百合の魅力とは、いったいどこにあるのでしょうか。
禁断を冒す恋愛、それを覗く背徳感か
男女の恋愛にはない、純潔さなのか
今回遊んだ「神田アリスも推理スル。」は、そんな百合の魅力が丁寧に描かれた作品。
低価格帯のADVとは思えないクオリティの高さで、物語の世界に入り込める良ゲーでした。
一方、タイトルにあるわりには「推理」の要素は控えめ。
探偵気分を味わいたい…という方には、少し物足りないかもしれません。
タイトル | 神田アリスも推理スル。 |
ジャンル | ADV(ノベル) |
対応機種 | Switch |
価格 | 1500円 |
プレイ時間の目安 | 4~6時間 |
総評
本作は女子校を舞台にした、いわゆる「百合」、そして推理をテーマにしたADVです。
主人公は弓道部に所属する金髪の少女「神田アリス」
同部内の親友、メイこと「穂高明(ほだかあきら)」が、部内で起こったある事件の濡れ衣を着せられることから、物語は幕を開けます。
親友であり、また密かに想いを寄せる相手でもあるメイ しかし彼女は、事件をきっかけに弓道部を辞めることを決めてしまう。 メイの濡れ衣を晴らしたい、みんなからの誤解をときたい…そう思うアリスにクラスメイトから知らされたのは、茶道部の『占い師』の噂だった。 聞けばその占い師は凄腕で、どんな悩みも解決してしまうのだという。 その人なら、この事件の真相も解き明かしてくれるかもしれない… 茶道部を訪ねるアリスとメイ そこで二人が出会ったのは、人形のように美しい目鼻立ちと艶やかな黒髪、紅葉色の着物を纏う麗人「佐和良義 宝珠(さわらぎ ほうじゅ)」だった。
システムはオーソドックスなADV、ノベルゲーです。
選択肢によりエンディングが分岐
あまり難しくありませんが、バッドエンドもあり。
この価格帯のADVとしては、頭一つ抜けた完成度であると感じました。
文章、絵、音楽…どれをとってもレベルが高い。
特にライター、志水はつみ氏の文章は、まるで純文学のような味わいがあります。
ほんの一瞬の風景の美しさやキャラクターの繊細な心理を、言葉の力で色鮮やかに切り取っています。
それを支えるBGM、CGも、数は少ないですが低価格帯とは思えないクオリティです。
この値段のADVだと、どうしても絵や音楽の粗は仕方がない…と目をつむることが多い。
しかし、本作にはそれが全くありませんでした。
一つ一つの素材が高いレベルでまとまり、プレイヤーを作品世界に引き込んで離しません。
物語にどっぷりと入り込むことができました。
フルボイスである点も大きなポイント
本当にこの値段でいいのかと思わされます。
そのぶん、ボリュームは控えめ。
分岐を全て回収しても5時間程度の内容です。
密度で勝負している作品と言えるでしょう。
また、タイトルに推理とありますが、推理ゲーとしての側面はそれほど強くありません。
美少女×推理は惹かれる組み合わせ
しかしそれを目当てに遊ぶと、肩透かしを食らうかも。
プレイ時間は短いため、これでお休みを潰す…というのも難しい。
公式からネタバレ自粛のお願いがされており、配信プレイもNGです。
しかし百合に抵抗がなく、ノベルゲー好きならぜひ遊んでほしい作品。
クオリティはフルプライスタイトルに全く見劣りしません。
細部まで丁寧に構築された作品で、物語の世界に深くトリップすることができます。
繊細に描写された、キャラクター同士が惹かれ合う過程に注目です。
詳しいレビュー
全てが調和。作品世界を堪能できる作り込み。
ノベルゲーは物語を楽しむゲーム。
だからこそ、その物語にいかに入り込ませるか?
プレイヤーを作品世界にどう引き込むか?
これは大変重要であると思っています。
本作は、その点において正に理想と言える出来ばえだと感じました。
ライターの文章を芯に、絵、音楽はもちろん、SEからバックログの背景に至るまで。
ゲームを構成する要素が徹底して、作品世界を表現しており、これを乱すものが何一つありません。
ゲームを遊んでいて、「戻される」瞬間がほとんどない。
秋の風景を色鮮やかに、揺れ動くキャラクターの心理を繊細に描写する文章
光が取り入れられ、どこまでも透き通るイメージのイラスト
そこに添えられる穏やかな、あくまで背景に徹するBGM
セーブしようとボタンを押せば鈴の音のような効果音が鳴り、メニュー画面の背景には紅葉が散りばめられています。
細部まで練り上げられた作品世界は、遊ぶプレイヤーの心を引き込んで離しません。
たとえバックログを確認している時でさえ、現実に引き戻されることがないよう作り込まれています。
主に通勤時間帯にプレイしていたのですが、そんな忙しい時でさえ、本作をプレイしている間は時間がゆっくり流れているように感じました。
あなたは女子校、茶道部、百合…と聞いて、どんな作品世界を思い浮かべるでしょうか?
現実を忘れて、そんな物語の世界に入り込みたい…
こんなプレイヤーには、特にオススメできる作品です。
花開くように。その美麗さに目を奪われる「百合」描写
公式は本作を「百合系ショート・ミステリアドベンチャー」とジャンル付けています。
その名の通り、本作の「百合」描写は力が入っています。
短いゲームながらも、惹かれ合う二人の心理をじっくりと描いてある。
そのため、短めなADVの恋愛展開にありがちな、いつ惚れたのかがわからない唐突さがありません。
描写が丁寧なぶん、展開に説得力があるため、キャラクターに感情移入しながらプレイすることができました。
初めは密かに寄せるだけ。ちょっとした憧れだった想い。
それがいつしか二人を繋ぐものとなり、お互いがお互いにとって、かけがえのない存在へと変わっていきます。
わたしは特段に百合オタクというわけではない…むしろ普段は、男女の恋愛中心のギャルゲーを遊ぶことが大半です
しかし本作をプレイし、百合の魅力を再確認させられました。
百合好きはもちろん、そうでないプレイヤーにも、本作はオススメできます。
じっくりと描かれる百合展開には、たとえそれに思い入れがなかったとしても、きっと胸を打たれます。
タイトルにある割には薄めの推理要素
タイトルに「推理」の言葉があるのですが、本作の推理要素はあまり強くありません。
各章で事件(血は流れない)が発生し、選択肢で真相を当てる必要があります。
間違えてしまうとバッドエンド行き
ここが本作の「推理」になっています。
しかし十分にヒントを提示した上で選択肢が出るので、決して難しくはありません。
あまり本格的な推理を期待すると、まず確実に肩透かしを食らいます。
どちらかというと、百合要素の方が強めなので、ミステリは物語のアクセント程度に考えておくといいでしょう。
推理ゲーとしても楽しみたい!という方には、本作はオススメできません。
公式から動画、生放送の公開は禁止されています
本作は短編ADVということで、公式から事前承認の無い動画、生放送の公開は禁止されています。
終わりに
イーショップで見て気になり、軽い気持ちで遊んだ本作。
想像以上に良い作品でした。
推理要素が思った以上に薄味だったのは事実で、そこを求める人には向きません。
しかし、それを考慮してもこの価格帯、同ジャンルの中ではずば抜けた完成度。
物語の世界を堪能することができました。
ノベルゲー好きかつ、百合に抵抗がない人にはぜひ遊んでほしい一作です。
ゆっくり流れる時間を味わうことができますよ。
テキストADVファンによる、テキストADVファンのための、オリジナル雑誌“風”記事。
「テキストADVマガジン」を、月に一度公開しています。
CSの新作スケジュールから面白いフリーゲーム紹介、簡易レビューまで詰め込んだ、ADV好きのための記事です。
このゲームもオススメ
本作と同ジャンル、同タイプのゲームとして、こちらの作品「ゴシックマーダー」も紹介しておきます。
百合は無し。
本作よりも推理要素が強めのADVです。
推理ゲーとしてもゲームを楽しみたい!という方にオススメです。