「親ガチャ」なんて言葉が流行語に選ばれてしまうくらいだから、自分の力ではどうすることもできない、でも一生を左右し続ける“運命”に理不尽さを感じる若者は少なくなさそうだ。
格差の固定化、貧困の再生産。
SNSの力で、見る必要のない他人の人生(しかも一番いいとこだけ)が視界に入ってしまうから、余計に差を感じずにはいられない。
「アンレス・テルミナリア」は、そんな理不尽な運命を背負った少年が主人公の物語です。
物語のテーマには惹かれます。
しかし、肝心要である運命の印象付けが弱いため、胸を打つ力を持っていません。
独自の世界設定も、入り組んでいるわりには説明不足で、ストレートな感動を届ける作品ではないと感じました。
タイトル | アンレス・テルミナリア |
価格 | 9,800円(税別) |
プレイ時間の目安 | 20時間 |
備考 | 18歳未満および高校生以下は購入、プレイできません |
総評
理解しづらい設定と、引き際をわきまえ過ぎている“運命”が、物語の面白さを削いでいる。
もったいなさを感じる作品でした。
公式は本作を「運命の意味を問う物語」と位置付けています。
突然訪れて、その後の一生を決めてしまう。
まるで交通事故のような“運命”に囚われた少年が主人公。
彼は予測も回避もできない運命に縛られ、人並みに生きることすら困難になってしまいます。
抗いようのない運命を、どう受け止め、新しい朝へと進んでいくのか。
このような点が、本作の大きな見どころです。
しかし残念なのは、主人公たちをがんじ搦めにしているはずの運命が、どうも引き際をわきまえ過ぎている点です。
運命とは、勝手にやってくるくせに強靭で、ちょっとやそっとじゃビクともしない。
理不尽なものであると思います。
だからこそ、運命に真正面から向き合って見出すものは、負けないくらいの強靭さをもち、印象的になる。
ですが本作は、そのような運命の理不尽さ、強さを表現するエピソードが不足しています。
設定上、キャラクター達に強い影響を与えているはず。
それを実感できません。
そのうえルート後半になると、まるで空気を読むかのように、あっさりと舞台袖へと消えていってしまいます。
エンディングを見終えても、強大なモノから勝ち取ったような感が得られません。
主人公とヒロインがたどり着いたゴールに、今一つ胸に響かない。
テーマに反して、物語に軽さを感じました。
また本作には「異能」や「神」など、運命を演出する独自の設定が用意されています。
物語の後半は、これらの解説、種明かしもまじえながら、スケール大きく展開していきます。
しかし気合の現れであろうこれら設定にも、説明不足、唐突すぎる点が多く見られたのがもったいない。
理解を追いつかず、物語を面白くする以上に、掴みどころをなくしていると感じました。
根本のテーマには惹かれました。
人間ならきっと誰もが抱えている、理不尽なくせに強靭な運命。
主人公たちは、それにどんな意味を見出すのか…
興味深くプレイすることができました。
しかし、その期待に応えてくれる内容だったとは言い難い作品でした。
運命の強さを印象付けてくれないため、その先のゴールに感動もしづらい。
独自の設定は十分な気合を感じますが、分かりやすく答えを示してくれてもよかった。
惜しさを感じる一本です。
更に詳しくレビュー
壮大な、本作独自の設定
多くの独自の設定を盛り込んだ「アンレス・テルミナリア」
中でも最大の特徴であり、物語の鍵になる要素があります。
それは主人公はじめ主要キャラがみな「異能」と呼ばれる、何らかの能力を持っている点です。
と言っても、バトルもの少年マンガのような役に立つものばかりではありません。
特に主人公はハンディキャップに近い能力を持っており、これが彼の人生に多大な影響を与えています。
(自身が決めた一つのこと以外、新しい記憶を持ち越せない能力)
異能は、ある日突然、前触れなく与えられると設定されています。
まるで天災か何かのように。
本作の異能は、理不尽な運命の象徴として描かれます。
主人公はヒロインと共に、突き付けられた運命の意味を見出していきます。
しかしもったいないのは、これら独自の設定はやや理解が難しく、また唐突さを感じることが多い点です。
物語後半は、異能など設定の解説、伏線の回収も盛り込み、スケール大きく展開していきます。
しかし解説は不十分で、ざっとプレイしているだけでは全容がつかめません
また展開はそれまでの文脈に対してスケールが大きすぎ、唐突な印象をうけました。
その後はクライマックスへと進みます。
しかし世界の仕組みを把握しきれず、また展開についていけない。
そのため、結局主人公たちは何をどのように乗り越えたのか、それがどれほどスゴいことなのかが、今一つ実感できないのです。
オリジナリティある物語は大歓迎です。
ただし、これらがで良い働きをしていたかと聞かれれば、イエスとは言い切れません。
終わりに
物語の主題には惹かれました。
粗あれど、このボリュームにこれだけのスケールのシナリオを詰め込んだ点から、作り手の熱意を感じます。
だからこそ、主人公たちがたどりついた“運命の意味”を伝える力が、今以上に欲しい。
強大なものから勝ち取る達成感と、独自の世界の仕組みを知る喜びを、もっとストレートに伝えてよかったと感じました。
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