【すみれの空】レビュー・評価 引っかかる部分はあるものの、絵本のような世界が魅力の2Dアドベンチャー

3.0
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子供のころに触れた、絵本の世界
大人になって世の中のイヤなものを知ってしまうと、あんな世界が恋しくなってきますよね

「すみれの空」は、絵本のようなグラフィックで作られた世界で「とびっきりの一日」を過ごす2Dアドベンチャー。

やや世界観に馴染み切っていない、引っかかる要素もありました。

しかし作品世界は素朴な魅力に満ちており、遊んでいるだけでも癒される…そんな特徴を持ったゲームです。

タイトルすみれの空
ジャンル2Dアドベンチャー
対応機種Switch、steam
価格1480円
プレイ時間の目安3~5時間

総評

本作は絵本のようなグラフィックで表現された世界で、主人公「すみれ」を操作してプレイする2Dアドベンチャーです。

だいすきだったおばあちゃんを亡くし、悲しむ「すみれ」
そのことがきっかけで両親はバラバラになり、親友だと思っていた女の子からもいじめられてしまいます。

おばあちゃんに、もう一度会いたい…。
そう願うすみれのもとに現れたのは、言葉を話す「花」。
花は一日しかこの世界で生きることができません。

だから一緒に「とびっきりの一日」を過ごしてほしい、そうしたらおばあちゃんに合わせてあげる…と言います。
すみれの不思議な1日が始まるのでした。

内容はシンプルなアドベンチャー
シナリオはほぼ一本道ですが、道中の選択によってエンディングが分岐します。
アイテムを集めたりパズルを解いたりという遊びもありますが、ほんのアクセント程度。
つまることなく、エンディングまでたどり着けるでしょう。

その他、「たのみごと」という名の、NPCからの依頼の要素も盛り込まれています。
達成は自由。難易度は低いですが、少々の探索が必要になります。

本作の最大の特徴は、絵本のような温かみのあるグラフィックと、アコースティックギターの音色に癒されるBGM。
そして主人公すみれが、「とびっきりの一日」を通して、大切なものを取り戻していく、優しいストーリーです

絵の具で描いたみたいだね~


グラフィックは一見して「キレイだ…」と、洋画の俳優のように呟いてしまうほど美しい。
手描きならではの味がそのまま表現されており、ゲームというよりは絵本を操作しているような感覚になります。
「すみれの空」のタイトル通り、空の表現も大きな注目ポイント。
プレイ中はぜひ「空」を眺めながら遊んでみてほしい。
時折挟まれる一枚絵も、思わず息をのむほどに美麗です。

そしてそこに添えられたアコースティックギター主体のBGMは、本作の世界をより印象的なものにしてくれます。
柔らかい音色は、それだけでも本作の雰囲気によく合っている。
すみれの心情に合わせて時に軽やかに、時に重苦しくもなるBGMはゲームを盛り上げます。



これらの中で展開されるすみれの「とびっきりの一日」を目指す物語は、ややエグみを感じる部分はあるものの、心温まる内容でした。
おばあちゃんの他界をきっかけに、父は家を出ていき、親友からはいじめられ、ひとりぼっちの毎日を過ごすすみれ
毎日が悲しく、おばあちゃんに会いたい…とばかり思っていましたが、「花」の提案でとびっきりの一日を目指す過程で、大切なモノを一つずつ取り戻していきます。
親友との和解、好きな男子への告白、そしておばあちゃんと見た思い出の景色…

大人になってからもきっと忘れることのない「とびっきりの一日」
グラフィック同様、絵本のような物語ですが、それゆえに素朴に染み渡る感動を持ったシナリオでした。



しかし本作のこの物語、実は温かいだけではありません。
選択肢次第では、残酷な行動を取ることも可能。
これによりエンディングが分岐します。最後まで残酷を貫き通した場合、なかなかショッキングな結末が待っています。

そういうの好きだよ…!


このように多くの魅力を持った本作ですが、気になる部分がないわけではありません。

個人的にどうかと思ったのは、やや強すぎるシナリオのエグみ。
そして絵本のような世界にそぐわない、小説の一節のような言葉遣いのセリフ回しです。

すみれは親友であった女の子からイジメにあっているのですが、この内容がややキツすぎると感じました。
その女の子の取り巻きも非常に性格が悪い。
彼女たちに対し、すみれも怒りを募らせてしまうシーンがあるのですが…
その後の展開はそれまでとガラリと雰囲気を変え、人の心の闇に触れるようなものへとなっていきます。
決してつまらないわけではありませんが、ギャップが強い上にやや唐突
こうした物語の「エグみ」は、絵本のような世界にはマッチしきれていない印象を受けました。


また一部セリフの内容も、物語の雰囲気に合っていないと感じます。
翻訳したがゆえの点だとは思います。
この世界のキャラクターが言うには小説じみていたり、言葉が抽象的で雰囲気に合っていないと感じたセリフが少なくありません。

作品世界の美しさは特筆すべきもので、遊んでいるだけでも癒されます。
主人公が「とびっきりの一日」の中で出会うキャラクター、触れるその思いは素朴な感動を味わわせてくれる。
印象に残る一作となりました。


しかし、展開されるシナリオは見た目から受けるイメージとは異なる部分も。
絵本のようなグラフィックではありますが、物語は意外とオトナ向けです。
ストレートなセリフでストレートな涙を誘う作品ではありません。
あまり深いことを考えずに泣きたい!というプレイヤーには、オススメしづらい点がありました。

詳しいレビュー

遊ぶだけでも癒される、絵本のような作品世界

本作の最大の魅力は、手描きアートデザインとアコースティック中心のBGMが作り出す絵本のような作品世界です。
機械的なものを感じさせない世界は、デジタルに慣れ過ぎた我々プレイヤーに、子供の頃に夢中になった物語を思い出させてくれます。

そこで語られる主人公すみれと、言葉を話す「花」の物語
おばあちゃんにもう一度会いたい、パパとママに気持ちを伝えたい…など、健気な想いを一つずつ伝え、「とびっきりの一日」を目指すストーリーは、遊んでいて心が癒されるものでした。


またゲーム内では、人間だけでなく猫やカエルなどの生き物、カカシやお地蔵さんといった無機物までもが言葉を話すのが面白い点です。
本作の世界観によく合っていますし、彼らに話しかけることで「たのみごと」というサブイベントが発生することも。


プレイしているだけで癒されるような作品世界と、心温まるストーリー
本作の大きな特徴です

選択次第では残酷に…、分岐するエンディング

本作は癒し効果の高い作品ですが、実はそれだけではありません。
物語中に何度も選択の機会があり、そこには残酷な選択肢も用意されています。

というのも本作、心温まる内容だけでなく、人間が抱えている心の闇を描くことにも挑戦しているのです。
物語中は不気味な精神世界に入り込んでしまうシーンもあり、そこでの表現はかなりホラー寄りです。
そして残酷な選択を貫き通した先にあるエンディングは…

本作を遊ぶ際はぜひ二周し、二つの結末を見届けてみてください。

心の闇とかホント好きなんだよね…



この点から本作をホラーゲームだと感じるプレイヤーもいるそうです
私はそこまで強烈なモノではないと思いますが。

世界観にそぐわない、一部のセリフ

大変魅力的な本作の世界
そこにどうも合っていないと感じた要素が、一部キャラクターのセリフです。

まるで小説の一節のようなおおげさなセリフだったり、海外ドラマの日本語訳のようなセリフを喋るシーンがいくらかあり、せっかくの絵本のような世界にヒビを入れてしまっていると感じました。
悪い意味で子供っぽさがありません。


実際日本語に翻訳しているゲームなので、仕方ない部分ではあります。
しかし、作品世界がこれだけ魅力的なモノに仕上がっている分、そこはもう少しだけこだわってほしかった。
これのせいで全く好きになれないキャラクターがおり、もったいない点だなと感じました。

終わりに

インディーワールドで紹介されたことから興味を持ち、購入した本作

この作品世界に惹かれたのなら、ぜひ遊んでみてほしい一作です。
ストーリーはややオトナ向けで、ストレートに泣けるわけではない作品です。
それを考えても、やはり光るものが大きいゲーム。


短時間でクリア可能なので、週末の一本にオススメですよ

このゲームもオススメ

本作に興味を持った方に、こちらの作品「アンリアルライフ」もあわせてオススメしておきます

こちらは昔のファミコンのようなドット絵で描かれた2Dアドベンチャー
「すみれの空」よりもパズル要素が強め。幻想的な月夜の世界が美麗な作品です。
エンディングを見れば、きっと感動しますよ

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