誰もいない夜の街を歩く時の、あの高揚感はなんなのでしょう。
普段は人でごった返す街が、静寂感に包まれている。
いつもとは正反対の街の表情には、まるで物語の世界のような、奇妙な感覚があります。
今回レビューする「アンリアルライフ」は、そんな人の姿が見えない月夜の街を、一人の少女が歩くアドベンチャーゲーム
その相棒は言葉を話す「信号機」
年末年始のセールで購入した作品の一つですが、ビジュアルでもストーリーでも感動させられた大当たりの作品でした。
タイトル | アンリアルライフ |
ジャンル | 2Dアドベンチャー |
対応機種 | Switch、steam |
価格 | 2400円 |
プレイ時間の目安 | 7~10時間 |
アンリアルライフとは
主人公は記憶を失った状態で目が覚めた少女「ハル」
高度なAIが搭載された「信号機」を相棒に、たった一つの記憶の手がかりである『先生』を探して夜の街を旅します。
ハルはモノの記憶を読み取るサイコメトリーの力を何故か持っており、時に奇妙な仲間たちと協力しながら謎を解き、物語の真相へと迫っていきます
ピクセルアートで描かれる美しい世界と衝撃のストーリー
静寂感に包まれる月夜の世界を堪能
本作はいわゆる「雰囲気ゲー」の魅力を持った作品です。
深いで表現された夜の世界と、浮かぶ純白の月
そこには主人公以外には人間は一人もおらず、どこまでも静寂感に包まれている。
ドット絵で描かれた、素朴な美しさとゲームらしさを感じさせる風景
それを彩る物静かなBGMは没入感を高め、プレイヤーを幻想的な本作の世界へと深くトリップさせてくれます
プレイヤーをゲームの世界へと誘うような表現がなされ、世界そのものを味わうことが魅力のゲームのを「雰囲気ゲー」だと思っているのですが、本作はまさにそのタイプ
人気のない街、静寂感に包まれた夜の世界…そんなワードに心惹かれるなら、ぜひ遊んでみてほしい作品です。
奇妙な仲間たちとの出会い
主人公「ハル」は、物語の中で仲間と出会います…が、これが何とも奇妙な存在
そもそも相棒が「信号機」
その他にはマリモ、ネズミ、ペンギン…と、まるでディズニー映画に出てくるような不思議な仲間と出会い、力を合わせながら先へ進んでいきます
本作はこの仲間たちと「ハル」の関係性も大きな見どころ
個性的を通り越して、どこか怪しさすら感じる面々です
彼らとの出会いの中で「ハル」は成長していき、気が付けばその存在はプレイヤーにとっても忘れられないものになっています。
人ならざる仲間との出会い
本作の幻想的な雰囲気をより色濃くし、胸を打つストーリー体験を演出してくれます
主人公の心を抉る、衝撃のストーリー
本作のストーリーは、その優し気なビジュアルに反して、衝撃の強いものとなっています。
主人公「ハル」は記憶の手がかりである「先生」を探して先へと進んでいきます。
その中で徐々に明らかになる真相は、ハルの心を抉るような内容。
断片的に明らかになっていくため、常に先が気になって遊び続けてしまいます。
ゲーム自体が落ち着いた雰囲気なだけに強烈な印象をもたらし、その雰囲気とストーリーのギャップに驚かされました。
視覚的な演出も手が込んでおり、ゲームならではの手法でインパクトを与えてくれます。
それでいて、最後までただ心を抉るだけではありません。
詳細は書きませんが、強く心に残るエンディングがプレイヤーを待っています。
「ハル」の物語を最後まで見届けてよかった、そう思えるストーリーでした。
「足音」を始めとした、こだわりを感じる効果音
そのビジュアルに心を奪われる本作ですが、サウンド面…とくに効果音には強いこだわりを感じました。
なかでも印象的なのは主人公の「足音」
通常、2Dアクションでは足音は鳴らない、あっても控えめになる印象ですが、本作ではかなり強調されています。
アクションを取った際になる効果音というのは、手触りの良さ、操作する気持ちよさに深く関わってくるもの。
マリオのジャンプ音は分かりやすい例で、もしあの「プーン↑」という効果音がなかったら、ずいぶんと味気ないゲームになってしまいます。
本作の足音は、そんなマリオのジャンプ音的な役割があるのですが、そのほかにもう一つ、本作特有の「静寂感」をより高めるのにも一役買っています。
物静かなBGM、月夜の風景に響く主人公の足音。
さながら日本庭園のししおどしのごとく、「静寂」の、特に「寂」の要素を高めてくれます。
足音そのものも、コッコッコッ…とリズミカルかつ聞いていて気持ちが良い音で、バリエーションもなかなか豊富です。
また足音以外にも、メニュー画面でのカーソル移動や、メッセージをAボタンで送るときなど、プレイヤーが操作した時の効果音がどれも気持ちいい
言葉で説明しづらい点もありますが、本作を遊ぶ際には、ぜひ効果音にも注目してみてほしいです。
やや印象の薄い謎解き
本作は公式サイトでは「なぞときアドベンチャーゲーム」とジャンルづけられています。
ストーリーを追う中で様々な謎を解くことになるのですが…本作の唯一の惜しい点はここでした。
難易度はそれほど高くはなく、そこに不満はありません。
しかし不満はない分とがったものも感じられず、「なぞときアドベンチャーゲーム」というにはやや謎解きの印象が薄い。
主人公はモノの記憶を読み取る「サイコメトリー」の能力を駆使して謎を解いていきます
しかしこのモノの記憶で見える映像がほぼ答えになってしまっていて、謎を解いているという感覚があまりありません。
その他にパズル系の謎解きもありますが、本作の幻想的な世界観には、いかにもゲーム的な内容のパズルはややミスマッチな印象
世界にトリップしていたところを、途端に現実に引き戻されてしまうんです。
匙加減の難しいところだとは思います
自分はストーリーを十分すぎるほど楽しめたので気にしていませんが、しっかり謎解きを求めて遊ぶと肩透かしを食らうことになるでしょう。
総評
2400円はインディーズとしてはやや強気な価格設定です
ですがそれをはるかに上回る、大満足の内容でした。
ドット絵の素朴さと美しさを両立したグラフィック
それを彩る物静かなBGMで表現された、静寂感に満ちる月夜の世界はただただ魅力的
そこで出会う仲間たちと育まれる小さけれど強い絆を描き、そして謎に満ちた主人公の記憶に迫るストーリーにはグイグイ引き込まれました
エンディングを迎えた今は、心から遊んでよかったと言える作品です。
謎解きにこそやや不満は残りますが、それが些事に思えるほどに良いゲームです。
本を読み、その世界に入り込むように、ゲームの物語にトリップしながら楽しみたいタイプの人には特にオススメできる内容。
アンリアルライフ、ぜひ遊んでみてほしい一本です。