【リメイク版ファミコン探偵俱楽部】レビュー・評価 30年の時を超え、怨念と恐怖のミステリーADVここに復活

ADV(ノベル)
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ドラゴンクエスト3の発売、青函トンネル開通、東京ドームオープン…
こんな歴史に残る出来事と同い年のゲームが、30年の時を越えてリメイクされました。

その名は「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者/うしろに立つ少女」
本作はもともとファミコン用ソフトとして1988年、89年に発売。
当時のゲーマーたちから高い評価を受けた作品です。
いまなお語り継がれる作品でありながら、実機以外ではWii U、3DSのバーチャルコンソールで遊ぶしかありませんでした。それが令和になり、本作を愛するクリエイターたちの手によって蘇ったのです。

良くも悪くも原作を守りながらのリメイク。
そのため、古いゲームらしい遊びづらさ、面倒臭さを感じる点があったのは事実です。

しかし、30年前の作品でありながら今見ても「良い」と言えるシナリオは必見。
古典的な名作を、今になって最新のハードで遊べる喜びを感じた作品でした。
もちろん当時を思い出しながら遊びたいベテランゲーマーへの配慮も十分。
全てのADV好きにオススメできる一作です。

タイトルファミコン探偵俱楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女
ジャンルADV
対応機種Switch
価格ダウンロード版 4378円 (バラ売り)
パッケージ版 10978円(両方収録。特典多数。)
プレイ時間の目安各5~10時間
備考パッケージ版の二作のばら売りは無し

総評

本作はそれぞれ1988年、89年に発売された作品のリメイク作です。

主人公は「空木(うつぎ)探偵事務所」にて助手を務める青年
ある目的を持ち探偵稼業を手伝う最中、突如舞い込んできた不可解な殺人事件を解決する…というストーリーです。

もっとも古いジャンルの一つである、コマンド選択式ADV。
「移動」「聞く」「調べる」などのコマンドを選択し、情報を集めながら事件の解決を目指します。



探偵倶楽部、と言っても、本作は基本的に一本道のノベルゲーです。
細かい選択はあるもののエンディングは一つ。
ただし、ただ読むだけではたどり着けません。
様々な場所でたくさんの人物に「聞く」を繰り返し、情報を集めます。
真相に迫る情報のカケラを集めることで、シナリオは少しずつ進行。事件の全容が見えてきます。

誰に何を聞けばいいのか、のヒントは無し。
間違えてもペナルティはないので、とにかく片っ端から「聞く」を繰り返します。
そのため、「総当たり」と呼ばれることもあるタイプのADVです。

私自身、基本は読むだけで、たまに選択肢が出てくる…というタイプのADVに慣れているため、さすがに遊んでいて面倒くささを感じました。
一人の人物に対して実行できるコマンドが多いため、総当たりで正解を探すのが基本。
それがなかなか見つからず迷ってしまうこともあり、シナリオが進まずやきもきさせられることも。
迷うと言っても、時間にして数分ではあります。
しかしこれを最初から最後まで繰り返すため、後半は飽きも感じてきます。

しかしこれは決して、悪い点とは言えません。
なにせもとは30年前のゲーム。
こういった時代相応の不親切さも、レトロADVの醍醐味。
原作のプレイ感覚を損なわないよう、丁寧にリメイクしたがゆえの仕様と言えます。

そんなあえての不親切さを抱えた本作

この点を考えても、やはり面白いゲームだった…と断言できます
その理由は、今を基準に見ても抜群に面白いシナリオにあります。

両作とも、初めは謎は多いものの1つの事件。
しかしゲームを進めるたびに謎は連鎖、事件はより複雑怪奇なものへと変わっていきます。



「消えた後継者」では、怨念と欲望、そして死者が蘇るという伝説にもとづく不可解な連続殺人が。「うしろに立つ少女」ではガラリと雰囲気を変え、ある学校で噂される「うしろの少女」という怪談を主題にした不気味なストーリーが展開されます。

どちらも単なる殺人事件に終わらない、人の思惑を超えた存在を感じさせる内容。
両作とも、よほどの名探偵でもなければ必ず驚くであろう仕掛けも施されており、忘れられない作品になりました。
詳細は伏せますが、殺意を追った先に浮かんだ人を想う愛情に、思わず涙が流れそうになることも。
シナリオの面白さは、現代のADVに全く引けを取りません。


忠実に移植しているぶん、現代のADV基準で見ると面倒くさいと感じてしまう部分はあります。
やはり「好きな人向け」の作品でしょう。


それでも、興味があるならぜひ遊んでほしい一作。
古典ADVの名作として語り継がれるのも納得のシナリオです。

ひたすら地道にコマンドを選択するのは、はっきり言って古い遊びかもしれません。
しかしやがて真相が見え隠れする頃には、すっかり主人公として探偵気分を味わっている自分がいる。
怪事件を追う主人公、30年前にこの作品に夢中になったゲーマー、今このゲームを遊ぶ私たちを一つに繋ぐ渾身のリメイクである本作。
ADVマニアならば、見逃す手はありません。

詳しいレビュー

ただの「推理もの」に終わらない、ハイレベルなシナリオ

本作の主題となっているのは殺人事件の捜査、推理です。
しかし展開されるシナリオは、その枠内だけでは終わりません。

もちろん、推理ものとしても十分な面白さ。
一つの殺人事件がさらなる殺人、謎を呼び、その裏に渦巻くのは殺意を超えた恐ろしい存在です。

しかし、本作のシナリオの最大の見所は、そんな推理ものとしての面白さを更に超えたところにあります。
事件を追ううちに見えてくる真相は、ゾッとするほど恐ろしい恨み、時には胸をうつ感動も。
推理を通して体験するのは、心動かされるシナリオです。

このハイレベルなシナリオが、本作を単なる犯人当てゲームには留まらせません。
探偵気分を味わう以上の面白さを持っています。

ADVの魂とも言えるシナリオ。その点において、大変満足のいく作品でした。

地道なコマンド選択が生み出す、探偵気分

上記の通り、本作はコマンド選択型のADV。
「聞く」「見せる」「呼ぶ」…ゲームクリアまでに、何度もこれらコマンドを選択することになります。
どのコマンドを誰に実行すればシナリオが進行するか、これについてのヒントは無し。
とにかく、片っ端から選びまくる必要があります。

コマンドの種類が非常に多いため、どれを選べばいいかわからず悩むことは多いです。
正しいコマンドを選ばないと話が進行せず、同じ会話を繰り返すことに。
とにかく会う人全員にコマンド総当たりで試すのが最適解なのですが、これは正直面倒くさい。
さすがに遊びとしては不親切で、古いものだと感じました。

しかし同時にこの不親切さこそが、醍醐味である「探偵気分」に密接につながっているとも感じます。

たくさんの人に話を聞いて情報を集める主人公の姿は、さながらサスペンスドラマの刑事のよう。
基本はハズレばかりで面倒なのですが、当たりを選べば重要な手がかりを入手。
そうしてひたすらコマンド選択を繰り返す内に、次第に探偵気分を味わってしまっている自分がいます。
これは読むだけの推理ADVでは味わえないもの。

一手間あるからこそ、事件を解いている感覚を存分に味わえます。
遊びとしては古く、面倒なコマンド選択
しかし探偵気分をじっくり味わいたい!という人には、そんな面倒くささを超えた楽しみをもたらすものです

紙芝居を完全に超えた「動く」演出

シナリオ、遊びの部分には大きく手を加えずに現作を守っている本作。
では、どこにリメイクしたがゆえの進化を感じられるのでしょうか?

その答えの一つは、他のADVとは一線を画す「動く」演出にあります。

本作は1枚絵、立ち絵、背景含めてとにかく動きます。それも瞬きや口パク程度のものでありません。
「タバコを吸う」や「走る」などキャラの動作、そして背景を通過する人や車が、まるで動画のようにいきいきと動く。
滑らかで、関節の少ないロボットのようなぎこちなさもありません。

これらの演出が作品の臨場感を高め、よりシナリオを盛り上げていると感じました。



どうせ動かすなら全部3Dにすれば…?という意見もあるかもしれません
しかし、この手のテキストADVを下手に3Dにすると、かえってチープさや不自然さが目立つことがあります。
死体などはイラストの方が、よりインパクトの強い表現ができるのも利点です。

あくまでADVマニア向けのゲーム

名作ADVのリメイクとして、素晴らしい出来の本作。
しかし、忠実にリメイクしているからこそ、ADV好きにしかオススメできない内容になっていると感じました。

コマンド選択があるとはいえ、基本は一本道のノベルゲー厶。
遊びとしての新しさはなく、シナリオそのもの、探偵気分を味わうことを楽しめないと、とても地味なゲームに感じるでしょう。
原作通りの面倒くささの残る仕様は、「古き良き」と一概には言い切れません。
ADV好きによるADV好きのための…な作品です。

当時遊んでいたベテランゲーマー、もしくはADVが大好きだ、という人でないと、本作はオススメできません。

終わりに

いかに名作とはいえ、最新のゲームに慣れていると古い作品には手を出しづらいもの。
それでも「ファミ探」はずっと遊んでみたいと思っていた作品でした。
なので、このリメイクはありがたいです。

開発者の話などを聞くと、やはりリメイク実現までの道のりは決して楽ではなかったようです。
本作を愛するクリエイターたちの手によって、蘇ったファミ探。

人を選ぶ作品であるのは否めません。
ですが、当時夢中になったベテランにはもちろん、現役のADV好きにならば、自信を持ってオススメできる作品です。

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