『INSIDE』の環境ストーリーテリングがもたらした3つのスゲーこと

2Dアクション
この記事は約10分で読めます。

「環境ストーリーテリング」というワードを知っていますか?

私は知りませんでした。

正確にいうとワード自体は知っているけど、その意味はよく知りませんでした。研究者、開発者向けの専門用語で、ゲームを遊ぶうえでは知らなくても問題ない言葉ですからね。

ところが最近…ってか昨日、そんな私に「環境ストーリーテリングとは何か?」をブチ込む傑作と出会ってしまいました。

INSIDE』です。

INSIDE』はPlaydead開発のアクションパズルです。2.5Dと表現される奥行を持った空間で、連続するパズルを解きながらエンディングを目指します。

本作の大きな特徴は、パズルを解くゲームでありながら、同時にナゾ多きストーリーを展開する作品でもあること。また、そのストーリーが言葉では一切語られないことです。

ゲームを開始すると、いきなり主人公と思しき人物が深い森の中を移動するシーンに突入します。チュートリアルやOPムービーによる導入は存在せず、いきなりアクションから始まるわけですね。

とはいえ、本作はこの時点で既に、その環境によって物語への導入を語っています。

・主人公はこの少年であること
・少年はどこかへ向かっていること

更に先へ進むと、主人公は大人たちに追われていて、命を狙われていることも判明します。

こうして『INSIDE』は言葉を使わず、主人公のいる場所やエネミーの行動、背景ビジュアル……作品世界を形作る環境を使って、ストーリーを伝えます。なるほどコレが環境ストーリーテリングか!と、初めて気づくことができました。何となく頭にイメージはあったんですけど、それがはっきり形と意味を持ったと言いますか。

今後「環境ストーリーテリングって何?」と尋ねられたら、それはね…と語ることもできるかもしれません。ちょっと賢くなったな自分。

さて、そうして感心しながら遊び続けているうち、私の中にある思いが沸々と浮かび上がってきました。

『INSIDE』って、環境ストーリーテリングを巧みに使った傑作なんじゃね?

本作は2017年のゲームデザイナーズ大賞をはじめ、国内外でいくつものアワードを受賞していますから、傑作なんじゃね?と言われても、そりゃそうだよ!と返ってきそうではあります。なかなかの今更感です。それでも記事を書かずにいられず、こうして筆を執った理由。

それは『INSIDE』が、その環境ストーリーテリングを用いることで、このジャンルとしては考えられないようなヤベーことを3点、達成していると感じたからです。具体的には、以下の3つ。

1.パズルなのに続きが気になる
2.ギミックすらもストーリーの一部
3.パズルなのにもう1周したくなる

傑作と言うのは周知のことで、私もそう感じました。そして世間はどうか分かりませんが、少なくとも私が傑作と感じた所以は、この3点にあります。これは本作の巧みな環境ストーリーテリングがなければ、達成し得ないものでありました。

1.パズルなのに続きが気になる

『INSIDE』のまず最初のヤバい点は、パズルなのに続きが気になることです。

本作は、面クリア型のパズルがシームレスに繋がった作品…とみなすこともできます。といっても、フィールドから面を選択するようなことはありません。しかしパズルを解くと次の部屋へ移動し、その部屋でまたパズルを解く…という流れを繰り返しますし、各部屋間はギミック含めて断絶されていますから、次から次へと提示されるお題を解いているような感覚も確かにあります。

ギミックが断絶されており、ゲームの提示する順番でパズルを次々に解いていくプレイ内容は、マップから面=お題を選択してコースクリアしていくパズルゲームと、何だか近いものがあるような気がするわけです。

そしてこの感覚に近い…というかそのものである、マップから面を選択してプレイするパズルゲームとして私が思い浮かべた作品がありました。

ハコボーイ』です。

画像はSwitch『ハコボーイ&ハコガール!』より

ハコボーイ』はハル研究所が開発した2Dアクションパズルです。先日終了した3DS向けニンテンドーeショップ発の作品ですから、最後の駆け込みで購入したよ!って方も多いかもしれませんね。残念ながらもう買えません……なんてことはなくて、Switch向けにリリースされたシリーズ作品『ハコボーイ!&ハコガール!』もあります。気になる方はどうぞ。

さて『ハコボーイ(※3DS版)』は正に前述の通り、マップから面を選択してクリアしていくパズルゲームです。私も3DS版はプレイ済みでして、ワンアイディアをどんどん膨らませていく開発側の発想力に驚かされつつ、楽しく遊んだ作品でありました。

面クリア型のアクションパズル…という点で、近い感覚を持つ『INSIDE』と『ハコボーイ』。

しかし、この2作には大きな…とても大きな違いがあります。

それは『続きが気になるか、ならないか』ということです。

ハコボーイ』はパズルアクションとして優れている作品ですが、一方で「続きが気になる」という遊び心地はありません。これは『ハコボーイ』に限らず、多くのパズルゲームがそうでしょう。パズルゲームは根本の仕組みがしっかりしていれば、パズルを提示するだけでも十分遊びとして面白く仕上がります。ですから、続きが気になるような物語性を持たせていることは、あまりないように思います。必要ないと言ってもいいでしょう。事実、『ハコボーイ』は物語がなくとも、十分面白いゲームでありました。

しかし『INSIDE』は違いました。

本作はその環境ストーリーテリングにより、パズルゲームとしてパズルを提示しつつ、同時に物語性もはっきりと持たせてある作品なのです。

例えば序盤のシーンだけでも、物語的なナゾがいくつか示されます。

・主人公はなぜ逃げている?
・大人たちはなぜ、主人公を殺してでも捕らえようとしている?

このようなナゾは、パズルには関係ありません。目の前のパズルを解く…というだけでも面白く仕上がっているのならば、なくてもいい要素です。『INSIDE』はこうして、なくてもいい筈の物語を環境に語らせることで、パズルゲームとしては独自の感覚をプレイヤーに抱かせることに成功しています。

それは「この先どうなるんだろう?」という、実に物語的なプレイ感覚です。

私など飽きっぽい性格ですから、パズルアクションでは一通りギミックが出尽くしてしまうと、その時点で「この辺でやめようかな…?」なんて思ってしまうことがあります。(ちなみに『ハコボーイ』は遊んでも遊んでも新ギミックが登場するスゴいゲームです)

ところが『INSIDE』は違いました。ギミック的な広がりは乏しくなっても、それでもやめられず、一度にクリアまで遊んでしまいました。なぜか。続きが気になって仕方がないからです。パズルゲームでありながら、物語が私を引き付け続けたのです。

パズルゲームなのに、続きが気になる。

これが本作の環境ストーリーテリングがもたらした、第一のヤベーことです。

2.ギミックすらも、ストーリーの一部

いかに面白いギミックを考えつけるかが、パズルゲームのキモであると言っていいかもしれません。

例えば前述の『ハコボーイ』は、そんな面白いギミックの塊のような作品です。

画像はSwitch『ハコボーイ&ハコガール!』より

はじめはハコを足場にして高い段差を上る…程度のものですが、そこからドンドン発展していき、その様はまるでワンアイディアから始まるパズルゲームの教科書のようです。

INSIDE』も同様に、ゲームを進めるとエネミーや仕掛けなど、新しいギミックが登場します。例えばゲーム序盤には「ナゾの人間を遠隔操作できる装置」が登場します。

画面奥の人間を操っています

装置に頭をギュポッとはめると、画面奥や上部など、主人公の届かない位置にいるナゾの人間を遠隔操作できるようになります。扉を開くためのスイッチを踏んでもらったり、しがみついたフックを動かしてもらったり…。このようなギミックは、プレイヤーの選択肢に広がりを出すと同時にパズルの幅も大きくしますから、このジャンルでは重要な点です。このギミックを面白くできるかがカギの一つであることは、間違いいないでしょう。

そして私は、またも驚かされることになりました。

なぜなら『INSIDE』は、このようなギミックすらも環境ストーリーテリングの一部として組み込み、物語を示す断片としても機能させていたからです。

上記の「ナゾの人間を遠隔操作できる装置」で言えば、もうその存在自体が本作のストーリーをいっそう混迷にさせ、プレイヤーの考察を促すアイテムにもなっています。

・そもそも、なぜこんな装置がある?
・かなりの科学力を持っていると思われる…時代は近未来?
・あの人間はなぜ、操作されてしまうんだ?

このように、新ギミックはパズルを解くための新要素であると同時に、ストーリーを示す断片でもあるのです。

例えば『ゼルダの伝説』の弓矢は、単なる弓矢であってそれ以上の意味を持っていません。弓矢を入手することによって世界のナゾの解明に近づくこともありませんし、物語への考察を深めることにもなりません。フックショットも爆弾も、ギミックの広がりの一部であり、それがゼルダの面白さを更に高めていることは間違いないですが、あくまでパズルとしての広がりに留まります。

一方で『INSIDE』は、環境ストーリーテリングの手法をギミックにすら反映させ、そのギミックはパズルを広げる新要素であると同時に、それは世界の真相を示す一部でもあるのです(さすがにギミックの多様性ではゼルダには遠く及びませんが…)

ギミックすらも、ストーリーの一部

これが第2のヤベーことです。

3.パズルなのにもう1周したくなる

INSIDE』のエンディングを見終えた後、そのままもう1周遊びたくなりました。

なぜか?
ストーリーのナゾがあまりにも大きすぎるため、結末を知ったうえでもう一度ゲームを遊び、物語への自身の解像度を上げたいと思ったからです。

そしてこの感覚は、従来のパズルゲームではなかなか得難いものでありました。だってパズルゲームは、たいていの場合は解法を見つけるまでの遊びであるからです。

パズルゲームは、特に2周目を遊ぶ気が起こりづらいゲームであるように思います。

当たり前ですがパズルの解法を見つけるゲームです。そしてこの解法は変化しません。同じステージでも遊ぶたびに解法が変わるゲームは……ないとは言いませんが、少なくとも一度解法を見つけた以上、それを忘れてしまわない限りは必ずクリアできます。

そしてパズルゲームを2周することは、言うなれば答えの分かっている問題を繰り返し解くような感覚があり、これは端的にいって面白くありません。解き方の明らかな問題を何度もやっても、刺激も発見もない(ように思える)のですから。もちろん全く新しい解法を探すとか、RTAだとかはあります。しかし逆に言うとこのようなマニアックなところにまで踏み込まなければ、2周目の楽しさを見出しづらいジャンルであるように思います。解法を忘れるほど時間を置けばこの限りではありませんが、そのときでさえ感覚の上では「見つける」というよりは「思い出す」に近く、刺激はずいぶん小さくなる。

しかし『INSIDE』は、その環境ストーリーテリングによって、パズルゲームでありながら2周目を遊びたくなるゲームに仕上げていたのです。

これは大きなネタバレになるので詳細は伏せます。

本作の起承転結における転には、とんでもない展開が待っています。衝撃の事実が判明し、同時にいくつもの疑問符が浮かびます。続く謎めいたエンディングは一定の答えを示してくれますが、それでも気になるところはいくつも残ります。その真相を知りたいがため、遊び終えた直後に思わずもう1周したくなってしまう。むしろ解法を覚えていてスムーズに進められる内に、もう一度遊びたいとすら感じました。

この感覚は、少なくともパズルの解法を見つけることを主題にした同ジャンルのゲームからは、得られないものでした。本作の環境ストーリーテリングが、解法の変わらないパズルゲームでありながら、私のリプレイを促したのです。

パズルなのにもう1周したくなる

これが第3のヤベーことです。

終わりに

INSIDE』が傑作だと評価されているのは知っていましたが、これまで何となく遊ばずにいました。『Inscryption』なんかも購入済みなのに未プレイなので、遊んだらきっとぶったまげるんだろうなぁ…と思います。

INSIDE』はCS向けゲーム系サブスク対応の他、主要ハードならどれでもプレイ可能です。

INSIDE ダウンロード版
任天堂の公式オンラインストア。「INSIDE ダウンロード版」の販売ページ。マイニンテンドーストアではNintendo Switch(スイッチ)やゲームソフト、ストア限定、オリジナルの商品を販売しています。
タイトルとURLをコピーしました