タイトル | 冥契のルペルカリア |
ジャンル | ADV |
対応機種 | PS4、Switch |
価格 | 通常版 7,678円 DL版 7,370円 |
プレイ時間の目安 | 15時間 |
総評
描かれる複雑な心境から、厚みを感じるキャラクター。
意外な真相を持つ、世界の仕組み。
キャラクターたちがたどり着く場所から見える風景。
「冥契のルペルカリア」は間違いなく力作でありました。
であるのに、どこか物足りなさを感じます。
とても力の入った作品なのに、どうも胸を打たれない。
なぜなら本作は、ドラマが弱い作品だからです。
いくつもの良い特徴を持ちながら、それを印象付けるキャラクターたちのドラマに、強さがありません。
本作のまず魅力だと感じた点。
それは複雑な心境を抱えたキャラクター描写です。
美少女ゲームらしさ色濃い桐葉氏の原画だからこそ、エグみのある内面は強烈。
心情が明らかになるシーンは、迫力あるCGも相まって大きな見どころになっています。
お約束だけで終わらないキャラクター造形が、一人一人を印象的な人物に。
世界設定もユニークでした。
これの解明はシナリオの根幹でもあるため、詳細は伏せます。
終盤、主人公たちが今いる場所の意味が、意外な形で明らかになります。
そしてこれもまた、あるキャラクターの内面へと結びついています。
そうして醜さも含む自身の内側、今いる世界と向き合ったキャラクターたちは、やがてゴールにたどり着きます。
そこからは、ありふれてはいるけれど清々しいメッセージを感じました。
このメッセージこそ、本作の醍醐味。
どんなシーンや人物もこのメッセージに収束し、そして歩みだすエンディングは、確かに感動的なものでした。
しかし、それでも本作は物足りない。
せっかくのメッセージが、今一つ胸に残らないのです。
壁を乗り越えて、エンディングにたどり着いた。
大きな決断をして、また歩みだしていく少年少女たち。
涙を流すほど感動しても良さそうなシーンなのに、なぜか心が動かない。
淡々と眺めているだけの自分がいる。
そうなってしまう理由は冒頭にも書いた通り、本作はドラマが弱い作品だからです。
本作は物語のテーマを演劇としており、登場人物はみな同じ劇団に所属しています。
彼らは壁を乗り越えながら、演劇を完成させようとします。
この挑戦の過程で様々なドラマが生まれ、物語を盛り上げるはずなのですが…
本作はどうも、このドラマが弱い。
ドラマ自体は存在するのですが、あまり強調してくれないのです。
ぶつかり合ったり挫折しかけたり、そうして苦しい道を通ってやり遂げるからこそ、その生き様にメッセージが宿り、プレイヤーの胸を打つ。
しかし本作は、そのぶつかり合い、挫折などのドラマが弱い。
そもそも小粒で印象に残らない。
あるいは問題発生から解決までが速すぎて、出来事の割には小ぢんまりして見えることも。
何かを乗り越えているように感じられないのです。
もちろん、そうして派手に感情を煽るばかりが良い物語ではないでしょう。
ですが本作のように、キャラクターたちの姿にメッセージをのせて伝えるならば、彼らが乗り越えるドラマはもっと印象的に仕上げてほしかった。
何が彼らから、勇気を奪ったのか。
何が彼らに、いまもう一度立ち上がる勇気を与えたのか。
メッセージを込めたエンディングで物語を締めるならば、このプロセスに強いドラマを持たせてほしかったと感じます。
またその他気になったのは、もってまわったセリフ、シーンが多すぎる点です。
遠回しなセリフ、後々重要な意味を持つが今はよくわからないシーン…これらを多用しすぎている。
このような表現自体は決して否定しません。
ただ本作は前述の通り、ストレートに感情を刺激するドラマが弱い。
そのうえで意味深な、今は意味のわからないシーンが多く挿入されるため、物語の掴みどころがいっそう弱くなっているように感じられました。
主人公たちは、自身の複雑な内面に向き合い、そして世界の真相を知り、エンディングを迎えます。
しかしこれを印象付ける良いドラマ、エピソードが不足しているため、ゴールする彼らの姿に、どうも胸を打たれないのです。
力強いメッセージを込めた作品であるはずなのに、物足りなさばかりが残る一本でした。
細かいレビュー
表現しきれていない、キャラの演技力
本作は演劇がテーマであり、劇中劇を披露するシーンがあります。
その中でキャラクターの持つ“演技力”をゲームが表現しきれていないのは、とても残念な点です。
本作には数名、演技の天才と評される人物が登場します。
しかし、彼らのその演技力を、私は全く感じられませんでした。
主人公の独白や地の文、観客の描写では「会場を飲み込む圧巻の演技力」だの「彼、彼女は天才だ」だのと表現されていますが、とてもそうは見えません。
声優さんは渾身の演技をしており「可愛い美少女キャラ」の枠を破壊している…とすら思うほどです。
しかし一方で演出などは特になく、また挿入されるCGは不出来ではありませんが「可愛い美少女キャラ」の域を出ていない。
これが声優さんの演技とミスマッチ。
天才の演技力よりも、むしろ見た目とボイスがちぐはぐな違和感を覚えました。
声優さんの演技ばかりが先走っており、ビジュアルと一致していません。
またその声優さんの演技も、演劇であることを過剰に意識してしまったのか、一部不自然なシーンがありました。
しかもそのキャラクターは作中で天才とされる人物。
物語内での表現と現実の私の受ける印象が、大きく異なりました。
終わりに
意味深なシーンこそ多いものの、そればかり。面白いと感じられるシーンは少なめです。
それがせっかくのメッセージの強度を下げています。
ストレートな物語を求めると肩透かしを食らうかも。
もって回って後につなげる前フリを丁寧にやるぶん、「そういうことか」と納得はさせられるけれど、驚きは犠牲になっているとも感じられました。
キャラクターの複雑な内面が吐露されるシーンは見どころ。
世界設定もユニークです。
どの人物、どのシーンも無駄なくエンディング、メッセージへ収束し、清々しい終わりを見せてくれる一本。
お話の構造も一般的なギャルゲーと大きく異なっており、変化球を味わえる内容であるのは確かです。
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