【ヘンタイ・プリズン】レビュー・評価 逆転×成長のエンターテインメント。ただし、ヘンタイは不在。

4.0
ADV(ノベル)
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・本作品は18歳未満、および高校生以下は購入、プレイできません。


ヘンタイ・プリズンは、Qruppoより発売された18禁アダルトゲームです。

監獄で繰り広げられる、予測のつかない逆転劇と成長ドラマに引き込まれました。

一方で、タイトルにも謳っておきながら、ヘンタイらしいヘンタイが存在しません。
そのため、物語の力、メッセージ性が弱まっているのが残念です。

タイトルヘンタイ・プリズン
ジャンルADV(ノベル)
対応機種PC
プレイ時間の目安40時間
備考本作品は18歳未満および高校生以下は購入、プレイできません。

総評

監獄を舞台にした、囚人たちの逆転劇
主人公とヒロインの成長ドラマ


これが本作の柱であると感じました。



本作の舞台は、ヘンタイばかりが集まる、孤島の監獄。
何らかの性犯罪を犯した囚人と、その性根を叩きなおさんとする看守が登場人物です。
主人公は「露出」の罪で投獄される少年。



内容は重く、陰鬱としています。
主人公は看守、他の囚人たちから、理不尽なほどの暴力、陰惨なイジメを受けます。

しかし彼は、ある信念に基づいて、時に無謀すら感じるほどの勇猛さでもって、これに立ち向かう。

このような内容を、鋭い(?)下ネタを大量に用いた「Qruppo節」で、重苦しくも軽妙な読み心地に仕上げている本作。
これは、性犯罪者だらけの監獄=ヘンタイプリズンで繰り広げられる、暴力とイジメへの逆転エンターテインメントなのです。

しかし、です。
逆転と言っても、主人公はそもそもが囚人。
犯罪者です。


いかに囚人とは言え、理不尽な攻撃を受ける謂れはないでしょう。
ですが、何らかの罪を犯したのも厳然たる事実。
彼らがただ反逆し、勝利するだけでは、勧善懲悪ならぬ勧悪懲善というもの。

もちろん本作は、そのような内容には終わりません。

では、主人公はどのように自身の罪を省み、どのような人物へと変わっていくのでしょうか?
そこに、ヒロインたちはどのように関わってくるのでしょうか?


この点で、本作のもう一つの魅力である成長ドラマが描かれます。

一度排除された者だからこそ見せる生き様、紡ぐ言葉が、印象的なシーンを作り出しています。

渾身の一作であることは疑いようのない「ヘンタイ・プリズン」

ですが、大変残念だった点があります。

それは、タイトルにも謳っておきながら、肝心の“ヘンタイ”の陰が、驚くほど薄いことです。


本作のテーマの一つに、世間から排除されたヘンタイの存在証明…というものがあります。

孤島の監獄に収監され、その存在を世間から抹消されながらも、主人公たちはありのままの自分の存在証明をしようと奮闘します。


しかし残念なことに、話が進めば進むほど、主人公もヒロインも、ヘンタイでなくなっていきます。
ヘンタイの監獄で、ヘンタイが作る物語の中心に、ヘンタイはいないのです。
ヘンタイの存在証明を、当事者でないものが叫んでも、実感を伴いません。


ヘンタイ性とは、世間には受け入れられないけれど、同時に絶対に捨てられない、その人の「自己」であると思います。
誰も好きじゃないものが好きで、それを変えられない。

そのようなヘンタイ性を持って生まれた人は、ではどのように「自己」を表現すればいいのでしょうか。
言うまでもなく、犯罪は絶対にいけません。
では、表現すること、理解されることを諦め、死ぬまで隠していなければならないのでしょうか。

ヘンタイは、本当の自分を、どのようにして叫べばよいのでしょうか。



このテーマ自体には感銘を受けました。
齢30にもなって18禁アダルトゲームが、ギャルゲーが好き…という変態性(ごく軽いものでしょうが)を抱えている私に、直接向けられているかのように思えました。
好きだ、と口にすることすら憚られる。
でも、好きでいることをやめられない。

ヘンタイ・プリズンの囚人たちは犯罪者です。
罪を償い、反省し、二度と繰り返してはいけません。
しかし、いくら逮捕されようと、ブタ箱に入れられようと、ヘンタイであることそのものは変えられないと思います。
私が18禁アダルトゲームを、ギャルゲーをやめられないように。

ではヘンタイは、永遠に自己を押さえつけるしかないのでしょうか?

このような物語でありながら、本作の中心に、ヘンタイはいません。
メインキャラに限って言えば、一人もいないくらいです。


ヒロインや主人公にも、ヘンタイであってほしかった。
誰にも受け入れられない何かを持っていてほしかった
そうであれば、思いを共有でき、本作の持つ力、メッセージ性は今以上に強くなったと思います。


とは言え、爽快な逆転劇。成長ドラマとして面白いのは間違いなし。
重たい“監獄もの”に多様な下ネタで緩急をつけ、軽やかにプレイヤーをのせてくれます。
ややご都合主義的に見えるシーンもありますが、なにぶん展開がダイナミックであるため呑まれてしまって気になりません。
業界トップクラスとなったQruppoの新作は、長大なボリュームですが、相応の読後感を味わえる力作でした。

更に細かくレビュー

個別ルートの度に、深まるキャラクター描写

本作の個別ルートは、その構造が良いものです。

というのも本作、各ルートごとに同一キャラクターを違う立場から描くため、1ルート終えるたびにキャラクターが立体的になっていくのです。

1キャラあたりの深みで言えば、やや物足りなくも感じます。

しかしエンディングの度にキャラクター描写が深まり、他ルートにおける行動の印象も変わっていく構造は、物語が途中で枝分かれするADVの特性を活かしたものだと感じました。

逆転劇、成長ドラマとして面白い本作。
くわえて、変化していくキャラクターへの印象にも注目して遊んでほしい一本です。

個別ルートに入った途端、揺らぐ主人公

総評に書いた点以外で気になったのは、個別ルートに入った途端に信念が揺らぐ主人公です。

主人公は自身の行いに強い信念を持っています。
絶対に譲れない者を抱えています。
そのため意志が強く、だからこそイジメや暴力にも屈しません。

このような主人公の核である部分が、個別ルートに入ると突然なくなってしまうように感じました。
それまで大切にしていたものを、あっさりと忘れてしまっているように見えるのです。


共通ルートで提示したものとのギャップが大きく、引っ掛かりが残ります。

本作の個別ルートは、攻略対象であるヒロインの成長が大きなテーマになっています。
そのためヒロイン主導の物語になっており、主人公はそれに合わせるように描いた結果なのかもしれません。

終わりに

テーマ、メッセージはたいへん良いものだと思います。

しかし、肝心要のヘンタイが不在なのは残念。
主人公のこだわりも、強さも、まずヘンタイであること=誰にも理解されないものを持っていることが根源にあるからこそだと思います。
その点で物語の力が削がれてしまっています。

一方、逆転×成長エンターテインメントとしては十分な面白さ。
揺らぎもはありますがメッセージも強く、印象に残る物語でした。
なかなかのボリュームなので、腰を据えて遊べる方にオススメの一本です。

おまけ 全個別ルート感想 ※ネタバレあり

プレイ済みの人のための、全個別ルートの簡単な感想です。

これよりは、本作のネタバレを含みます。
未プレイの方は読まないでください

コメント

  1. エロゲ好き より:

    この作品で語られていたのは主人公のネグレクト故の歪んだ承認欲求のため、ゲーム作りというのは実はそんなに重要では無いと思う。他人に自分を表現するという家庭でみとめられなかったことをゲームという形で初めて知っただけであり、本質は認められたいということを描いている。個別√はそれを恋愛という形で副産物的な形で解決しており、グランド√は主人公自身が成長する、大人になることで解決してると表現されている以上このレビューは少し理解が浅いのでは無いかと。あとこのレビューは主人公が露出狂になった理由などがフル無視でキャラ性ばかりであなたのレビューだとこの物語のメッセージ性が何の意味もなくなってしまう。主人公の根底にある承認欲求に着目したら、主人公の幼稚さや信念は揺らいでなどいないことがわかると思う。

    • dis-no1 より:

      コメントありがとうございます。
      なるほど、確かにそもそも自己表現の根底にあるのは承認欲求。他者から認められることだとすれば、ゲームを作ったかどうかは関係ないといえますね。
      個別ルートではヒロインからの承認で欲求が満たされ、結果ゲーム作りからは離れたけど、根底からは外れていないと。
      自分にはまず、承認欲求を満たすために露出をした…という解釈が出てきませんでいた。
      そのため、このような視点は出てきませんでした。ありがとうございます。

      ちなみに、ぜひお聞きしたいのですが、エロゲ好きさんが本作から感じたメッセージ性とは、具体的にどのようなものでしたか?
      もし可能ならば…でかまいません。非公開希望なら、そう書いていただければコメント欄には公開しません。

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