物語には大きなウソと小さなウソがあります。
例えば、ウルトラマンやゴジラの存在は、大きなウソ。
大きなウソは、我々はそういう設定だとして受け入れることができます。
しかし小さなウソは時にご都合主義などと呼ばれ、物語の品質を落とすものになりかねません。
今回レビューする「少女首領の推理領域-黄金島の密約-」は、まさに小さなウソ…ご都合主義が気になった作品。
マフィアの存在が物語の柱なのに、マフィアらしからぬ言動や行動が終始目につく内容でした。
タイトル | 少女首領の推理領域-黄金島の密約- |
ジャンル | ロマンティックミステリー(ノベルゲー) |
対応機種 | Switch/PS4 / steam / iOS / android |
価格 | Steam/Nintendo Switch 1300円(税込) PS4 1320円(税込) スマホ版は1章無料、以降は章2つで600円ごとの買い切り型 |
プレイ時間の目安 | 5~7時間 |
総評
「少女首領の推理領域-黄金島の密約-」は、推理と乙女ゲーの要素を合わせ持つテキストタイプのADV、ノベルゲーです。
とある理由により、マフィアのボスになる女子大生が主人公。
突如起こる殺人事件
そして生まれ故郷での、ある男性との約束の真相を突き止めるべく、様々な謎に持ち前のひらめきの良さで立ち向かいます。
低価格タイトルながら、二重の魅力を持つ内容を目指したであろう本作
しかし、面白さはついてきていないと感じました。
気になったのは、ご都合主義が過ぎてリアリティを薄めてしまっている点です。
女子大生がマフィアのボスという根本の設定は、ファンタジーとして受け入れられる大きなウソです
しかしその周辺の他のマフィアや警察の行動、考え方がどうにも甘すぎる。
そのため推理ものでありながら、物語に現実味がありません。
さらに、恋愛対象となるイケメンたちの掘り下げが不足しているのも残念。
高品質とは言えませんがこの価格帯で推理と恋愛、両輪の物語を楽しめるのは魅力。
ですが肝心要の内容は、ご都合主義と描写不足により今一つ物語に入り込めない出来栄え。
起こる事件、物語の大筋には重みがあるのに、それを感じられない作品でした。
詳しいレビュー
ご都合主義的に描写される、マフィアの恐ろしさ
本作は女子大生である主人公が、故郷のすぐそばにある島「グイムル島」に10年ぶりに帰郷
とある理由から父のあとを継ぎ、マフィアのボスになるところから物語がスタートします。
故郷を襲ったある事件、そしてそれをめぐって起こる殺人
主人公はその真相を解明すべく、頭脳を武器に戦います。
やや重みのある内容で、真相に至るまでには意外な事実も明らかになります。
ところが、内容に今一つリアリティを感じられず、物語に入り込むことができませんでした。
その最大の理由は、ご都合主義が目立ちすぎるからです。
女子大生がマフィアのボス…という大本の設定は、そういう物語だとして受け入れられます。
しかし、その周りにいる部下、他のマフィアのボスたちの行動や考え方が、とてもマフィアとは思えないほどに甘い。
私も決してマフィアに詳しいわけではありません
ですが彼らは日本で言うところの暴力団、犯罪組織であるはず。
にもかかわらず本作に登場するマフィアからは、そんな雰囲気をほとんど感じません。
マフィアには悪の組織を束ねる王のような、どこか格好いいイメージがあります
ですがそれ以上に、必要ならば、利益になるならば殺しも躊躇わない恐ろしい存在であると思っています。
本作はそんなマフィアの格好いいところばかりを描写し、犯罪組織の頂点としての恐ろしさは、そのほとんどをご都合主義的に描写してしまっていると感じました。
自身の管轄する施設に他マフィアが不法侵入しても、驚くだけでお咎め無しだったり、まだ少女である主人公の無謀ともいえる提案を「君は頭がいいから」と言ってあっさり受け入れたりする。
前者は本来ならばそれこそ殺しに発展するような出来事、後者は素人である主人公をそう容易く信頼するものだろうかと疑問に思います。
登場人物たちの行動、考え方にリアリティがないため、やはりそれらが作る物語にも同様にリアリティが感じられません。
ご都合主義的な描写が物語のリアリティを薄めてしまっており、それが気になって物語に没入できない。
そんな内容になっていると感じました。
やや不親切なテキストのみでの解説
本作は決して長編ではありません
しかし物語や事件の真相、人物関係などは意外なほど複雑。
前述の通りリアリティは不足していますが、重みのある物語がつまっています。
これらの解説が全編を通して、テキストで語られるのみなのは不親切であると感じました
というのも本作、事の真相や人間関係がキャラクターとの会話で、次々に明らかになっていく。
一人のキャラクターが一気に多くの真実を語るケースもあり、流し読みはできません。
ところが本作は、そうして明らかになった真相や人間関係を、後から確認する方法が全くありません。
それでいて造語もあり、裏の裏に真実があるような内容なので、頭の整理が追い付かなくなることが度々ありました。
特に人物関係は複雑なので、これらを視覚的に確認できる人物相関図などが欲しかった。
物語全体を通して、一つの大きな謎を追う内容の作品。
そのため、途中で置いて行かれると戻れなくなる恐れもあります。
本作を遊ぶ際には、長期間にわたって少しずつ…ではなく、一気にクリアまで突き進んでしまうプレイをオススメします。
恋愛対象の掘り下げ不足
本作は乙女ゲー要素として、とある男性キャラと物語を通して親密な関係を築いていきます。
攻略対象は一人のみですが、この過程、結末はロマンチックな内容
しかしキャラクターそのものの掘り下げ描写が少なく、魅力的なキャラクターだと感じられるまでに至らなかったのは残念です。
設定上、物語中はやや影の薄い存在になりがちなうえ、推理シーンではセリフを発することもなく、いるのかいないのか分からないほど。
時折見せ場のアクションシーンもありますが、もっとも重要な互いが惹かれあうシーンはほとんどありません。
状況が状況なのでデートイベントとまでは言いませんが、どのような人物なのかを知ることができるようなシーンを増やしてもよかったと感じます。
終わりに
低価格ながら贅沢な内容を盛り込んだ作品
しかし品質はそれに伴っておらず、不満の残る一作でした。
体験版も配信されておりますので、気になる方はまずそちらから試してみてはいかがでしょうか
テキストADVファンによる、テキストADVファンのための、オリジナル雑誌“風”記事。
「テキストADVマガジン」を、月に一度公開しています。
CSの新作スケジュールから面白いフリーゲーム紹介、簡易レビューまで詰め込んだ、ADV好きのための記事です。
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