リメイク版『ONE.』の物語には、問題があると感じました。
しかし元は25年前に発売された本作に対し、現代を基準にして文句をつけるのは栓の無いことのように思います。そこで今回は、同ジャンルの作品である『AIR』を引き合いに出し、『ONE.』の問題点をそのままあげるのでなく、後に続いた作品はそれをどのような形で解消しているのかまでを考えました。
『ONE.』の物語の問題点であり、かつ『AIR』シナリオでは何らかの手法でそれが解決されていると私が考える点は、以下の3つがあります。
1.主人公がヒロインに近付く動機が弱い。
2.問題の原因が主人公の人格にあり、その理由が示されないため、プレイヤーの主人公への印象が悪化する。
3.物語のクライマックスで提示される課題がどのヒロインでも同じであり、そのため終盤の展開が似通っている。
また重要な前提として、私は『ONE.』をコンプリートまで遊んでいません。具体的には長森、七瀬、茜、みさき、澪のルートのみをプレイした段階でこの記事を書いています(『AIR』はコンプリートまで遊んでいます)。またこの記事内で触れる『ONE.』の問題点は、全て物語上のものに絞っています。グラフィックやサウンドには言及しません。
古い作品をそのままレビューするよりは。
ビデオゲームの古い作品を現代の基準で見た時、いくらかの難点があるのは仕方のないことだと考えます。その古い作品の問題点をそのままあげるよりは、素人視点とはいえ分析的な視点を用いてより広い範囲で語った方が面白いのではと考えました。
当たり前ですが、『スーパーマリオブラザーズ』を今遊べば、いくつもの不満点が出てくるでしょう。いかに名作と呼ばれようと、それが古い作品なら技術の制約やスタッフの練度、ノウハウの蓄積だとかが現代よりも不足していたであろうことは間違いありません。そのため、現代の作品より粗が多いのは仕方のない面があります。ONE.にも同様のことが言えると感じました。
それでも物語は進歩の影響は比較的少ないでしょうが、しかしギャルゲーのシナリオという観点で括れば、これは一定程度は当てはまると考えています。物語の面白さそのものでなく、ギャルゲーという型にどのように物語的な面白さを持たせるか?という点ならば、ノウハウや練度、ヒット作の影響などが物語全般よりもずっと大きく絡んでいると思うからです。
しかし、そのような古い作品の、古さに一定以上起因する問題点を現代からただ指摘しても、その古さがある種の免罪符のようにも機能し、栓の無い話に終わってしまうように感じます。スーパーマリオブラザーズの古さを指摘したところで、それは古いのだから仕方がない。
ならば、もう少しだけでも新しい作品を引き合いにだし、二つを並べて分析的に考えてみれば、この話をいくらか面白くできるのではと考えた…というわけです。ONE.そのものでなく、より広い視点で俯瞰すれば、単に「古いから仕方ない」で終わることのない、いくらか実りのある話ができるのではと思っています。
ただ問題なのは、引き合いに出すAIRも相当に古い作品だよね…ということです。せめて『リトバス』くらいにしとけと自分でも思うのですが、最近遊んで内容をよく覚えているのがAIRであり、またONE.と結びつけて語りやすいと感じたので選んだ次第です。
では以下より、まずONE.の物語を最大公約数的かつ簡易的に構造レベルでまとめることから始めます。
『ONE.』の大まかなシナリオの流れ
本題を始める前に、ONE.の流れを簡単にまとめます。これがあった方が後の話がわかりやすいと考えています。なお、このまとめはあくまでも各ルートの最大公約数的なものであることを断っておきます。ヒロインによって変化、入れ替わりがあります。
ここでは、ONE.を以下の6つのブロックで区切ります。
1.出会いとキャラ紹介
2.好意を抱き、付き合おうとする
3.二人を阻む問題が発生
4.解決
5.再び問題発生
6.解決、エンディング
以下、簡単に解説します。本題ではないので巻きでいきます。
出会いとキャラ紹介
まず主人公とヒロインが出会います。その後ヒロインの人柄、主人公との関係性を示します。
例えば長森なら、主人公にとっては幼馴染の関係性であること、面倒見の良さなどの彼女の人柄が冒頭で示されます。
好意を抱き、付き合おうとする
次にお互い、あるいは片方がもう片方に好意を抱き、付き合おうとします。
例えば七瀬は主人公が彼女をいじめから助けてくれたことをきっかけに、主人公に好意を抱き、近づこうとします。
二人を阻む問題が発生
付き合おうとする二人を阻む問題が発生します。
例えばみさきの場合、好意を明らかにする主人公を拒絶してしまいます。
解決
↑の問題が解決し、恋仲が成立します。主にここから次のブロックまでの間で、いわゆるイチャラブが展開されます。
再び問題発生
二人の幸せを引き裂くように、問題が再び発生します。本作はこの問題の内容がどのルートも同じです。主人公の消失です。
解決、エンディング
↑を解決し、物語はエンディングを迎えます。この解決のパターンも、どのルートもほぼ同じです。主人公が帰還します。
『ONE.』の3つの問題点
私が思う本作の問題点は、上記の通り3つです。それぞれを解説します。
なお、ここで挙げる問題点は、あくまでも本作が抱えていて、かつ『AIR』では何らかの形で解決されているものに絞っています。
主人公がヒロインに近付く動機が弱い(茜ルート)。
最初の問題点は、主人公がヒロインに近付く動機が弱いことです。この問題は上記のブロックの中の「2.好意を抱き、付き合おうとする」周辺で発生しています。普通、主人公とヒロインに近付くには、何らかのきっかけが必要です。きっかけがないまま人物を接近させると、不自然さが目立ちます。不自然さは物語とプレイヤーを乖離させ、感情の移入を困難にします。
問題は里村茜ルートで見られます。ここでの主人公は、茜に近づく理由が弱い(のにどんどん接近しようとする)と感じました。主人公は雨の中で佇む茜を見かけたことから彼女に興味を持ちます。このきっかけに問題は感じません。ただその後、主人公はその理由を聞くため、嫌がる彼女に執拗と言っていいほどに付き纏います。主人公の性格や一般的な感覚から考えて、彼女をそこまで気にする理由が私には見えてきません。
普通、それまで関わりを持っていなかった人同士が近づくには、なんらかの理由が必要なはずです。それがないけど近づけたい場合、たまたま出会った風に描くだとか、部活が同じなど前提をつけるだとか、主人公への工夫などが必要でしょう。しかし茜に対しての主人公は、このようなものを持っていません。そのため、話しかけ続けるきっかけが出会いのシーンだけでは不十分だと思います。そのうえ嫌がっているのに昼食まで一緒に取ろうとするのは妙な行動に見えます。
理由がないのに他人に接近しようとする人物は、不自然だと思います。とはいえ、主人公は普通の男子高校生ですから、理由もなく異性に接近しようとする様は不自然ではないと反論されるかもしれません。しかしその場合でも茜だけに固執する理由にはなりづらいと考えています。あるいは茜のような大人しい異性が特別に好みだったとも考えられるでしょうが、それならそれで、その前提を何らかの方法で読み取らせる必要があるでしょう。
この不自然さは、プレイヤーと物語を乖離させ、感情移入を遠ざけます。不自然な行動を取る人物の心理は、不自然であるがゆえに共感できないからです。そして共感できないことは、特に本作のような泣きを取り入れた恋愛ゲームの場合、大きな問題です。そうでなければ彼らの心理に共感して感動することができないからです。
問題の原因が主人公の人格にあり、その理由が示されないため、プレイヤーの主人公への印象が悪化する。
この問題は上記のブロックの「3.二人を阻む問題が発生」で起こっています。問題の原因が主人公の人格にあると、やはり感情移入が難しくなります。人格に問題のある主人公には共感しづらいからです。これの本当の問題は、主人公の人格がなぜそうなったのかの理由が見えないことです。
この人格の問題が出ているのは七瀬、長森のルートです。七瀬ルートでの主人公は彼女の心理を全く読み取ろうとしない無神経さを見せ、かたや長森ルートでは理由の不明な拒絶心(愛情の裏返し)を見せます。特に長森ルートでは罰ゲーム的にとはいえ自分から告白しているだけに、余計に人格に問題があるように見えます。
人格に明らかな問題がある主人公は、やはり共感を阻みます。もちろん、人間は誰しも人格に一定程度は問題を抱えているものです。しかし主人公の人格は、その一定程度の度合いを越えている印象を受けます。高校生なら好意を抱いてくれている相手と過ごすクリスマスがどのような意味を持つか、意識する人が大半でしょう。そしていくら相手の好意を確かめたいとは言え、罠に陥れて乱暴を受けさせるのは、人間誰しもで飲み込める度合いを超えると感じます。そのような人物には共感しづらいでしょう。もちろん、似た境遇にいるなどして共感を覚える人もいると思います。それ自体を間違っているだとか言うつもりはありません。ただそれは広く受け入れられづらく、共感以上に反発を生むでしょう。
ここで本当に問題なのは、主人公がその人格に至った理由を物語から読み取れないことです。
このような過度な無神経も、常軌を逸した方法で好意を確かめたがるその性格も、なぜそのように考えるようになったのかを示せば、その理由に基づいてプレイヤーは共感できます。そして本作ではそれが示されません。無神経さは七瀬ルートに限ってみれば「そのような人物である」と解釈もできますが、主人公が生来の無神経さであそこまでに至る人物であるというならば、やはりそれに共感は難しいでしょう。そして私が考える本作における共感の重要性は、上記の通りです。
クライマックスの課題がどのルートでも同じ内容で、そのためルート終盤の展開が似通っている。
この問題は上記のブロックの「5.再び問題発生」~「6.解決、エンディング」で発生します。少なくとも私が遊んだ全てのルートで、終盤の展開が似通っていました。展開が似通っていると、全ヒロインを攻略する過程で飽きが出てきます。
本作のクライマックスの大まかな展開はどのルートでも似通っており、主人公の喪失とその後の再会で作られます。主人公は過去のエピソードによりえいえんのある世界へと行く運命を持っており、そのため世界と人々の記憶から消えゆきます。それをヒロインの言わば愛の力が繋ぎとめる形です。これ自体にも思うところはありますが、ここでは言及しません。
展開が似通っていれば、遊ぶたびにプレイヤーは飽きを感じるでしょう。特にこのジャンルは全ヒロインの物語を完走することをゲームクリアと見なしますから、展開の似通いは無視しがたい問題になると考えます。
では『AIR』はこの問題をどのように回避しているのか?
では、上記の3つの問題点をAIRはどのように解決しているのかを解説します。
空腹かつ一文無しであるというヒロインに近付く動機
AIRの主人公である往人は、空腹かつ一文無しです。この状況こそが、彼がヒロインらに近付く大きな動機として機能しています。
AIRで往人は最初、空腹を満たしたいという欲求をもって観鈴(の家の食べ物)に接近します。空腹を満たしたいという欲求は人間なら誰もが共感するものであり、そのため、年が離れた異性である観鈴に接近するファーストステップとして納得のいく動機になります。また主人公は一文無しでもあり、これはそのまま観鈴の家に滞在する理由として十分です。
…とはいえ、常識的に考えれば、いくら腹が減っていても、見知らぬ年下の学生の家に転がりこむのは不自然です。そのような不自然さを本作は解消していないとも言えるでしょう。一方、往人自身をかなり素っ頓狂な人物にする、始めは拒否するが食べ物に強く惹かれる…などのステップを経て観鈴家に訪れることで、不自然さを覆うことはできているとも考えています。
その問題が現れる原因を明確に持たせる
AIRで往人とヒロインの間を阻む問題には、明確な原因があります。こうして問題の原因を明確に持たせることで、例えキャラクターが何か非常識な行動を取ったとしても、その印象が悪化することがありません(そもそも人格面に問題が表出する展開自体も少なめですが…)。
AIR内での問題は、いずれもヒロインらの過去のエピソードに主な原因があります。こうして問題に明確な原因を持たせることで、その原因と問題が自然に繋がる限り、人はそこに共感できると考えます。例えば共感しがたい犯罪に手を染めた人物であっても、そこにやむにやまれぬ理由があれば、人はその心理に一定程度は共感できるでしょう。
例えば観鈴はその体質により、癇癪を起こして往人を拒絶してしまいます。これだけならば観鈴への印象は悪化する恐れがありますが、彼女はそのようなことをしてしまうに納得できる原因を持っています。彼女の母代わりである晴子も同様で、苦しむ観鈴に対して無関心なことには、明確な理由があります。このような例え共感しづらい行動や心理でも、原因や理由を示せばそうはならないことが分かるのではと思います。
『ONE.』も、主人公があのような人格に至った理由を、プレイヤーに伝える工夫があっても良かったのではと考えています。
主人公の抱える問題に踏み込むのが観鈴ルートのみ
そもそもONE.終盤の展開がどれも似通ったのは、主人公の問題に踏み込むからです。そしてどのルートでも主人公は同じで、ならば抱える問題も同じです。当然、展開が似通うのは無理からぬことでしょう。AIRはこれに対し、主人公の抱える問題に踏み込むのを特定の1ルートのみに絞っています。もっともこの解決法は、他のルートのボリュームをどう確保するかという別の問題も浮上させることになります。
『ONE.』はどのルートでも、終盤は主人公が抱える問題に踏み込みます。弟を失ったことでこの世界に希望を失い、えいえんにつづく幸せを求めてもう一つの世界へと移る約束を交わしてしまう。これにより主人公は、この世界からの消失を決定づけられてしまう…という問題でした。
そして主人公はどのルートでも同じであるため、抱える問題もどのルートでも変わらず、ならば必然的に展開も似通ってしまいます。あるいはヒロインごとに問題へのアプローチ法を変えるなどして変化をつける方法もあったでしょうが、これではシナリオ製作の負担が過剰になってしまうでしょう。
一方でAIRは、主人公の抱える問題に踏み込むのは1ルートのみに絞ってあるため、このような問題が発生していません。この問題に踏みこむのは観鈴ルートのみで、美凪と佳乃のルートでは、往人は一定の幸せこそ手にしますが、本当の問題…空にいる少女を見つけることは出来ずにエンディングを迎えます。やや大胆ではありますが、こうすればルートごとに内容が似通うことは少なくなるでしょう。
とはいえ、この形にしてしまうと、主人公の問題に踏み込まないルートのボリュームが不足する恐れがあります。ONE.は6人もヒロインがいます。このそれぞれに別の展開を用意し、しかも個別ルートとしてのボリュームを確保するとなると、物語を作るスタッフらの負担は大きくなるでしょう。
終わりに…と言ってもオチは特にない
私の主張というか、書きたいことは以上です。この記事をもって何か問題提起だとか、それに対する意見だとかを表明したいわけではなく、『ONE.』というレトロな作品への感想を、単にくさす以外の方向で書けないか…と思ってしたためた内容です。これをもってkey作品への分析と言うには視野が狭すぎますし、比較分析を名乗るには比較も分析も不十分でしょう。いち読み物として楽しんでいただけなら幸いです。