ましてやどうあったって“読むだけ”が大半のテキストADVなら、数十時間にも及ぶプレイ時間はむしろハードルの高さにすらなり得る。
「アノニマス・コード」は、正にそんな時代にむけられた大作なのかもしれません。
ただそうであったとしても、フルプライスであること、何よりも優先してほしかった科学ADVファンが求めていたかどうかなど、問題を感じる点もあるのですが。
総評
せっかくの魅力的なキャラクターたちを、もっと深掘りしてほしかった。
物語に人間の感情がのっておらず、だからこちらの感情も動かない。
良い物語のはずなのに、軽いと感じます。
DLCでもいいので、エピソードが見たい。
出来事、世界設定は間違いなく面白い。
驚かされるシーンもあり、架空のような実在を混じえて描かれるシナリオは確かに科学ADVのそれでした。これを活かしきれていば、きっと名作になれた。
UIやメッセージウインドウなど、同ジャンル他作品が手を加えない場所にすら積極的な工夫を施しているのも好印象。
新しいADVを目指したのでしょう。このジャンルの愛好家として、とても嬉しく思います。
アドベンチャーゲームのファンならば、体験する価値は十分にある一本です。
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