触れたい点にはレビュー内で触れたため、補足的な内容になります。
CASE1
ブログなどやっているため、とりわけ“書く”にスポットを当てたルートには、どうも涙腺が弱くなります。
それもあり、もっとも好きなルート(?)です。
端から見れば教え子相手に不貞行為に走る、禁断のルートではあります。
しかし主人公が凛に惹かれていくさま…状況と心理が十分納得いくほど描写されていたため、むしろ自然なことのようにすら思えました。
主人公の心理描写に特に力が入っており、徐々に暗い方へ落ちていくシーンにも怖いほどに説得力がある。
どう見ても道を誤っているのに、違和感を与えない恐ろしさを持っていると感じました。
また常に冷や水を浴びせる妻、祥子の存在も印象的。
ついに主人公を想う言葉を一切口にせず終わりましたが(出雲がそのように演じたとは言え)…
胸の内で主人公をどう思っていたのか…本音を聞いてみたいです。
しかし彼女がいるからこそ、凛と過ごす時間が輝いて見えます。
凛の言葉は、主人公にそれは強い力を与えていたと思います。
だから終盤の別離のシーンは、胸が苦しかった。
エンディングで凛がした決断には、上手く言い表せない気持ちにさせられました。
子を第一に考えるならば、もっと良いやり方があるように思います。
しかし主人公から何かを奪いたくない、良い母親になりたい一方で、秋房のようになりたくないという思いもあり…
余韻が強く、だからこそエピローグであっさり再開にしたのには残念な気持ちにさせられました。
もっとも、世凪の心情を思えば、ハッピーエンドで結ぶのは納得できるのですが。
CASE2
CASE1と比べると悪役、乗り越えるべきものがはっきりしており、エンターテインメントらしいルートだと感じます。
仲間との結束、権力者にその実力で認めさせる様など、CASE1よりもストレートな感情を伝えてくれる内容でした。
もっとも好きなシーンは、多くの人があげるでしょうが、ウィルがオリヴィアを後ろから抱きしめる場面。
はじめは頼りない印象だったウィル。
彼がオリヴィアにとって、誰よりも大切な存在に変わったのが分かるシーンでした。
ハムレット、ロミオとジュリエットなど、現代にも語り継がれる物語に収束していくさまに高揚感も覚えました。
物語好きでありながらシェイクスピアの作品に触れたことがないため、映画くらいは見なければ…とも。
一方気になったのは、エリザベス女王が主人公たちをどう思ったのかがはっきり示されないこと。
幕引きはあの形なのですから、もっと明確に賞賛されるシーンがあっても良かったのでは…と感じました。
CASE3
若さを感じるルートでした。
なりたい自分と、今それをガマンしている自分。
後者を脱ぎ捨てて、なりたい自分を目指して歩み始める主人公。
それは楽じゃないし、必ずしも正しいとは言い切れないでしょう。
でも歩まずにはいられない。だって人間、いつ死ぬかわかんないから。後悔したくないから。
未熟だけど強い主人公と、弱そうだけど結構人生知っちゃってるヒロイン。
二人がどんな化学反応を起こすのか、気になって仕方がありませんでした。
若くて悩みがちな主人公と、あっけらかんと進むヒロインの噛み合いっぷりが気持ち良い。
他のルートにないコメディタッチも新鮮です。
カンナは少年らしい強情さを持っていますが、一方でファインダー越しにしか素直になれない…なんだかラブソングの主人公のような純粋さを持っていて、そこに好感を持ちました。
たった一人で戦わざるを得ないように見えた主人公が、実は優しさに包まれていたことがわかったとき、CASE1とは違う感動を味わいました。
甘酸っぱいクライマックスも印象的。
目に見えない優しさと少年の成長、純粋さ…心を揺さぶられ続けました。
CASE0
ここにきて、物語の構造に驚かされました。
世凪はやがて記憶が失われることを想定しており、だからその時の感情を物語に込めて残しました。
プレイヤーは既にその物語を体験しています。
だから世凪が何を抱えているか、どのような人物であるかをわかっているし、だからこそ彼女の自我が崩壊していく姿を切なく思えます。
各CASEはそれだけでも面白い物語です。
しかしそれだけでなく、世凪という本作のメインヒロインの壮大な印象付けの役割も果たしていたことに脱帽しました。
ただ次々に明かされる真相に驚くばかりで、他のケースほど心情に乗り切れなかったのも事実です。
特に気になったのは、世凪の自我がアスマによってあっという間に奪い去られてしまうこと。
その後の展開を思えばじゅうぶん納得いきますが、失われていく過程をもう少しじわじわと見たかった。
そう感じました。
最後の別れのシーンもややキレイすぎて、この物語のクライマックスとしてはインパクトに欠けると思いました。
世凪は既に記憶を失っているので、どうにも無感情で淡々としているイメージを受けてしまいました。
もっともライター緒乃ワサビ氏は本作のテーマを「記憶と人格」としており、あのクライマックスの世凪に必要以上のキャラ付けは、あえてしなかったのかもしれません。
それぞれの抱く世凪のイメージで、彼女の人格をプレイヤーの胸に生み出してほしいと思っていたのかもしれない…とも思います。
衝撃の事実の連続で、ともすればダレてしまいがちな終盤でも一気に運んでくれるルートでした。
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