長ったらしい前置きを→飛ばす
音楽に合わせて、身体を動かす。
これを楽しい感じる僕たちの遺伝子は、原始の時代から脈々と受け継がれているのかもしれない。
調べてみると現在確認されている世界最古の楽器は、4万年前のものらしい。文明が起こるずっと前。既に人類は音楽を奏でていた。
そしてその音楽に合わせて身体を動かすと言えば、ダンスだ。
その起源として確認できる最古のものが、8000年前のエジプトの壁画らしい。楽器と比べるとずいぶん開きがあるから、記録にないだけでもっとずっと昔からあったと考えてもよさそう。
木の実とか野生動物の肉とかで生計を立てていた時代から、人類はずっと音楽を奏でて、それに合わせて身体を動かしてきた。その文化はご存じの通り、現代でも変わらない。そしてビデオゲームの歴史において、音楽とそれに合わせて身体を動かす楽しみを表現し続けてきたのが、音ゲーと呼ばれるジャンルの作品群だ。
その元祖がなんであるかは、ファンの間でも意見がわかれる。ただ今でも変わらないこのジャンルのテンプレートを作り上げたゲームが、コナミの『beatmania』(以下、ビーマニ)であることには、誰も異論がないと思う(あったら教えてください)
ビーマニは、上から落ちてくるオブジェが、画面下部にある判定ラインに重なった瞬間にボタンを押すゲームだ。オブジェは音楽に合わせて降ってくるから、目押しよりもビートにノることが大切。
このシステムや画面レイアウトは、それこそ『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』なんかでも変わらず採用されていて、正に音ゲーのテンプレートと言っていい。これを流用したビーマニクローンは無数にあって、かつては訴訟問題になったこともあった。コナミ自身もこれを基本に発展させた『pop’n music』や『SOUND VOLTEX』などを開発、いくつもの音ゲーをアーケードシーンでヒットさせてきた。
さてそんな音ゲーにおいて、この界隈でしか使われない(恐らく)面白い音ゲー用語がある。
それは『叩く』だ。
叩くとは炎上とかバッシングとかの意味でなく、動作としての叩くことを言う。そして音ゲーマーたちは、音ゲーをプレイすることを「〇〇を叩く」と表現することがしばしばある。
例:「ドレミの歌を叩いてきた」(ドレミの歌をプレイしてきた、の意)
例:「もりのくまさん、難しすぎて全然叩けない」(もりのくまさんをプレイしたが難しくて上手にできなかった、の意)
筆者自身も音ゲーマーなので、この「叩く」の用法に違和感はないのだけど、考えてみると不思議だ。なぜ音ゲーマーは、楽曲をプレイすることを「叩く」と言うのだろう?
これは恐らくだけど、音ゲーをプレイするうえでは「ボタンを押す」とか「画面をタップする」という表現よりも、もう少し勢いのついた「叩く」の方が、ずっとしっくり来るからじゃないかと思う。
音ゲーはそのリズムや音楽に合わせて動作する。そして音楽に合わせていると、自然と動作に力が入る。だから押す、タップするでなく、感覚の上では叩く動作に近くなってくる。音楽に合わせて手拍子をするときのような、そんな力の入り方に自然となる。だから叩くという表現が生まれ、使われるようになったのではないかと予想する(正確なところは調べていません)。
つまり音ゲーは、ボタンを押すというあらゆるゲームの基本となる動作を音楽に合わせることで『叩く』プレイ感覚を生み出した。それは単なる感覚の上だけの話でなく、本来であればいち動作でしかない「ボタンを押す」あるいは「画面をタップする」という行為が、音ゲーをプレイしていると自然と、まるで音楽に合わせて手を叩くような気持ち良さを含んだ「叩く」に変化していくからこそ生まれた表現でないかと考える。
元祖がビーマニか『パラッパラッパー』か、あるいはまったく別の作品か。それは知る由もないけれど、音ゲーは「ボタンを押す」を、音楽に合わせて身体を動かす楽しみにリンクさせて、だから「叩く」という表現が生まれた。
音ゲーを遊んでいると、自然とボタンや画面を叩くように動いてしまう。だから「押す」でも「タップする」でもない。「叩く」なのだ。
本来ゲームのボタンを叩くように押すことは、筐体へのダメージなんかから考えても望ましくない行為のはず。だが最近の…とくにアーケードシーンでの音ゲーは、そのいずれもが明らかに「叩く」気持ち良さ、叩き心地とでも言うべきもの重視している。このことから音楽に合わせて「叩く」楽しさが音ゲーの醍醐味の一つであることは、当然開発側にも認知されており、それが十分に味わえることを考えて音ゲーが生み出されていることが伺える。
例えば2022年12月1日稼働開始したタイトーの最新アーケード音楽ゲーム『MUSIC DIVER』は、明らかに「叩く」爽快感を重視したゲームだ。
専用のスティックを使って画面(!)とその縁を、文字通り叩いて遊ぶ本作。スティックも筐体も重さや素材など設計レベルでの拘りが見え、その証拠に画面を叩くと実に小気味よくスティックが跳ね返ってくる。思わず何度も叩きたくなる気持ち良さがあって、いざ音楽に合わせてプレイすればそれは倍増。設置店舗が限られているが、見かけた際にはぜひ一度、スティックを握って叩いてみてほしい。そのままコインを入れて1プレイしてみたくなるはず。
つまるところ、音楽ゲームは、ボタンを押す行為を音楽に合わせることで、叩く気持ち良さを生み出し、その発展は今も変わらず続いているわけだ。
さてそんな音楽ゲームだけど、VRシーンにおいて、ここに全く新しい気持ち良さを組み合わせるゲームが現れた。
音楽に合わせて「斬る」音ゲー。『Beat Saber』だ。
『Beat Saber』はチェコのBeat Gamesが開発したVR用音ゲーだ。一見して分かる最大の特徴は、音楽に合わせてオブジェを「斬る」ゲームであること。
ビーマニを元祖とする音ゲーは、その大半が「叩く」ゲームだった。ビデオゲームにはプレイヤーの操作を受け付ける入力デバイスが必要で、その最たるものがボタンやタッチパネルであったため、これは自然なことだった。しかし任天堂の『Wii』やマイクロソフトの『Kinect』、更にSIEの『PlayStation VR』の登場により、いよいよその縛りからも解き放たれた音楽ゲームが世に出た。
『Beat Saber』はその一つで、プレイヤーが両手に握ったコントローラーをそのタイトル通り、ライトセイバーに見立てて遊ぶ音楽ゲームだ。
音楽に合わせて画面奥からオブジェが突っ込んでくる。プレイヤーはそれに合わせてコントローラーを「振って」遊ぶ。判定ラインにオブジェが重なった瞬間、指定された方向にコントローラーを「振る」。この時ボタンを押す必要はない。そして画面上ではオブジェが刀に両断されるように演出されるため、「斬る」音ゲーとして本作は大ヒットした。
それこそSAMURAIにでもなったかのように、オブジェを次から次へと一刀のもとに両断する。それだけでも何だか気持ちよさそうなこの動作に、『Beat Saber』は音楽に合わせて身体を動かす楽しみをミックスした。
音楽に合わせてライトセイバーを振る。斬る。ビートにノッて、斬りまくる。
ボタンやタッチパネルを必要としない入力デバイスが、「叩く」以外の動作を音楽ゲームに組み合わせることを可能した。『Beat Saber』はその最も印象的な成功例の一つだ。
ずいぶん前置きが長くなった。
今回レビューする『Kizuna AI – Touch the Beat!』
本作は『Beat Saber』同様、VR対応の音楽ゲームだ。
一応VR無しでも遊べるけれど、PSVR2の発売と同時に配信されていることから、VRでのプレイに重きをおいた作品として見ていいと思う。
筆者はそこそこの音ゲーマーだと自負しているけれど、実は『Kizuna AI – Touch the Beat!』のレビューをこうしてブログで書くつもりはなかった。なぜならキズナアイにあまり思い入れがないから。
さすがに名前は知っているし、彼女が歌う楽曲にはいくつかマイリストに入れたものもあったけれど、逆に言えばその程度。動画はあんまり見たことない。そんな状態でキズナアイの名を冠するゲームを遊んでやれ評価だレビューだと書いても、楽しんでいるファンに水を差すようなことにしかならない。PSVR2を入手して、目に付いたのが本作であったから購入したけど、ぶっちゃけると期待値はそうでもなかった。
が、今はこうして筆を執っている。土曜の朝っぱらから、昨日一昨日届いた新作ゲームの封も開けず、長ったらしい前置きまで考えて、こうしてキーボードを叩いている。
是非書きたいと思ったからだ。
『Kizuna AI – Touch the Beat!』は、もっと注目されてもいい。いちファン向けゲームとして流されてしまうには惜しい。レビューを読んだ人に、せめて認知だけでもしてもらいたい。
実際にプレイしてそんな気持ちが生まれて、だから書きたいと思った。
なぜそんな気持ちが生まれたのか?
それは『Kizuna AI – Touch the Beat!』が、言わば「打ち返す」音ゲーだったからだ。
「叩く」でも「斬る」でもない。「打ち返す」音ゲーだったからだ。
今度はビートを、打ち返せ
『Kizuna AI – Touch the Beat!』の根本のシステムは『Beat Saber』と同様と言って差し支えない。
VRゴーグルをはめるとキズナアイとプレイヤー、二人だけの空間が広がっている。キズナアイは空間奥で歌い踊る。音楽に合わせてプレイヤーに向かってオブジェが飛んでくる。プレイヤーの目の前には円形で不可視の判定ラインがあって、それとオブジェが重なった瞬間、そのオブジェの位置にコントローラーがあればGood判定になる。
円状の判定ラインに合わせて、オブジェに重なるようにコントローラーを動かすイメージだ。
『Beat Saber』ではこのオブジェを「斬る」必要があったが、本作にそのような仕組みはない。本当にオブジェとコントローラーが重なっていればOKで、ゆっくり動かしても問題ないし、ボタンを押す必要もない。
さて、これだけなら斬らない『Beat Saber』…と表現できてしまわなくもない本作。
が、筆者がユニークだと思ったのはここからだ。
というのも、本作の音楽に合わせて向かってくるオブジェは、プレイヤーのコントローラーと重なった瞬間、画面奥へと弾き飛んでいくように演出される。
テニス、あるいは野球の打撃。そのジャストミートを思い浮かべてほしい。スコン、あるいはカキンと鳴って、ボールが吹っ飛ぶあの感覚を想像してほしい。あの感覚で、オブジェが吹っ飛んでいく。
向かってくるオブジェに対して、派手に動作する必要はない。ただ重ねるだけでいい。だがそうして重ねるたび、オブジェはゴムボールのように、小気味いいSEと共に画面奥へと跳ね返っていくのだ。
これが面白いと思った。だってメチャクチャ気持ちいい。プレイヤーがコントローラーを右に振ってオブジェを受けると、オブジェは右に吹っ飛んでいく。左なら左に。カチあげれば上に。するとどうだろう。本来であればその必要はないのに、まるでコントローラーをラケットのように振って遊んでしまうのだ。
リズミカルなキズナアイ楽曲と、今まさに目の前でパフォーマンスするキズナアイ本人。そのビートに合わせて飛来するオブジェを、次から次へと跳ね返す。右上に飛来してきたオブジェをフォアハンド、更に流れるように左下をそのままバックハンド。
この気持ち良さは何だ?
ビーマニの「叩く」じゃない。
『Beat Saber』の「斬る」でもない。
そうだ、「打ち返す」だ。
『Kizuna AI – Touch the Beat!』は「打ち返す」音ゲーだッ!!!!
プレイしすぎて、目が乾いた。ついでに寝不足だ。
とはいえ、音ゲーとしては難もあり
まぁ正直、「打ち返す」音ゲーの元祖が本作であるかは、筆者にはわからない。
PSVRに飽きて以降はVRからすっかり離れていたし、歴史に詳しいわけでもないし。だが少なくともこの感覚は筆者がこれまで遊んできた音ゲーでは得られなかったもので、本作は音楽ゲームと新たな動作をミックスしたと感じた。それは「打ち返す」動作だ。
これはぜひ多くの人に体験してほしいと思った。体験版がないのが悔やまれる。だからこうしてレビューを書くことにしたってわけ。
そして書く以上、本作のもったいない点にも触れないといけない。
まず収録曲数だけど、はっきり言っちまえば値段に対して少ない。15曲くらい。VRってことで1プレイの消耗が大きいので今のところ気にならないけど、値段を考えれば倍は欲しかった。とはいえ開発規模や予算的に難しい部分も大きいとは思います。
曲がどれもフル尺なのも賛否分かれる点でしょう。
あと上記の「打ち返す」だけど、ここに書いた以上の遊びはありません。
つまり演出として打ち返すように表現されていて、それが新しい動作の気持ち良さに繋がっているけれど、その「打ち返す」の楽しさを更に増幅させるような遊び、仕組みは特にないってこと。
これはもったいない点だと感じます。開発側が「打ち返す」気持ち良さを生み出していることに無自覚だったりするのかもしれません。
非VRモードは平凡
本作はVRを使わなくとも遊べますが、こちらは途端に評価が凡まで下がります。
正にテンプレートなビーマニクローンで、VRモードの気持ち良さは味わえず。かなりシンプルな仕上がりで、これこそキズナアイファン向けの印象です。
総評…VR環境ありならオススメ。
VR環境があるならばぜひ一度体験してほしい作品。
惜しい点は次から次へと浮かびますが、それでもプレイ中の「打ち返す」の楽しさは格別です。コントローラーまで吹っ飛ばさないよう、ストラップはしっかりつけてどうぞ。
一方、VR環境がないならば一気に凡作へと評価が下がります。
コメント
個人的にはビートマニアよりもパラッパが草分けだと思っています
コメントありがとうございます。
時系列で見た元祖がパラッパラッパーというのは、自分も異論ありません。