年末年始の休みに駅伝を見ていると、おもわず涙が流れそうになることがある。
特に感動するのは、肉離れでも起こしたのか、足を引きずるようにして、痛みに耐えながら走る選手の姿だ。
もちろん、医学的にでも見れば、すぐに走るのをやめるべきなんだと思う。
だが、どうしても目を奪われる。
苦しさ、痛みを抱えながら、それでも必死に前へと進む様に感動する。
頑張れ、諦めるなと言いたくなる。
風を切り1位を独走する選手よりも、下から這い上がろうとする選手の方が、ずっと応援したくなるのだ
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「マガツバライ」は能力者バトルを前面に出したADV、ギャルゲーです。
バトルシーンの面白さはさすが。
支える世界設定もユニークで、これは間違いなく本作最大の評価点です。
一方で、主人公の魅力不足、物語全体の面白さは今一つ。
主人公の掘り下げがなく、また敗北、失敗を味わうシーンもほとんどないため、共感できない内容になってしまっています。
タイトル | マガツバライ |
ジャンル | ADV(ギャルゲー) |
対応機種 | Switch |
価格 | [通常版]7,480円(税込) [DL版]6,800円(税込) |
プレイ時間の目安 | 15時間 |
総評
期待を下回った作品でした。
気になった点はいくつかあります。
主人公の掘り下げ不足。
バトルものでありながら、主人公を成長させる敗北がまるで無し。
修行も試行錯誤もなしに、ご都合主義で上手くいく物語などです。
根拠ある信念を持たず、恵まれた環境、仲間に助けられてばかりの主人公が、まるで実力で上回ったかのような大言と共に勝利し、更にそれを過剰に持ち上げる周囲の人物に今一つ共感できません。
恋愛とバトルの結びつきが弱い点も気になります。
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一方、バトルシーンの描写力と、世界設定の面白さは光る点です。
物語の展開には思うところがあります。
しかしひとたびバトルシーンに入れば、もっともっとと読ませる力を持っていると感じました。
またそれを支える世界設定も、既視感はありますが中二心をくすぐる点をおさえています。
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バトルシーンの面白さは、さすがです。
一亥ごとに変化する状況を、豊かな表現で描写しています。
演出も豪華で、バトルアドベンチャーと謳うだけのものがありました。
一方、物語全体で見ると、良い作品とは言えません。
深掘りも敗北もなく勝ってばかりの主人公にも、それを持ち上げる周囲にも、今一つ共感できない。
恋愛とバトルが噛み合っているとも思えず、熱くなるどころか、ついていけない寒さを感じるシーンばかりでした。
詳しいレビュー
巧みな描写のバトルシーン
本作の最大のポイントは、巧みかつ豊かな言葉で描写されるバトルシーンです。
本作はパッケージ裏にも「超爽快青春バトルアドベンチャー」と謳われています。
バトルを前面に押し出した作品であり、それにふさわしい内容でした。
技、術の威力やスピード。スケール。
変化する状況、心理。
このような点を、文章だけで感じさせます。
表現は決してスマートではありません。
装飾が多く、一文も長い。
しかし駆け引きのテンポが良く、見た目の演出もふんだんに用いられているため、読んでいてストレスがない。
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そんなバトルを更に面白くしているのが、本作の世界設定です。
本作は全てのキャラが、何かしらの“固有スキル”を持っています。
この性能が実にユニーク。
どれも特異な性能を持っており、かつ強力であるため、発動されれば大きくバトルを動かします。
描写力が光る技の応酬だけでも面白いのに、“固有スキル”が先を予測できないものにします。
このバトルシーンは、本作の大きな魅力であると感じました。
主人公の、掘り下げ不足
本作にはいくつか残念な点がありました。
その中でも最も気になったのは、主人公の掘り下げ不足です。
主人公「石動 隼人(いするぎ はやと)」は、熱血漢、正義感強し、仲間思い、苦しんでいる人を見かけたら助けるのが当たり前…
まっすぐな、実に主人公らしい性格をしています。
これ自体は良いと思います。
しかし気になったのは、このような性格の裏付けとなるエピソードが、ほとんど描写されない点です。
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正義感に燃えるのは良い。
困っている人は、助けるべきだと思います。
仲間や家族のために、平気で命をかけられるヤツは、カッコいいです。
ですが本作は、なぜ主人公がそんな性格になったのか?という点を、納得がいくほど描写してくれません。
主人公がこのような人物になったのには、何か理由があるのだと思います。
というか、理由がなければ、こんな人物にはなれないと思います。
なぜ、ここまで正義に燃えるのでしょう?
なぜ、命すら平気で張れるのでしょう?
そこに納得のいく理由が示されたとき、プレイヤーは主人公の正義に共感し、より深く物語に移入できるのだと思います。
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しかし本作はそのような描写をせず、ひたすら主人公に、根拠のない正義を叫ばせ続けます。
私は、これに薄さを感じました。
主人公はなぜここまで、正義に燃えるのか?
この点を掘り下げて、より人間らしい深みを持った人物にしてほしかった。
一方で、むしろ理由も根拠もないくせに、ひたすらに正義を貫ける姿こそが、主人公の魅力なのでは…とも思います。
ですが「深く考えたって仕方ねえや」と軽々しく命すら振りかざす主人公には、魅力よりも薄さ、信念の無さばかりを感じました。
そんな主人公を持ち上げ続ける周囲の人物にも、今一つ共感できません。
敗北が足りず、ご都合主義的
バトルものを最も面白くする要素の一つは、敗北であると思います。
現実世界じゃどんな事柄だって、初めから上手くいくことなんてありません。
だからこそ、主人公がまるで私たちのように敗北や失敗をし、しかし再び立ち上がる姿を見せたとき、その姿に感動し、応援したくなる気持ちが生まれます。
頑張れ、あきらめるな。
しかし本作の主人公は、そのような敗北あるいは失敗をほとんどしません。
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設定上は弱いはずの主人公。
ですが、作品世界で実力トップクラスの敵と戦うシーンは少なくありません。
その過程に敗北からの再起などがあれば、無謀に挑戦する主人公を応援したくなるというもの。
ところがそのような描写はなく(あってもギャグ的)、前述の正義感を振りかざして突っ込んでゆきます。
その後はしっぺ返しを食らうどころか、恵まれた環境、仲間の力を借りて、雲の上の存在に勝利します。
なんだか敵側に同情したくなってしまいます。
大きな敗北、失敗を味わうこともなく、たまたまあったもので実力をひっくり返す様を見ても、応援したくならないし、勝利に感動もできません。
本作にはプレイヤーの共感を誘う、敗北シーンが足りていないと感じました。
また修行や努力をほとんどせず、世界最強クラスの強敵を打ち破る展開は説得力がなく、ご都合主義に見えます。
しかしそのジャイアントキリングを周囲は持ち上げ、主人公の株はますます上がります。
「そう簡単にうまくいくものか」と思うこちらと、物語のテンションが乖離し、寒さを感じることすらありました。
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結びついてほしかった、恋愛とバトル
本作はバトルものであり、またギャルゲーでもあります。
3人のヒロインとの個別ルート、エピソードが用意されており、恋人になっていく姿が描かれます。
ヒロインはみな戦う力を持っており、実力は主人公を遥かに上回ります。
共に戦うシーンは多く、専用のCGも多く用意されている。
であるのに、主人公との恋心が、バトルとは関係ない日常でばかり育まれているのは、なんだかもったないと感じました。
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背中を預けて戦うのですから、恋愛も戦いのエピソードを通して描いてほしいのです。
お互い命をかけて共闘する以上、絆だって戦いの中で深まるはずです。
バトルと恋愛を結び付け、かけがえのない存在同士になっていく…という展開を見たかった。
しかし本作の恋愛は、バトルとは関係ない日常シーンでどんどん進展していきます。
せっかくこれだけ優れたバトルシーンがあるのだから、恋愛もそこに絡めてよかったのではと感じました。
終わりに
期待値を下回った作品でした。
バトルシーンの面白さはA級。
言葉遣いが巧みなうえに、優れた世界設定が無二の展開を生み出します。
演出も〇
ただ主人公に共感できず、物語に胸を打たれません。
プレイヤーを熱くさせるものが不足しています。
特に主人公が魅力的に見えなかったのが、残念な作品です。
テキストADVファンによる、テキストADVファンのための、オリジナル雑誌“風”記事。
「テキストADVマガジン」を、月に一度公開しています。
CSの新作スケジュールから面白いフリーゲーム紹介、簡易レビューまで詰め込んだ、ADV好きのための記事です。
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