【魔法使いの夜】レビュー・評価 難解だが、難解なまま『人』を楽しんで…

4.5
ADV(ノベル)
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タイトル魔法使いの夜
ジャンルビジュアルノベル
対応機種PS4、Switch
価格パッケージ版
【初回限定版】
希望小売価格 7,700円(税込)
【通常版】
希望小売価格 6,600円(税込)

ダウンロード版
【デジタルデラックス版】(PS4のみ)
希望小売価格 7,150円(税込)
【デジタル版】
希望小売価格 6,600円(税込)
プレイ時間の目安15~20時間

出会いにより変わる様を、読む

本作の最大の見どころは何か?
私はこれを「出会いにより人物が変わっていく、その様」であると感じています。

本作にはハイクオリティなバトルシーンがあります。そこでは奈須きのこの文章は正に炸裂していると言うほかない。戦いの一瞬を言葉でもって表現し尽くします。だからワンアクションが重厚で、しかし絶え間なく演出が挟まれるため、読み心地は不思議と軽やか。

戦いの展開、その構成も見事です。並みのバトルものならここで終わるだろう…というところに転を仕込み、その先にもまだ転がある。ユニークな能力が次から次へと飛び出す魔術の応酬は、正に決着まで目を離すことができません。

このバトルシーンは多くのレビュアーが評価している点で、私も異論ありません。文章は言わずもがな、加えて演出は、最新のビジュアルノベルと比べても遜色ないどころか、頭一つ抜けていると言っていいでしょう。

しかし、本作の一番の魅力は――これも十分魅力ですが――ここでないと感じます。

では、どこが魅力だと感じたのか?

繰り返しになりますが、人が変わっていく様です。

本作には3人のメインキャラクターがいます。そのいずれもが自己の考えを持っています。そしてそれはぶつかり合う。しかしぶつかり合いは、必ずしも戦いの中だけではありません。むしろそうでないシーン…日常の一幕や、あるいは建前を廃して語り合う場面などで、互いは互いの考えを伝え合います。

そのようなシーンを通して、キャラクターは変化していきます。以前までは取らなかった行動を取り、時に距離が近づき、あるいは距離は変わらなくとも、お互いを認め合うようになっていく。


バトルシーンは確かに魅力ですが、どうも本作は、本当のスポットライトをこのような部分に当てていると感じられます。人が人によって変わっていくその様こそ、本作のもっとも味わい深い部分であり、魅力であると私は思っています。

そこには劇的なイベントがあるとは限りません。また変化を伝える描写が明確でないことも多いです。ただ決して移ろわないように思われた3人の関係は、いつしか変化しており、少なくとも初めて顔を合わせた時よりは、ずっと確かに結びついていく。

町から離れた、坂の上。人からは「お化け屋敷」と噂される、古びた洋館。そこに住むてんでウマの合わないキャラクターたち。団結…というのはいささか派手すぎる。ただ、まぁ独りでいるよりは、横にコイツがいた方がマシかな…と、そんな具合に変化していく様を、静かに読む物語です。

ただし難解な部分アリ、興味を持つのも難しいかも

本作の魅力である(と私が主張している)人物の変化ですが、そうだとして本作を見た場合、いくらかの難点もあります。

まず、人物がどのように変化したのか、また変化する前はどのような状態であったのかの描写が、明確でないこと。

これは描写が甘いだとかでなく、意図的にぼかしている印象を受けました。なにか変化を印象づけるイベントだとか、ドラマティック、あるいはエモーショナルな表現でそれを演出するような工夫を、あえて廃しているような印象をうけました(例外もあります)。そもそも文章として繋がりがおかしいシーンもあり、とにかくはっきり書くことを避けているように見える。
そのため、何の気無しにサラリと読んでいると、まさにサラリと過ぎて行ってしまう恐れがある作品です。

ならばと注意深く読んでみても、今度は意図されたと思われるぼかしにより、今一つ人物の変化がはっきりと捉えられず、モヤモヤするハメになります。
奈須きのこは本作をファミ通のインタビューなどで「しっとりした話」と語っており、おそらくあまりにわざとらしかったり、過度な印象付けを避けたのだと予測していますが…。

変化を楽しむにしても、その変化の様がよくわからない…みたいなことになりがちです。

ただ、仮にその人物の変化や心理がはっきりとつかめなくても、あまり問題ないとも考えています。

そもそも、ぼかしてある以上は、解釈をこちらに委ねたり、細かいところまで伝えなくとも良いという作り手の意思があるのだと思います。ならばいくらか難解で分からない部分があっても、最終的に受けた印象を大切にし、難解な部分は難解なまま受け取っても良いでしょう。

ただ分からないが故のモヤモヤはやっぱり気になるもので、そのような点が本作への不満になることは十分にあり得ますし、私自身もちょっと「うーん…」と思っています。

またもう一つの難点が、そもそも人物へ興味を持つことの難しい作品であることです。

本作は奈須きのこワールドにおける重要人物「蒼崎青子」の物語と知られています。だから青子に興味を持つ人は多いと思います。しかし、本作がスポットを当てるのは青子だけではありません。

『魔法使いの夜』には青子と同じくらい重要な人物が登場します。
その名は「静希草十郎」
彼は本作のもう一人の主人公と言ってよい人物です。本作は彼に、それこそ青子と同じくらいスポットを当てて描きます。
その変化していく過程が見どころ…なのですが…

そもそも、静希草十郎に興味を持ちやすい物語になっていないと感じました。

もともと興味のあった青子はともかく、静希草十郎は本作で突然でてきた人物です。だから彼にスポットを当てるならば、彼がどういう人物なのか?と興味をプレイヤーに抱かせるための仕掛けが必要です。しかし本作はそれが不十分だと感じました。振り返ってみればそのようなシーンは確かにありますが…

青子だけのお話…じゃあないんだよ、と言うことを知ったうえで遊ぶことをオススメします。

TYPE-MOON入門よりは2作目以降にオススメします

これは作品の評価とは関係のない話です。

『魔法使いの夜』はよく初めて遊ぶTYPE-MOON作品にオススメ!と言われています。

私もその主張は理解できます。まず本作はTYPE-MOON(というか奈須きのこ)ワールドの根幹をなす魔法と魔術について、詳細な説明があること。
Fate/stay night
月姫 -A piece of blue glass moon-
と比べて、プレイ時間が短く遊びやすいことなどがその理由でしょう。私もこれはその通りだと思います。

ただそのうえで、私は『魔法使いの夜』を入門ではなく、2作目以降に遊ぶことをオススメします。何故かと言えば、『魔法使いの夜』には分かりやすい面白さが少ないからです。

手に汗握るバトルだとか、涙を流さずにいられない告白のシーンだとか、そういうエンターテインメントらしい場面が『魔法使いの夜』にはあまりありません(ないわけではない)。作者本人をして「しっとり」と表現する本作は、入門の一作として選んでしまうと、レベルが高いのはわかるがもう一度遊びたいとは思えない…みたいな感想が出やすいのでは…と危惧します。

その点Fateと月姫はそうではないので、いずれも長編ですが、入門には良い作品だと思います。

また魔法や魔術の設定周りは、どの作品でも全然知らなくとも楽しめるので問題ありません。むしろ知らない方が設定の深みを味わえて良いと思います。

総評

バトルシーンのクオリティは十分すぎるほど。
しかし全体から見た分量はそれほどでもなく、また物語が戦いをメインにしているわけではありません。バトルものを期待しすぎると、やや肩透かしを食らうかも。

また、恋愛ものでもありません。いくらかそれを感じさせるシーンはありますが、はっきりとしたラブシーンは一切ありません。

しっとりと、人との出会いにより確かに変わっていく関係や心理が見どころです。難解だと感じたなら、そのままで構わない。
2人の魔女が住む、坂の上のお屋敷。ロケーションも相まって、静かに語られます。それを読むことを、楽しむ作品です。

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おまけ ネタバレあり感想

これより先は、本作のネタバレを含みます。
未プレイの方は、読まないでください

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