楽しみなことは、始まる前が一番楽しい…これを実感することが、年を取ってからは増えてきました。
始まってしまえば、終わりを意識せずにはいられませんから。
「Summer Pockets REFLECTION BLUE(サマーポケッツ リフレクションブルー)」は、あの「CLANNAD」のKeyが送る、田舎で過ごす夏休みが舞台の恋愛ADV。
変人だらけの島で過ごす賑やかな夏休みからは、明日のことを一切に気にせず遊び倒した“あの頃の夏休み”を感じることができました。
作品全体が季節感を持っており、夏に遊ぶにはうってつけの一本。
しかし、個別ルートに入ってからの心理と関係の描写が不十分。
感情移入しきれないまま話が進み、肝心なところで心を動かされなかったのが残念でした。
タイトル | Summer Pockets REFLECTION BLUE |
ジャンル | ADV(ノベル) |
対応機種 | Switch / PC |
価格 | パッケージ版 希望小売価格 8,800円(税込) ダウンロード版 販売価格 7,500円(税込) |
プレイ時間の目安 | 30~35時間 |
備考 | 無印「Summer Pockets」から3000円でアップデート可能 |
総評
「Summer Pockets REFLECTION BLUE」は、都会から離れた島を舞台にした恋愛ADVです。
2018年に発売された「Summer Pockets」に新ヒロイン、ルートの追加などがされた完全版と言える作品。
それに伴いタイトルが「 Summer Pockets REFLECTION BLUE 」に改められました。
主人公は高校生、鷹原羽依里(たかはら はいり)
夏休みを利用して、亡くなった祖母の遺品整理を手伝うため、島を訪れます。
そこで出会う同年代の少年少女たちと過ごす、時に賑やかで、時に切ない夏休み。
もう遠い昔の思い出になってしまった、あの頃に戻る物語を、プレイヤーは体験します。
夏休みを遊ぶギャルゲー
それが本作の第一印象でした。
悪ふざけのような遊びに満ちた選択肢が多く用意されている他、おまけの枠を超えた遊びごたえのミニゲームには専用のエンディングまで。
仲間たちとバカをやりながら進む共通パートは、ともに夏休みを遊ぶという感覚が強い。
物語の中でしか見たことがないような原風景が広がる島で、友達と遊び倒す夏休み。
これを味わうことができました。
個別ルートへ入ると、賑やかさは残しつつ、シリアスな物語へと展開していきます。
その中には島に伝わる不思議な伝承、現実ではありえない超常現象も。
ひと夏の不思議な体験と、旅先で出会ったヒロインとの恋愛が描かれます。
夏と田舎の作品世界にマッチしたものだと感じ、季節感も堪能できました。
しかし感じたことを正直に言いますと、個別ルートはヒロインによって面白さの差が大きく、不満も残る内容でした。
また私自身もそうでしたが、本作には“泣き”を求めるプレイヤーも多いでしょう。
個人差の大きい点ですが、私は涙を流すことは一度もありませんでした。
大きな期待を持っていただけに、これは残念。
プレイヤーを感情移入させるための心理描写が不足しているのが、これらの最大の原因であると感じます。
名作だとは思いません。
素材のレベルは高いものですが、肝心のシナリオにもう一歩プレイヤーを入り込ませる丁寧さが欲しかった。
個別ルートの出来のバラつきも気になる点で、手放しで良作だと言い切ることができません。
物語の完成度、オリジナリティ、そして滂沱の涙を流す感動を求めている人は、肩透かしを食らうかもしれません。
しかし、いつだって賑やかな日常シーンから、友達とバカをやり続けた夏休み、明日のことを一切に気にせず遊んだあの頃を思い出す作品でした。
伝奇、伝承を交えて描かれる個別ルートは良いものばかりではありませんが、夏×田舎の作品世界を感じられる内容。
BGM、背景含めて季節らしさは満点で、夏ギャルゲーを求めているならばオススメの一本です。
詳しいレビュー
全力で遊ぶ。あの頃の夏休みを堪能。
本作の大きなテーマになっていると感じたのは、「夏休みを遊ぶ」でした。
ヒロインからイラストのないモブキャラまで、個性が過ぎる面々がそろう物語の舞台「鳥白島(とりしろじま)」
共通パートでは、彼らと夏休みを遊び倒す賑やかな日常シーンが描かれます。
ヒロイン含めて変なやつが多く、主人公もまたイタズラ好きな一面があるため、日常シーンは常に予測のつかない笑いがありました。
中でも飛び切り変なのは、同性友人ポジションにいる二人の男キャラです。
主人公とこの二人のトリオによるギャグシーンは、一言でいって“バカ”
マジメにバカをやるキャラクターたちと一緒になって、本作の夏休みを遊ぶことができました。
おふざけ系の選択肢が多く用意されているのもポイント
キャラクターのリアクションが気になり、同じシーンでも選択肢を変えて何度もプレイしたくなります。
これにより、周回プレイの際には素通りになりがちな部分に楽しみが生まれているのがまた良い点。
ギャルゲーには珍しい共通が面白い作品です。
そんな本作の「遊ぶ」を、他のADVでは味わえないものに決定づけているのが、おまけの域を超えた遊びごたえのミニゲーム。
ADVというジャンルに求めるものではありませんが、プレイしてみると意外なほど面白く、本編中では見られないキャラクターの一面も描かれる内容。
短くないプレイ時間の息抜きとしても、「遊ぶ」にプレイヤーを参加させる点でも、この方法はありだと感じました。
・島に生息する生き物(?)を集めて戦わせる「島モンファイト」
・島全体を舞台にしたバトルロイヤル形式トンデモ卓球大会「島ポンファイト」
設定に既についていけないミニゲームが二種類用意されており、しかもこれにはラスボス、専用のエンディングまで用意されているのだから驚きです。
特に卓球大会「島ポンファイト」は、各ヒロインをはじめとする立ち絵付きのキャラクターは独自の必殺技を放ってくるなど遊び心満載。
分身、巨大化、デバフ付与まで…?
本作で描かれる夏休みは、遊びに満ちています。
あの頃のように、遊ぶことしか考えていなかった夏休みをもう一度…という方に、本作をオススメしたい。
島の友人たちとバカをやって、夏休みを遊びつくしてください。
大人の知らない世界へ…島に伝わる「伝承」を交えた個別ルート
本作の個別ルートは、共通の賑やかさは残しつつも、シリアスに寄った内容に展開していきます。
ヒロインはそれぞれが悩み、問題を抱えており、主人公はそれを共に解決しながら仲を深めていきます。
ギャルゲーの個別ルートとして定番の内容
ですが、ここにスパイスを加えているのが、島に伝わる「蝶」の伝承です。
本作にはタイトル画面をはじめとして、至る所に蝶の姿が見られます。
明言は避けますが、この蝶は物語上重要な意味を持っており、各個別ルートを攻略する度にその謎が深まっていきます。
田舎の島に伝わる、謎の伝承、そしてそれが起こす超常現象。
物語が進むほどに、神秘に触れる感覚があり、知識が及ばない場所に踏み込む冒険心を刺激してくれました。
いわゆる伝奇モノの要素を持っており、田舎を舞台にした本作にマッチしたものであると感じます。
とはいえ、話の本流はヒロインとの恋物語。
どのヒロインも型にハマらない特徴を持っており、ギャルゲーらしく彼女たちとの掛け合いも十分。
シリアスに寄りはしますが、共通の賑やかさが完全に失われるわけではありません。
そしてルートの最後には泣きもあり。
ヒロインと主人公の心情にくわえ、夏休みが終わる切なさもシンクロするラストシーンは、実際に泣くことはなかったけれども、感動的であると感じました。
もう一歩踏み込んでほしかった、心理と関係の描写
本作の共通ルートには、何度も笑わされるシーンがありました。
個別ルートは力の入ったものがそろっていると感じますし、クライマックスはさすが老舗Keyと言えるだけの盛り上がり、演出でした。
しかし、それでも本作を大満足の作品だったとは言い切れません。
プレイヤーを物語に入り込ませる、心理と関係の描写が不足しているのが、その最大の理由です。
しかしルートによって差が大きいので、全てがそうであるとは言えないことを断っておきます。
本作のヒロインは8人と多いものの、一つ一つのルートは決して長くはありません。
なぜかと言えば、ギャルゲーにはお約束のデートイベントが基本的に無し
また元から全年齢向けの作品であり、ベッドシーンも存在しないためでしょうか。
ルートが短いのは、悪いことだとは思いません。
むしろ中身を感じづらい“イチャラブ”は用量が重要。いっそ廃してしまってコンパクトにまとめるのはアリだと感じます。
しかし本作の場合、共通ルートのギャグが強い分、主人公がヒロインに惹かれる過程の描写は、個別ルートで丁寧にやってほしかった。
この心理描写が不足しており、主人公とヒロインの関係の深まりに、遊ぶこちらがついていけなくなる場面が少なからずありました。
個別ルートに入ると、あまり時間をかけずに恋仲になってしまうのです。
共通ルートでは恋愛対象よりも遊び仲間というイメージが強いだけに、プレイヤー自身にもヒロインを一人の異性として魅力的に感じさせるだけの描写が欲しい。
幼馴染を恋愛対象として見ることができない…という話がありますが、本作の個別ルートでは正にそんな印象をヒロインに持ってしまいました。
心の動きを全て事細かにテキストにせよ、とは言いません。
遊び仲間から恋愛ADVのヒロインへと主人公の意識が変わってしまうシーンと、そこにプレイヤーをリンクさせるだけのもう一歩が欲しいのです。
それがないまま主人公とヒロインは仲を深めていくので、遊ぶ私と心理状態が乖離していく。
結果、物語に入り込めません。
大詰めに待つ“泣き”も、入り込めていないので心が動きづらい。
感動的なシーンであるのは間違いありません。
しかし、キャラクターたちの心にシンクロし、実際に涙を流すところまではいきませんでした。
感動的だな、と感じるだけでした。
とはいえ、それぞれのシーン自体は印象的です。
BGM、CGの品質が高いためです。
CGからは夏休みの終わりと、物語の切なさを同時に感じさせられ、優し気なBGMがそれを盛り上げてくれます。
物語に入り込めていれば忘れることのできない“泣き”になったと思うだけに、もったいないと感じました。
ただ繰り返しますが、全てのルートがそうであるとは言いません。
終わりに
忘れてしまった夏休みの楽しさを、もう一度思い出すことができるADVでした
童心にかえって遊ぶ機会などそう訪れないものですが、本作を遊んでいる間は、確かに夏休みを遊んでいたと感じます。
個別ルートの神秘性も、ひと夏の不思議な体験として季節感に合っており、夏を味わえるADVだと感じます。
感情移入しきれず、特に“泣き”の面で不満があったのは事実です。
とはいえ、渾身の一作であることも間違いありません。
ゲームを通して、一番楽しかったころの夏をもう一度体験したい…そんな方にオススメの一本です。
テキストADVファンによる、テキストADVファンのための、オリジナル雑誌“風”記事。
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