【マガツバライ】レビュー・評価 バトルは良し。しかし主人公、物語は難点多し

3.0
ADV(ノベル)
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年末年始の休みに駅伝を見ていると、おもわず涙が流れそうになることがある。
特に感動するのは、肉離れでも起こしたのか、足を引きずるようにして、痛みに耐えながら走る選手の姿だ。
もちろん、医学的にでも見れば、すぐに走るのをやめるべきなんだと思う。
だが、どうしても目を奪われる。
苦しさ、痛みを抱えながら、それでも必死に前へと進む様に感動する。
頑張れ、諦めるなと言いたくなる。
風を切り1位を独走する選手よりも、下から這い上がろうとする選手の方が、ずっと応援したくなるのだ

マガツバライ」は能力者バトルを前面に出したADV、ギャルゲーです。

バトルシーンの面白さはさすが。
支える世界設定もユニークで、これは間違いなく本作最大の評価点です。


一方で、主人公の魅力不足、物語全体の面白さは今一つ。
主人公の掘り下げがなく、また敗北、失敗を味わうシーンもほとんどないため、共感できない内容になってしまっています。

タイトルマガツバライ
ジャンルADV(ギャルゲー)
対応機種Switch
価格[通常版]7,480円(税込)
[DL版]6,800円(税込)
プレイ時間の目安15時間

総評

期待を下回った作品でした。

気になった点はいくつかあります。

主人公の掘り下げ不足。
バトルものでありながら、主人公を成長させる敗北がまるで無し。
修行も試行錯誤もなしに、ご都合主義で上手くいく物語などです。

根拠ある信念を持たず、恵まれた環境、仲間に助けられてばかりの主人公が、まるで実力で上回ったかのような大言と共に勝利し、更にそれを過剰に持ち上げる周囲の人物に今一つ共感できません。

恋愛とバトルの結びつきが弱い点も気になります。


一方、バトルシーンの描写力と、世界設定の面白さは光る点です。

物語の展開には思うところがあります。
しかしひとたびバトルシーンに入れば、もっともっとと読ませる力を持っていると感じました。

またそれを支える世界設定も、既視感はありますが中二心をくすぐる点をおさえています。

バトルシーンの面白さは、さすがです。
一亥ごとに変化する状況を、豊かな表現で描写しています。
演出も豪華で、バトルアドベンチャーと謳うだけのものがありました。

一方、物語全体で見ると、良い作品とは言えません。
深掘りも敗北もなく勝ってばかりの主人公にも、それを持ち上げる周囲にも、今一つ共感できない。
恋愛とバトルが噛み合っているとも思えず、熱くなるどころか、ついていけない寒さを感じるシーンばかりでした。

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詳しいレビュー

巧みな描写のバトルシーン

本作の最大のポイントは、巧みかつ豊かな言葉で描写されるバトルシーンです。

本作はパッケージ裏にも「超爽快青春バトルアドベンチャー」と謳われています。
バトルを前面に押し出した作品であり、それにふさわしい内容でした。

技、術の威力やスピード。スケール。
変化する状況、心理。

このような点を、文章だけで感じさせます。

表現は決してスマートではありません。
装飾が多く、一文も長い。
しかし駆け引きのテンポが良く、見た目の演出もふんだんに用いられているため、読んでいてストレスがない。

そんなバトルを更に面白くしているのが、本作の世界設定です。

本作は全てのキャラが、何かしらの“固有スキル”を持っています。
この性能が実にユニーク。
どれも特異な性能を持っており、かつ強力であるため、発動されれば大きくバトルを動かします。

描写力が光る技の応酬だけでも面白いのに、“固有スキル”が先を予測できないものにします。

このバトルシーンは、本作の大きな魅力であると感じました。

主人公の、掘り下げ不足

本作にはいくつか残念な点がありました。
その中でも最も気になったのは、主人公の掘り下げ不足です。

主人公「石動 隼人(いするぎ はやと)」は、熱血漢、正義感強し、仲間思い、苦しんでいる人を見かけたら助けるのが当たり前…
まっすぐな、実に主人公らしい性格をしています。

これ自体は良いと思います。

しかし気になったのは、このような性格の裏付けとなるエピソードが、ほとんど描写されない点です。



正義感に燃えるのは良い。
困っている人は、助けるべきだと思います。
仲間や家族のために、平気で命をかけられるヤツは、カッコいいです。

ですが本作は、なぜ主人公がそんな性格になったのか?という点を、納得がいくほど描写してくれません。
主人公がこのような人物になったのには、何か理由があるのだと思います。
というか、理由がなければ、こんな人物にはなれないと思います。

なぜ、ここまで正義に燃えるのでしょう?
なぜ、命すら平気で張れるのでしょう?


そこに納得のいく理由が示されたとき、プレイヤーは主人公の正義に共感し、より深く物語に移入できるのだと思います。



しかし本作はそのような描写をせず、ひたすら主人公に、根拠のない正義を叫ばせ続けます。
私は、これに薄さを感じました。
主人公はなぜここまで、正義に燃えるのか?
この点を掘り下げて、より人間らしい深みを持った人物にしてほしかった。

一方で、むしろ理由も根拠もないくせに、ひたすらに正義を貫ける姿こそが、主人公の魅力なのでは…とも思います。

ですが「深く考えたって仕方ねえや」と軽々しく命すら振りかざす主人公には、魅力よりも薄さ、信念の無さばかりを感じました。
そんな主人公を持ち上げ続ける周囲の人物にも、今一つ共感できません。

敗北が足りず、ご都合主義的

バトルものを最も面白くする要素の一つは、敗北であると思います。

現実世界じゃどんな事柄だって、初めから上手くいくことなんてありません。
だからこそ、主人公がまるで私たちのように敗北や失敗をし、しかし再び立ち上がる姿を見せたとき、その姿に感動し、応援したくなる気持ちが生まれます。
頑張れ、あきらめるな。

しかし本作の主人公は、そのような敗北あるいは失敗をほとんどしません。



設定上は弱いはずの主人公。
ですが、作品世界で実力トップクラスの敵と戦うシーンは少なくありません。
その過程に敗北からの再起などがあれば、無謀に挑戦する主人公を応援したくなるというもの。
ところがそのような描写はなく(あってもギャグ的)、前述の正義感を振りかざして突っ込んでゆきます。

その後はしっぺ返しを食らうどころか、恵まれた環境、仲間の力を借りて、雲の上の存在に勝利します。
なんだか敵側に同情したくなってしまいます。

大きな敗北、失敗を味わうこともなく、たまたまあったもので実力をひっくり返す様を見ても、応援したくならないし、勝利に感動もできません。
本作にはプレイヤーの共感を誘う、敗北シーンが足りていないと感じました。


また修行や努力をほとんどせず、世界最強クラスの強敵を打ち破る展開は説得力がなく、ご都合主義に見えます。
しかしそのジャイアントキリングを周囲は持ち上げ、主人公の株はますます上がります。
「そう簡単にうまくいくものか」と思うこちらと、物語のテンションが乖離し、寒さを感じることすらありました。

結びついてほしかった、恋愛とバトル

本作はバトルものであり、またギャルゲーでもあります。
3人のヒロインとの個別ルート、エピソードが用意されており、恋人になっていく姿が描かれます。

ヒロインはみな戦う力を持っており、実力は主人公を遥かに上回ります。
共に戦うシーンは多く、専用のCGも多く用意されている。

であるのに、主人公との恋心が、バトルとは関係ない日常でばかり育まれているのは、なんだかもったないと感じました。



背中を預けて戦うのですから、恋愛も戦いのエピソードを通して描いてほしいのです。
お互い命をかけて共闘する以上、絆だって戦いの中で深まるはずです。
バトルと恋愛を結び付け、かけがえのない存在同士になっていく…という展開を見たかった。

しかし本作の恋愛は、バトルとは関係ない日常シーンでどんどん進展していきます。

せっかくこれだけ優れたバトルシーンがあるのだから、恋愛もそこに絡めてよかったのではと感じました。

終わりに

期待値を下回った作品でした。

バトルシーンの面白さはA級。
言葉遣いが巧みなうえに、優れた世界設定が無二の展開を生み出します。
演出も〇


ただ主人公に共感できず、物語に胸を打たれません。
プレイヤーを熱くさせるものが不足しています。
特に主人公が魅力的に見えなかったのが、残念
作品です

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