11月の新作が2本しかないからといってエ〇ゲ業界は終わりだと判断するのは危険である理由をクリティカルシンキングする。

本の感想
この記事は約13分で読めます。

先日、こんなタイトルのまとめ記事を見かけました。

【悲報】エ〇ゲ業界、ガチで終わってしまう… 11月発売のエ〇ゲはなんと2本だけ…😭
※伏字は筆者によるもの。R18要素を含むためリンクは貼りません。

2023年11月の発売日カレンダーを見ると、新作エ〇ゲが2本しかなく、それを業界の衰退に結び付けた記事タイトルです。

これは一見するともっともらしい考えのように感じられます。しかし、本当にその通りなのでしょうか。私自身は、一か月の発売本数から業界の衰退にまで繋げて考えてしまうのは、危険なことだと感じています。

というわけで今回は『【悲報】エ〇ゲ業界、ガチで終わってしまう… 11月発売のエ〇ゲはなんと2本だけ…😭』に対し、このように考えてしまうことが危険であると感じる理由を書きます。

…と言っても、私は別に上記まとめ記事に対して怒っているだとか、エ〇ゲ業界の衰退論に対抗したいわけではありません。多くのまとめ記事は注目を集めるため、週刊誌の見出しのように(あるいは当ブログの記事のように)センセーショナルなタイトルをつけるものですし、エ〇ゲ業界は実際、衰退してきていると感じています。

であるのに上記のまとめ記事に対してカウンターを放つ理由は、最近『クリティカルシンキング 入門篇: あなたの思考をガイドする40の原則 』という本を読んだからです。この本はものごとに対する批判的な思考についての原則をまとめた一冊で、これにより得た知識を、さっそくどこかで使ってみたいと感じていました。

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上記のまとめ記事はこの練習に丁度良い対象だと感じました。またエ〇ゲはこのブログには馴染みのある話題でもあります。そのような噛み合いから、こうして狙い撃ちするような記事を書くに至りました。

そのため、この先の私の主張は『クリティカルシンキング 入門篇: あなたの思考をガイドする40の原則 』(以下、クリシン入門と略します)で得た知識を下地にしたものになります。
当然、私がこの本の内容を完全に理解している保証はありませんし、そもそもこの本が完全に正しい内容である保証も、やはりありません。

はじめます。

まとめ記事の主張を簡単に整理

まず最初に『悲報】エ〇ゲ業界、ガチで終わってしまう… 11月発売のエ〇ゲはなんと2本だけ…😭』が主張している事柄が何であるかを整理しておきます。

と言っても内容は簡単で、発売日カレンダーを見る限りでは2023年11月の新作が2本しか見当たらない。これは業界がガチで終わっている(衰退している)からである…と見ていいでしょう。

つまりまずエ〇ゲ業界の衰退という原因があり、その結果が、2023年の11月の新作が2本という事実である…という主張と読めます。業界の衰退と発売本数の減少に因果関係があるという主張です。

この論は正しいのでしょうか。クリシン入門に基づき、考えてみます。

ものごとの因果関係を決定するための三つの基準

前述の通り私は、2023年11月の新作発売本数を、業界衰退という原因の結果であると判断するのは危険だと考えています。その理由は、11月の発売本数が少ないことと、業界が衰退していることを因果関係で結ぶことはできないと考えているからです。

ではそもそも、物事の因果関係を判断する際に私たちはどのような点に気を付ければ良いのでしょうか。

クリシン入門によれば、物事の因果関係を決定するには、以下の三つの基準を満たす必要があります。

1.共変関係
2.時間的順序関係
3.もっともらしい他の原因の排除

それぞれの意味を解説します。

共に変化する関係…共変関係

もし出来事Aの原因が出来事Bであるならば、出来事Bが変化したとき、出来事Aも変化する。これが共変関係です。

これは出来事間の因果関係を決定するうえで重要な基準になるようです。ある出来事を別の出来事の原因だと判断するには、両者が共変関係にあることを確認する必要があります。

例えば、洪水が起こる原因は何かと考えた場合、大抵の人は大雨がそうだと判断するでしょう。
これは大雨が降ると洪水が起こり、雨が降っていないとき、あるいは小雨であった場合には洪水が起こらない=大雨と洪水が共変関係にあるからそう判断していると言えます。

逆に言えば、雨が降っていなくても洪水が起こったり、あるいは雨量が少ないのに洪水が起こった場合は、大雨が変化しているのに洪水が変化していないことになります。この場合は共変関係が認められないため、洪水の原因は大雨以外にあると考えられます。



ただし、共変関係は因果関係を判断する基準の一つであり、これ単体では因果を証明することはできません。
例えば、夏はアイスクリームの売り上げが増えるでしょう。そして同時に、熱中症で救急搬送される人が増えます。つまりアイスクリームの売り上げと熱中症患者の数は共変関係にあると言えますが、では熱中症の原因はアイスの売り上げ増加なのかと言えば、もちろん違います。この関係の裏には「気温の高さ」という真の原因があります。このような共変関係の裏にある真の原因を第三変数と呼びます。

原因の後に結果…時間的順序関係

もし出来事Aの原因が出来事Bなら、出来事Bの後に、出来事Aが発生する。これが時間的順序関係です。

原因より先に結果が発生することは有り得ません。そのため、出来事Aの原因を出来事Bだと判断するのであれば、BがAより先に発生していることを確かめる必要があります。

例えば、雨が降る前には雲が出ます。時間的順序関係で見ると、雨の原因は雲の発生であると考えられます。逆に雲が出る前に雨が降った場合は、雨の原因は雲ではないと考えられるでしょう。

上記は単純な例ですが、時間的順序関係は判断が難しい場合もあります。
例えば、勉強ができることと頭が良いことの因果を時間的順序関係で見た場合、どちらが原因で、どちらが結果であると言えるでしょうか。
頭が良いから勉強ができるとも考えられますし、勉強ができる=勉強をたくさんしたからこそ頭が良いのだと考えることもできます。どちらが正しいのかは慎重に見極める必要があるでしょう。

他に考えられる原因はないか…もっともらしい他の原因の排除

出来事Aの原因を出来事Bだと決定する前に、他に原因だと考えられる出来事C、Dなどが存在するならば、それを合理的に排除できなくてはいけません。

例えば、ある地域の人口が年々減少しているとします。調べて見ると、この地域では高齢化が進んでいることが分かりました。このことから、人口減少の原因は高齢化による人口の自然減であると考えられます。しかし、原因は本当に高齢化だけなのでしょうか。

更に調べて見ると、隣の地域への移住者が、若者を中心に年々増加していることも判明しました。どうやら隣の地域が若者向けの政策に力を入れ始めていたようで、これを魅力に感じた若者が次々に移住していたのです。高齢化が人口減の原因であると断定するためには、このような他に考えられる原因を考え、それらを全て合理的に排除する必要があります。

とは言え、他の原因を全て洗い出すのは容易ではありません。物事の原因は複雑に絡み合っている場合が多いからです。だからこそ目の前の出来事ばかりに注目して因果関係を決定するのは誤解を招く危険があります。

『【悲報】エ〇ゲ業界、ガチで終わってしまう… 11月発売のエ〇ゲはなんと2本だけ…😭』の因果関係をクリシンしていく

『【悲報】エ〇ゲ業界、ガチで終わってしまう… 11月発売のエ〇ゲはなんと2本だけ…😭』は上記三つの基準をクリアした主張なのでしょうか。

確認していきます。

業界衰退と発売本数減少は共変関係にあるか?

まずは共変関係から確認します。

もし2023年11月の新作が2本しかないことが業界衰退という原因の結果であるならば、業界の盛り上がりと11月の新作の発売本数に正の相関(業界が盛り上がるほど発売本数も増える関係)があるはずです。

本来、ここでそもそも業界の衰退とはどのような状態を指すのかを明らかにする必要があります。しかしこれは手間を省くため、私の推測で2000年代後半をピークに段々と進んでいるものだと仮定した上で考えていきます。我ながらいい加減ですが、かといって当てずっぽうでもありません。大抵のファンは肌間隔でそのように感じているだろうと考えています。

そして年々衰退が進んでおり、毎年11月の新作がそれと共変関係で結ばれるならば、11月の新作本数は年を追うごとに減少しているはずでしょう。

これを確かめるため「ErogameScape」の年間/月間エ〇ゲー統計表を使って、直近5年の11月の新作を数えてみました。

2023年11月:7本
2022年11月:35本
2021年11月:22本
2020年11月:30本
2019年11月:25本
※ブランド名に(同人)と表記されているもの、全年齢向けのものは除外。

結果は出たように思います(そもそも現時点では2023年11月の新作が2本ではなく7本ありますが、この業界は発売日カレンダーが変わりやすいため仕方ないでしょう)。

ちなみに11月はこれを買う予定です。

さて、少なくとも本数だけをカウントするならば、過去4年の毎年11月は、30本前後の新作が発売されているようです。業界は年々衰退していると仮定しました。しかし毎年11月の新作発売本数はここ数年は安定しており、両者に共変関係はないと言えます。そのため、11月の新作発売本数が少なかったからといって、それを業界の衰退に結び付けて考えるのは早計であると言えます。

ただ発売日カレンダーの内容を見ますと、ファンディスクや追加ストーリーなどの短編、ミドルプライス作品が多く見られます。これらはフルプライス帯と比べると開発規模が小さいはずです。このことから、業界の衰退により開発費をかけた作品の発売が難しくなっているのではと仮説を立てることもできます。ですから、本数が安定しているからといって、業界が安泰だと考えるのも同じく早計です。また年間の発売本数を集計してみたら、もしかすると年々減少しているのかもしれません。

つまりここで言いたいのは、1年の内の1ヵ月の発売本数で業界の衰退を判断することはできないということです。

衰退と11月の新作減少は、時間的順序関係でとらえることができるか?

時間的順序関係でとらえることは可能ですが、これは明らかに不自然です。11月の新作減少は今年に入って突然見られた現象であるのに対し、業界衰退は年々進行している(と仮定した)からです。

これを強引に時間的順序関係で結ぶと、業界は2023年に入ってから急激に衰退したことになります。また時間的順序が逆…つまり本数が減少したことが原因で業界衰退という結果が出たと見ようとした場合でも、同じように急激な衰退という結論に達してしまいます。

とは言え、原因と結果の時間的順序関係にはタイムラグがある場合もあるでしょう。例えば病気の原因は食生活や寝不足である場合が多いですが、これが病気と言う結果として現れるには長い時間がかかります。
しかし、このケースは今回の話題には当てはまらないと考えます。年々の衰退の影響が今年の11月に突然現れる理由を説明できないと感じるからです。

11月の新作減少に、業界衰退以外のもっともらしい原因はないか?

いくつか考えられます。

・単なる偶然
・流通、決算などの関係
・法律、制度の変更などの関係
・社会情勢などの関係

例えばお隣の全年齢向けゲーム業界は、決算前の時期は発売本数が急増する一方で、5月の連休の時期には大幅に減少する傾向があります。またAV新法などが耳に新しいですが、法律や制度の関係によって一時的に新作が大きく減少することも考えられます。更に東日本大震災の時に娯楽作品の展開が自粛されたように、社会情勢の潮流も無視できません。業界衰退と11月新作減少の背後にある第三変数を見逃している可能性もあるでしょう。

もっとも有力だと私が考えるのは、単なる偶然です。

これらを合理的に排除できない限り、11月の新作減少の原因が業界衰退だと判断することはできません。

結論:11月の新作が2本しかないことと業界の衰退を結び付けるのは早計である

悲報】エ〇ゲ業界、ガチで終わってしまう… 11月発売のエ〇ゲはなんと2本だけ…😭』は、クリシン入門に基づく因果関係を判断する三つの基準を、一つもクリアできていないことがわかりました。

以上のことから、11月の新作が何本だろうが、それを業界の衰退と結びつけるのは早計であり、誤った理解をしてしまう危険があると主張します。

【おまけ】では、どのようにして正しい因果関係を探れば良いのか?

では逆に、この二者間に因果関係があるのだと論証したい場合、どのような方法を取れば良いのでしょうか。最後のおまけとして、これに触れます。

クリシン入門によれば、そもそも因果関係を適切に判断するのはとても難しいとしたうえで、以下の 三つの方法を使うと良いと書かれています。

1. 一致法
2. 差異法
3.一致と差異の併用法

それぞれ解説します。

推定原因Aが存在する全ての状況で、結果Bが生じているか…一致法

推定原因Aが存在するとき、結果Bが必ず生じているなら、Aが原因だと仮定することができる。
これが一致法です。
加えて、同じ結果Bが生じている
複数状況下で、その共通項が推定原因Aのみである場合、より強くAが原因であると主張できます。

例として、雨が降る原因を考えて見ます。雨が降るときは雲が出ています。そのため雲の発生を降雨の推定原因としました。これは正しいのでしょうか。一致法に基づいて考えてみます。

一致法では、推定原因Aがあるとき、結果Bが必ず発生していることを確かめます。例の場合は推定原因である雲が発生しているとき、必ず雨が降っていなくてはいけません。しかし雲が出ていても雨は降らない場合は多いでしょう。そのため、一致法に基づいて考えると、雲の発生という原因と降雨の結果に因果関係があると断定することはできないと言えます。

出来事Aが発生している状況とそうでない状況があるなら、その状況の違いにこそ原因が潜んでいる…差異法

一方で出来事Aが発生し、もう一方で発生していないなら、二つの状況で違うものの中に原因があると考える。これが差異法です。

もう一度、雨が降る原因を例にします。
雨が降っている地域には、灰色の雲が空に多く浮かんでいました。雨が降っていない地域では、雲自体は浮かんでいるものの、小さく、白色でした。差異法では、違う結果が出ている二つの状況の違いに注目します。この場合、両者の違いは雲の量と色です。差異法に基づいて考えると、雨は雲の色や量と因果関係があると仮定することができます。

ただし、差異法は単独で使われることはほとんどありません。二つの状況下で異なることなど無数にあるからです。例で言えば、気温や風向き、時間、季節、湿度など、雲の色と量以外にも様々な要素が異なっていることでしょう。これでは原因を特定することはできません。

そのため、差異法は一致法との併用が基本になります。

原因Aがあるとき結果Bが発生し、ない場合は発生しないことを立証する…一致と差異の併用法

推定原因Aがあるとき、必ず結果Bが発生しているなら。AがBの原因であると仮定できる。これが一致法です。
結果Bが発生していない時、発生している場合とは違うものの中に原因があると考える。これが差異法です。
この二つを同時に使う一致と差異の併用法こそが、多くの実験でも用いられる、もっとも有効な因果関係の立証方法です。

手順としては、まず推定原因Aの有無以外、全てが共通項である状況をいくつも用意します。その中で結果Bが発生した状況には必ず推定原因Aがあり、発生しなかった状況には推定原因Aが無かった場合、Aが結果Bの原因であると立証することができます。

実際は推定原因A以外を全て共通項にすることは難しいため、いくつもの状況を無作為に選び、推定原因Aの有無以外の共通項が存在しないことそのものを共通項にする場合も多いようです。


以上です。

ほとんどが本で得た知識の横流しです。当然、本の内容が誤っていればこの記事の内容も誤っていますし、また、こちらの方が確率が高いですが、冒頭にも述べた通り私が本の内容を完全に理解しているとは保証できない以上、この記事の内容の正しさもやはり保証できません。その判断は読者に委ねます。

またこれも繰り返しになりますが、私はエ〇ゲ業界の衰退自体には反論するつもりはありませんし、今回対象にしたまとめ記事に怒っているわけでもありません。単に得た知識を使う練習台としてちょうどいいと思ったから選んだまでです。

以下、参考…というかパクった本の表紙の画像を貼っておきます。内容に興味がある場合、ぜひ購入して読んでみてください(画像をクリックしても商品ページには飛びません)。

プロフィール
書いている人

日々プレイしたゲームの、忖度のないレビュー。オタクしていて思ったことを書いています。ADV、音ゲーが特に好き。

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