【SIGNALIS】感想…リソース管理ホラーアドベンチャーの調整。その難しさを感じる一本

2Dアクション
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「手持ちの弾薬で、あのエネミーを倒すべきか否か?」

ホラーアドベンチャーゲームはしばしば、プレイヤーをジレンマに陥らせる。探索の安全を確保するため、何より精神的な安寧を得るためにはエネミーを排除すべきだ。一方でこの先どこで手に入るか分からない弾薬を今ここで消費してしまう不安もあり、だから板挟みになる。攻撃を回避して無視できれば弾の節約になるだろう。しかし失敗すれば弾以上に貴重な回復アイテムを使うことになる。敵を残して先に進むことのリスクも付き纏う。もしこの場所に戻ってくることになった場合、再び対峙せねばならない。

だが弾薬を使ってしまうデメリットも大きい。エネミーの巣窟になったマップではいつ補充できるか分からないし、もしかしたら扉の向こうにはもっと強力なエネミーが待ち構えているかもしれない。いずれ訪れるボス戦も頭に入れておかなくては。弾を温存するメリットは、それこそ計り知れない。

さてどうすべきか…

「SIGNALIS」も、きっとこのようなジレンマをプレイヤーに体験させようとしたのだと思う。ゲーム序盤に弾薬はよく考えて使うようにと警告されるし、ストアページにもそのような宣伝文がある。

だが正直に言って、本作のそれは失敗しているように感じられた。目指したであろう体験と、実際のゲーム内容が噛み合っていない。レベルデザインに失敗していると言っていい。

本作を遊んで見えてきたのは、上記のような…言わば「リソース管理ホラーアドベンチャー」の、そのレベルデザインの難しさだ。

タイトルSIGNALIS
ジャンルホラーアドベンチャー
対応機種Switch、PC他
価格1,980
プレイ時間の目安10時間

墜落した宇宙船から始まるホラーアドベンチャー

謎の宇宙船から、物語はスタート

「SIGNALIS」はホラーアドベンチャーゲームだ。どんなトラブルにあったのか、主人公が目を覚ますのは墜落したと思われる宇宙船の中。だけどこの宇宙船はチュートリアルを兼ねた操作練習マップで、本番は船外に脱出してから。

船の外は吹雪が吹き荒れており、とにかく視界が最悪。一面真っ白で、移動しても前進できているのか分からないほどだ。だがそれでも歩き続けていると、ある施設にたどり着く。なぜかその施設は学校と思しき機能を有しており、そこでプレイヤーは徘徊するエネミーと遭遇することになる。

2D見下ろし視点により、怖さはマイルド

まず本作の怖さについて。
これはマイルドな仕上がりだと感じた。よほど苦手でなければ一人でも十分プレイできるはず。
そう言える理由は、2D見下ろし視点であるから。

この視点により、プレイヤーは主人公を中心に360度の状況を常に把握してプレイできる。曲がり角の先や背後などの死角、部屋の出口なんかも視界に常に入るから、何かが出てきそうで怖い…なんてシーンはあまりない。ホラーゲームの大きな恐怖の一つは「この先が分からないこと」であり、本作はこの視点によりそれを和らげている。

これは良い塩梅だと思う。というのもこの手のホラーアドベンチャーゲームは、一人称視点にしてしまうとあまりにも怖くなりすぎるから。

画像は「Outlast」より

本作のエネミーはプレイヤーを発見するまでは音もたてず突っ立っていることが大半で、足音などから気配を探れないシーンが多々。ついでに数も多め。マップは狭くて暗いし、それでいてあちこちに鍵のかかった扉があるので、解錠方法を探し求めて歩き回ることになる。これだけエネミーが配置されているマップをここまで歩かせる内容だと、一人称視点では怖すぎる。激辛の更に上の極辛みたいな、好きな人以外には苦しいレベル。

そうして“極怖”により評価を獲得した名作もあるけど、「SIGNALIS」の選択もありだと思う。見下ろし視点とは言え、当然カメラの範囲外や扉の先までは確認できないから、ドキッとさせられるシーンも確かにある。

もう一つ本作の恐怖を演出する要素が、主人公の目的が脱出ではなく、むしろ探索である点。多くのホラーアドベンチャーは脱出を最終的な目標にするが、「SIGNALIS」の主人公は真逆。むしろ奥へ奥へと進もうとする。進むほど光が近づくどころか、闇に踏み込んでいくのだ。一度入ったら戻れないような穴に飛び込むシーンもあり、逃げ出したいプレイヤーの心理と、そのためにはより奥へ進むという正反対の行動。この不一致が印象的ににもたらされる。

逃げ出すつもりなどさらさら無い主人公



また本作は映像やサウンドにも力が入っている。特に映像はサイケデリックな色使いと、カメラの揺れや乱れを演出として取り入れた表現、あえて時系列や場面を分解した作りが、独自の世界観をあえて不明瞭に表現する。

怖いけど、余裕を持って遊べる怖さ。
夜、部屋で一人電気を消したままでもプレイできる程度のホラーを求めている方に、本作のマイルドな怖さはマッチする
だろう

とにかく素通りすることを推奨してしまっているレベルデザイン

ホラーアドベンチャーゲームの代名詞でもある「BIOHAZARD」もそうであったように、本作はプレイヤーに資源を慎重に管理するよう促す。(ストアページでの文言や、そこかしこに配置されたパズル、別々の場所にあっても中身が共有されるアイテムボックスの仕様などから、本作が初期バイオを意識していることは明らかだ)

画像は「biohazard HD REMASTER」より



「手持ちの弾薬で、あのエネミーを倒すべきか否か?」

限られた弾薬と、それを使わなければ倒せないエネミーは、常にプレイヤーにこの選択を強いる。当然、敵は全滅させて進むことが望ましいが、限りある資源がそれを許さない。必然的にプレイヤーは襲われるリスクを覚悟して敵を回避せねばならないし、何より回避に成功しても、リスクを放置したまま進む気持ち悪さがいっそう不安を煽るだろう。これは確かに有効なスパイスだ。

一方で、時には大胆に殲滅するシーンも出てくる。例えば明らかに再訪する部屋や通路、セーブポイント周りのエネミーは、一回こっきりの場所に比べて放置リスクが高い。このような倒す必要のあるエネミーには弾薬を惜しみなく使い、しっかり安全を確保したうえで探索を進めた方がいい。ポイントはその安全の範囲をどこまで広げるかの判断であり、これはホラーアドベンチャー攻略に求められる重要なスキルだ。

「SIGNALIS」もきっと、消費による安全と放置によるリスクの狭間で、プレイヤーを揺れさせようとしたのだと思う。


だが本作は、プレイヤーにそのような体験をさせることに失敗していると感じた。

クリアし終えた今振り返ってみれば「SIGNALIS」は、安全だの消費だのの判断は二の次で、とにかく敵を素通りするゲームだった。本作の仕様が、プレイヤーにそのような遊び方に誘導してしまっていた。

そうしてしまっている大きなポイントは、以下の2点。

・ほぼ全てのザコ敵が、時間経過によりランダムで復活する仕様
・度を越えて大量に配置されたエネミー

ひとつずつ、解説していこう。

プレイヤーの管理を徒労に変える、敵が復活するリスク

本作のエネミーは、倒しても復活する仕様だ。銃弾により一定ダメージを与えれば行動不能になるが、時間の経過により再び動き出す。重要なのは、復活までの時間経過量がランダムである点。あっという間に起き上がってくる可能性もあるし、その前にマップをクリアしてしまう可能性もある。

これはリメイク版「biohazard」にもあった、プレイヤーの不安を煽るユニークな仕様だ。倒したはずの敵がまたいつ復活するやも知れないとなれば、その部屋の扉を開けるとき、倒れたエネミーの横を通り過ぎる時、起き上がらないでくれと神に祈る気持ちにすらなる。

だがこの仕様はそんなユニークさと同時に、一歩間違えればゲームの評価を落としかねない難しい一面も持っていると思う。その一面とはズバリ、プレイヤーの消費と引き換えに得た安全をムダに変えてしまう可能性があることだ。

前述の通り、本作は消費による安全と放置によるリスクでプレイヤーを揺らす。そしてこのエネミーが復活する仕様は、プレイヤーの決断した消費による安全を、一方的に無意味な決断に変えてしまう恐れがある。

限られた弾薬を消費するリスクを取ったのだから、それと引き換えに得た安全は強固でなければならないと思う。そうでなければリスクに見合わない。もしその安全が薄氷の如く心もとないならば、弾薬を消費するリスクを取ってまで得る価値がなくなってしまう。そして「SIGNALIS」において弾薬と引き換えに得られる安全は、正にそのようなものなのだ。

エネミーが復活するまでの時間は本当にランダムなようで、ずっと倒れていることもあれば、驚くほどあっさり復活してしまうこともあった。とはいえクリア後に思い返してみれば、結局復活した敵に悩まされるシーンは少なかった。だがそれでも、プレイ中は常に倒しても復活するリスクが頭から離れない。最低でもこれだけは安全を…という目安すらないのだ。もしかしたら次の再訪時には、既に復活しているかもしれないのだ。そのようなリスクに悩まされた私がたどり着いた結論は「撃退は最終手段で、無視が最適解」だった。

結局復活されてしまう恐れがあるのならば、弾薬を消費して倒すメリットは薄い。ならば多少のダメージを覚悟してでも突っ切ってしまった方がずっといい。幸い本作の主人公はHPが高く、回復アイテムもよく拾えるバランスであったため、無駄になる恐れがある撃退よりも、無視して突っ切るほうがずっとメリットが大きいと感じられた。弾薬は復活されれば完全にムダになるが、回復アイテムは必要に応じて使えばいいし、そもそもノーダメージで突破できれば儲けものだ。



復活のリスクが私にもたらしたのは、とにかく敵を無視して素通りするプレイ。だってわざわざ弾薬を消費して、今一つ信頼のおけない安全など確保しても仕方がない。本来であればそこに生まれるはずの、消費による安全と放置によるリスクのジレンマや駆け引きを、復活のリスクが…プレイヤーの選択した消費をムダにする恐れのある仕様が、奪ってしまったのだ。

復活を完全に防ぐアイテムもあるが、こちらは本当に入手数が限られており、素通りという最適解を見つけてしまった上では最早使う気になれなかった。

消費による安全と放置によるリスクを提示しておきながら、その片方を完全にムダに変えてしまう恐れがある仕様。
これが本作の、レベルデザインにおける失敗の一つだと思っている。

あまりにも多すぎるエネミー

ホラーアドベンチャーにおいて、エネミーの配置数は重要なポイントだろう。大量に配置すれば難しくはなるだろうが、同時に騒がしくなってそれは作風にマッチしないことも多い。何より、あまりに多すぎるエネミーは、プレイヤーを自暴自棄にさせてしまう恐れがあると思う。

例えば拳銃の弾を数発しか持っていない状態で、エネミーが大量に配置された部屋を突破する必要があるとする。このときプレイヤーはどんな行動を取るかと言えば、それはもう遮二無二突っ込んでみることが多いと思う。2~3体ならばまだ戦略の立てようもあるが、なんかもう5体以上とかだと考えたって仕方がないような気がするのだ。なに、やられてもセーブポイントに戻るだけ。ええいままよ!と突貫をかましたくもなる。

そして「SIGNALIS」は、このようなシーンが多い。

本作のエネミーは、多い。多すぎる。一部屋に2~3体いるのはザラで、その先の部屋にも2体、更に先の部屋にも3体…みたいなシーンすらある。エネミーがいない部屋の方が珍しいと感じるほどだ。こうして明らかにプレイヤーの処理能力を超えた数のエネミーが私に取らせる行動は何か。

そう、素通りである。

合算して二桁にも上るようなエネミーをいちいち全滅させる余裕などないし、復活のリスクも考えれば尚更メリットが薄い。やることはとにかく無視して突っ切るのみで、一体たりとも相手にしない。銃を撃つために立ち止まればあっという間に囲まれるだろう。ダッシュで突っ切った方がよっぽど楽だし低リスクだ。

この敵の数は、後半のマップほど顕著だ。特に最終ステージなんかは、セーブポイント前の数体と絶対に倒す必要のあるエネミー以外は全て素通りしていたと思う。



そこにはリスクだの駆け引きだのは全くない。運を天に任せて突っ込むイノシシのような、およそホラーアドベンチャーに似つかわしくない行動を取り続ける主人公とプレイヤー、そしてそれに群がるザコ敵がいるのみである。

もちろん私だって、できれば頭を使ってマップを踏破したい。ダメージ覚悟で突っ切るよりは手持ちと相談して戦略を立てる方が好きだし、何より美しくない。
しかし「SIGNALIS」のレベルデザインが、私をそのような美しくないプレイに誘導してしまっているのだ。


プレイヤーを自暴自棄にさせ、いっそう素通りを推奨する過剰なエネミー配置。
これが本作の、二つ目の失敗だと思う。

与えたいゲーム体験と、実際に得られるゲーム体験の乖離

どのようなゲームも、プレイヤーにこのような体験をしてほしい…という目的があると思う。
「SEKIRO」なら困難を乗り越えることでしか得られない達成感、「無双」ならたった一人で戦況を変えていく一騎当千の爽快感だとか、そのようものが。

そしてその体験に向けてマップやエネミーを設計、配置し、パラメータなども含めて構築していくのがゲーム開発のレベルデザインだと、私は認識している。

「SIGNALIS」は、ここに乖離が見られる作品だった。



敵が復活する仕様も、大量に配置されていて突っ切るしかない部屋の存在も、それ自体は悪くないと思う。だがそこから得られる体験が、果たして本作の目指したものだっただろうかと考えると、疑問符が浮かぶ。

とは言え、見るべき点が多いゲームであるのも間違いない。ソロプレイでも無理なく完遂できる怖さだし、上記の仕様は特に配信やパートナーとのプレイでは大盛り上がりのポイントに変化するかもしれない。「BIOHAZARD」をはじめ、往年の名作ホラーを思わせる内容は、かつてそれに夢中になった筆者には確かに嬉しいものだった。

「SIGNALIS」はNintendo Switch他、主要ハードで配信中だ。

SIGNALIS ダウンロード版
任天堂の公式オンラインストア。「SIGNALIS ダウンロード版」の販売ページ。マイニンテンドーストアではNintendo Switch(スイッチ)やゲームソフト、ストア限定、オリジナルの商品を販売しています。

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