このレビューを書いているのはゴールデンウィークの最終日。
だいたい連休の最後は「また無為に過ごしてしまった」なんて罪悪感に苛まれがちです。
でも、今年ばかりはそれと無縁のよう。
「白昼夢の青写真」を遊び終えた今の私は、何だかとても、満たされた気持ちでいます。
この作品を、何者にもジャマされず、夢中になって遊ぶことができた。
それだけで、有意義な時間を過ごしたような気になってきます。
「白昼夢の青写真」はLaplacianが送る大作ADVです。
物語の構造もさることながら、何よりも深みある人物、心理描写がもたらす主人公との一体感が素晴らしい作品。
物語にトリップし、何度も心を揺さぶられながらプレイしました。
名作です。
タイトル | 白昼夢の青写真 |
ジャンル | SFADV(ノベル) |
対応機種 | Steam |
価格 | 4,800円 |
プレイ時間の目安 | 30時間 |
総評
名作でありました。
このような作品に出会えたことを、嬉しく思います。
私が感じた、本作の最大の魅力。
それは深みある人物、心理描写。
それがもたらす主人公とプレイヤーの一体感、物語への没入です。
物語の主人公は、現実世界のプレイヤーと同じように、現状に対する悩み、不満を持っています。
本作はまず、その巧みな心理描写でもって、主人公の抱える悩みを、誰もが共感できるところまで掘り起こしていく。
現実のプレイヤーとは別の世界かつ時代、更に特殊な設定の中で生きる主人公。
しかし悩みの根源は、私たち現実世界のプレイヤーと何ら変わらない、普遍的なものであることを伝えてきます。
それはかつて諦めた夢への未練。
あるいは、やりたいくないこと、行きたくない場所に縛られる不満。
あるいは、生まれながらに運命づけられる、理不尽なものへの怒り。
一見特殊な彼らも、その悩みの本質はプレイヤーと変わらない。
似たようなことで悩み、つらい思いをしているじゃないか。
モニターの向こう側にいる彼と、こちら側にいる私。
これを見事な心理描写で、繋いでくれるのです。
そうして「彼と自分は同じだ」と知ったとき、プレイヤーは彼に共感し、心情を重ねていく。
本作はこの、プレイヤーと主人公を一体化させる心理描写が、格段に良い作品です。
人間心理は複雑です。
そのため、ちょっとやそっとの描写では、プレイヤーは主人公に共感することはできない。
あるいは共感しても、浅い部分だけで終わってしまう。
しかし本作はリアリティある描写により、それは深い主人公との一体感、共感をプレイヤーにもたらします。
そうして主人公と一体化して味わう物語は、シーン一つ一つが印象的です。
まるで自分が同じ立場にいるかのように、いま主人公が感じているものが伝わってくる。
主人公が激情に駆られるシーンはもちろん。
些細な食事の場面ですら、彼にとって宝物のような時間であることが、胸にしみわたってきます。
共に怒り、共に涙し、共に安らぐ。
本作の人物、心理描写が生み出す、主人公との心のシンクロ。
まるで物語に入り込むような没入感。
これこそが、本作の最大の魅力であると感じました。
主人公が心揺さぶられるのと同じように、私自身も何度も感情を動かされました。
また、ヒロインがたいへん魅力的な作品でもありました。
前述の通り、主人公は私たちと同じような悩みを抱えています。
現実世界の私たちと変わらない。
だからこそ主人公はどのようにその悩みを克服していくのか、気になりました。
しかし私たちが簡単に決着をつけられないように、主人公もまた、容易には答えを見つけられません。
そのとき主人公を導くのが、ヒロインです。
本作のヒロインは、悩み苦しむ主人公に手を差し伸べます。
それは主人公のみならず、彼とシンクロするプレイヤーにとっても救いであり、道しるべのような存在として描かれます。
袋小路にいる主人公を、光のような優しさと力強さで導いていきます。
ですが、ヒロインもまた完璧な人物ではありません。
むしろヒロインも主人公と同様、悩みや苦しみを抱え、救いを求めています。
彼らは、持っていないものを与えあう、かけがえのない存在同士へと変わっていきます。
主人公=プレイヤーを救うヒロイン。
しかし自身もまた救いを欲し、主人公に助けを求めるヒロイン。
両輪の魅力を持った、魅力的なキャラクターであると感じました。
やがて主人公とヒロインは、彼らなりの答えにたどりつき、クライマックス…ひいてはその先へと進んでいきます。
このエンディングには、ただ胸を打たれました。
私たちと同じようなものを抱え、悩みながらも、一歩を踏み出す主人公とヒロインの姿に、何だか希望すら与えられたような気持ちになりました。
私も彼らのように歩き出してみれば、ずっと感じている閉塞感だとか不満だとか、それが変わるのかもしれない…
「白昼夢の青写真」は、そのような景色を見せてくれる作品でありました。
また物語にはアップダウンがよくついており、後半にはどんでん返しもあり。
先が気になるエンターテインメントとしても、十分面白い作品です。
ボリュームはありますがテキスト、展開に無駄がないため、冗長さは感じません。
各ルートによって物語の雰囲気が一変するのもユニーク。
多様な面を見せてくれます。
また本作はメーカー「Laplacian」の過去の作品と一部、世界観を共有しています。
が、過去作は未プレイでも全く問題ありません。
私自身同メーカーの過去作はプレイしていませんが、理解できないネタはありませんでした。
シナリオライターである緒乃ワサビ氏も、過去作は遊ばなくていいとインタビューで発言しています。
名作です。
主人公と一体になって没入するこの物語体験は、多くのADVファンにぜひ味わってほしい。
何度も心を揺さぶられるでしょう。
ヒロインと主人公を、きっといつまでも忘れられない。
たどりついたゴールから見える景色に、生き方すら変えられるかもしれません。
「白昼夢の青写真」は、ADVの歴史を一歩進め、また遊ぶ者の歴史すら変えうる力作でありました。
もう一歩詳しくレビュー
Steam版での変更点について
本作は元は成人向けADV。
年齢制限にあたる要素を廃して、Steamで全年齢向けにリリースされました(R18化パッチも無し)
それにあたりいくつかのシーンがカットされています。
とはいえそれを上回る追加シーンが用意されているため、ボリューム面で損をすることはありません。
が、その中でも賛否をよんでいる変更点が、とあるヒロインの衣装の変更です。
これはそのヒロインへの印象を変えてしまう変更点であり、成人向け版のファンからは不評も聞こえます。
私は成人向け版をプレイしていないので言及は難しい。
しかし受けた印象をそのまま書けば、確かに感触はやや変化しているものの、物語の本質にまで影響を与えているとは感じませんでした。
やや蛇足感のあるエピローグ
本作に唯一抱いた不満点が、蛇足感のあるエピローグです。
ネタバレを避けるために詳細は伏せます。
が、エンディングの余韻をひっくり返してしまう内容で、せっかくの読後感を乱しかねないと感じました。
もっともおまけシナリオ的存在であり、またそのような展開になる理由も明示されるため、欠点だとは考えていません。
終わりに
総評で語りたいことは語り尽くしました。
決して短くありません。優しいばかりでもありません。
しかし、必ず胸に何かを残していく作品であると、自信を持って言うことができます。
ADVファンならば、是が非でも遊んでほしい一本です。
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