【クダンノフォークロア】レビュー・評価 崩落寸前の凡作。山場のために歪められる人物とその心理。

1.0
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※ここからネタバレあり

レビューの根拠となったシーンの提示…恋愛編

レビュー内で私は「恋愛面における仲が深まっていく過程の描写が不足している」と書きました。この根拠になっているのは小兎と塔子、それぞれのルートですが、どちらも書くと長くなりすぎるため、ここでは塔子に焦点を絞ります。

本作のヒロインの一人である「志摩塔子しま とうこ」は、主人公である「九段朔夜くだん さくや」に深い愛情を抱きます。しかしその心理に至るまでの過程は不明瞭で、関係が唐突に進展しているように見えてしまいます。

塔子が愛情を抱く決定的なきっかけは、ある出来事の際、朔夜が自分を庇ってくれたことだとして描かれます。しかしこのエピソードは、塔子が心を寄せる姿をプレイヤーに伝えられていません。なぜなら朔夜の行動は、朔夜がもともと持っている設定どおりに動いた結果に過ぎないからです。

朔夜は剣道をやっており、その腕前は体調不良のまま試合をしても大会で準優勝するほどです。しかし自分の男っぽさにコンプレックスを抱いており、理想の女性像に憧れている…という設定を持っています。この女性像に合致するのがヒロインである塔子を理想の女性像だとして、出会った瞬間から惹かれています。

このような朔夜がもともと持っている自身の好みと、剣道の強豪であるという人物設定。ここから察するに、襲われる塔子を身を挺してかばう行動は、朔夜にとってごく自然な…少なくとも意外性のあるようなものではありません。そもそもがそういう人物であると読み取れます。

要するに、塔子が心を動かされたされる「朔夜が塔子をかばう」というエピソードは、設定からして庇うであろう朔夜が、これまた設定からして庇われそうな塔子を庇った。それだけの話です。そこに意外性だとか、心を動かすだけの何かを伴っていない。もちろん塔子の心が何をきっかけにどう動くかは分かりません。ただいずれにせよ、心が動いていることがプレイヤーに伝わらないなら、そのまま山場へ入っても不自然さが目立ってしまうことになります。

もし朔夜が恐怖で葛藤する様の描写があったならば、話は変わるでしょう。

キル・ビルを甘く見ていた…ってのもマジでわかんない表現

また塔子の側に目を向けても、塔子が「庇われた」だけで心をあそこまで動かされるのは、不自然に見えます。塔子は庇われそうな状況で、庇いそうな人物に庇ってもらっただけなのに、なぜそれだけで朔夜に惚れこむのでしょう。

塔子は作中で、高校生になるまで自販機を使ったこともなかったほどの箱入り娘であることが語られています。このことから、幼い時分から守ってもらうことが日常的であったと自然に類推できると考えてます。ですから、「庇ってくれた」にあそこまで心を動かされる彼女の様子は、私には不自然に映ります。

例えば塔子が、幼いころから誰かから迫害を受けいるだとか、自分の身を自分で守って傷ついてきただとか、そのようなバックボーンを持っているなら話は別です。

塔子がどのような出来事で心を動かされるかは彼女次第です。だから例え意外性のない展開であったとしても、そのときは偶然や心情などの影響により、主人公に強く心を動かされたのだとすることもできます。

しかしそうだとしても、やはりプレイヤーが読み取れるものとの乖離があることは変わりません。塔子にとってどうであれ、プレイヤーにとっては設定どおりの展開だからです。そうして設定どおりの関係を見せただけで2人の関係は深まったのだとし、深まったがゆえの大仰な見せ場に持っていけば、キャラクターらは盛り上がっているかもしれませんが、プレイヤーから見れば設定で完結した関係をスライドさせたまま見せ場に入る不自然さが先に立つでしょう。

根拠の提示…ミステリ編

ミステリ編の根拠となるシーンはいくつもあります。全てを提示しきるのは大変なので、ここではフォーチュンラインの章のみをピックアップします。

私はレビュー内で「犯人が探偵に事件を解いてもらうために行動しているように見える」と主張しました。フォーチュンラインの章でこれが決定的なのは、犯人が夜の公園で朔夜らの前に姿を見せるシーンです。

犯人はなぜ、あんな場面でいきなり姿を見せたのでしょうか?

現場には被害者と朔夜、その友人の3人がいる状況なのですが、犯人はいきなりその姿を見せます。これがきっかけで朔夜は事件がフォークロアでなく、人間による犯行だと気づき、真相へとたどり着きます。

犯人が自ら真相を語るシーンでは、犯人の行動の理由は「被害者を怯えさせたかったから」と結論付けられますが、ならばあんな場面で姿を見せたのは、どう考えても不自然です。

怯えさせたいなら被害者が一人になったところを狙うべきですし、運動神経の良い朔夜が被害者に連れ添っている場面で姿を見せれば、逆に捕まってしまう恐れもあるはずです。まるで事件を解いてもらいたい、朔夜に名探偵になってほしいがために取った行動のように見えます。

とはいえ、単に犯人が盛大にミスをしたのだと解釈することも可能です。ただ仮にそうだとしても、ならば事件解決の要因は、朔夜の活躍と言うよりは犯人のマヌケさに寄るものに見えてしまうことになります。

根拠の提示は、以上になります。

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