レビューなんか興味ねぇ! 考察だけ読ませろ!!という方はこちらをクリック→考察へ直行する。
考察部分は真相までのネタバレを含んでいます。
総評
好奇心を刺激し引き付ける。人の心が近づく描写も丁寧に重ねている。ただ葛藤の答えを「絆のパワー」に委ねているため、プレイ後の印象はやや軽い。
『岩倉アリア』は良い点を持つゲームです。まず挙げられるのは、プレイヤーの好奇心を刺激し、引き付ける力を持っていることです。
本作は主に人と人とが結びつく様を描いていますが、それと同時に、物語舞台や人間関係にまつわる大きな謎を配置していあります。この情報を小出しにし、更に過激な描写や疑心暗鬼を誘うシーンも多く盛り込むことで、プレイヤーの好奇心を刺激します。この好奇心は、プレイヤーがゲームを最後まで楽しむ原動力になるでしょう。本作はこれを誘発する作りを達成できていると考えます。
一方のキャラ同士の心が近づいていく様も、丁寧にステップを重ねて描けています。過程を一足飛びにしてしまうことなく、キャラ同士が結ばれていく様を説得力のある文脈を持たせたうえで描いてくれています。実は一点だけ気になる点はあるのですが、その他が丁寧であるため、エンディングを迎えるころには気にならないレベルまで希釈できていると感じています。
ただ残念なのは、物語の終盤で示される葛藤の答えを、言わば「絆のパワー」に委ねすぎていることです。これ自体に矛盾や問題はないと思いますが、そこに至るまでのロジックでは細かいことを棚上げにしているため、安い解答にさっさと落ち着いてしまったような印象も受けてしまいます。
良いゲームです。
特に好奇心の刺激を細かく行うため、プレイヤーは興味を引き付けられながら遊ぶことができるでしょう。キャラ同士の関係の重ね方も丁寧で、心理の動きに不自然さを覚えることもありません。異彩を放つビジュアルも、他ではあまり見られないという点で評価に加えて良いでしょう。
それだけに、そんなキャラたちがたどり着く地平が、力を持っていない。ここが残念な点です。見方によっては美しいとも言えるでしょうが、安い結末であると感じます。
なおこの記事の最後に、おまけとして本作の考察を行っています。興味のある方はそちらもどうぞ。
詳しいレビュー
好奇心を刺激し、プレイヤーを引き付ける
まず挙げられる本作の良い点は、プレイヤーの好奇心を刺激する内容に仕上がっていることです。
本作は物語に大きなナゾを配置しています。このナゾに関する情報を小出しにすることで、プレイヤーの好奇心を刺激します。好奇心はゲームを遊ぶ原動力となり、プレイヤーをエンディングまで引き付けるでしょう。
本作は物語の舞台、人間関係などにナゾを配置してあります。このナゾはゲーム全体を通して徐々に明らかになっていきます。
良いのは、このナゾに関する情報を小出しにすることで、上手くプレイヤーの好奇心を刺激してくれることです。情報により明らかになるのはバイオレンス、あるいはインモラルな真相の姿。これはキャラや舞台、あるいはメインビジュアルの持つ表面的な高貴さ、清廉さと強いギャップを持っています。本作はこうして、一見は反する二つのイメージを同時に持たせることで「どのようにしてこれらが結びつくのか?」という好奇心をくすぐります。
そうして湧き上がる好奇心は、プレイヤーが最後までゲームを遊ぶ原動力となるでしょう。
これは持論ですが、全てのプレイヤーは「そのゲームを最後まで遊びたい」という欲求を持っている。「投げ出したくない」の方が正しいかもしれません。
人間は一貫性を保ちたがる性質を持っていますから、やり始めたことを途中で投げ出してしまうのはストレスになります。それでもその事柄に興味が持てなければ投げ出したくなってしまう。それと一貫性の板挟みになったとき、ゲームを遊ぶことが負担になってしまい得る。そのためゲーム側から好奇心を刺激するなどの方法で「もっと遊びたい」というエネルギーを湧かせてやる必要はあり、それに成功しているならば、これは評価点の一つと考えています。
心が近づくまでの、描写の積み重ね
本作は、キャラ同士の心が近づいていく様を、丁寧に描写を積み重ねて描いています。
本作は大まかに言うと、キャラ同士が信頼関係を築いていくゲームです。評価点であるのは、このキャラ同士が強い関係に発展していく様を、説得力のある形で描いてることです。出来事やバックボーンを丁寧に積み重ねることで、キャラの関係が発展していく流れを自然にできていると感じます。ただ一点だけ気になる部分はあるのですが、これも他が丁寧であるため、希釈できていると考えています。
『岩倉アリア』は、主人公と岩倉アリアが結びついていくゲームです。
評価点であるのは、二人が結びついていく過程が丁寧に描かれていることです。見知らぬ人同士から信頼し合う関係へと発展していく様に説得力があります。
始まりが赤の他人で、最後には信頼関係で結ばれるならば、その関係がどう変化してゴールへたどり着くか、そして変化の過程が十分描かれているかは、物語の焦点になると考えています。そこを一足飛びにすれば不自然な物語になります。本作はこの点で、上手く変化を一本に繋げられていると感じています。
具体的に何を丁寧に描いているかと言うと、出来事や、キャラのバックボーンです。
出来事がキャラの心を動かす。それ以前に、その出来事でなぜ心が動くのかは、バックボーンに理由がある。本作はこの両輪を積み重ねることで、キャラの関係進展を自然に、説得力のあるものとして描くことに成功していると感じています。
…が、実は一点だけ気になる部分はあります。詳しく言うと、二人がお互いに興味を持つきっかけの部分です。本作はここの描写がやや弱いです。興味がない、あるいは悪印象すらあるというマイナスの状態から、相手のことを知りたいというプラスの状態へと転じるには、大きなエネルギーが必要になると考えています。本作はこの部分に十分なエネルギーを持たせられていません。
しかしその後の積み重ねが丁寧であるため、エンディングに近づくにつれて希釈させるだけの内容になっているとも思っています。そのため、良くない点であるとは思いますが、致命的な欠点だとも思いません。
またこのきっかけの弱さは、後述する本作への考察を踏まえると、帳消しにできる点でもあります。しかし考察は書かれていないことを読み取る行為ですから、それを踏まえて評価を変えることはできません。そのため、本レビュー内ではマイナス要素と捉えています。考察はレビューのあと、おまけ部分でやります。
心理の動きを違和感なく一本に繋げられていることを、評価点の一つと考えています。
「絆のパワー」という解答の単純さ
本作の最も大きな難点は、最後にたどり着く答えへのロジックが単純で、安っぽく見えてしまうことです。
本作がたどり着く答えは、言ってしまえば「絆のパワー」です。これは物語の流れを考えれば自然だと思います。ただ難点なのは、絆のパワーへ落ち着けるためのロジックが単純であることです。絆のパワーでは立ち行かない場面を想定することなく、きっと乗り越えられると信じることで、葛藤や諸問題にケリをつけてしまいます。これは問題でも矛盾でもないとは思います…が、安っぽいと感じています。
本作が示すものは、ネタバレを避けるために単純に言いますと絆のパワーです。この流れそのものは、自然だと思います。物語全体を通して絆を作っていくゲームですから、最後にそれが打ち勝つのは、順当な結末でしょう。
ただ難点だと感じるのは、その絆のパワーという解答に至るまでのロジックの単純さです。
最後にたどりつくものが絆のパワーであってもいい。ただ、本作はこれを疑うことをしなさすぎます。
絆のパワーでは立ち行かない問題があるはずですし、壊れそうになることだってあるはずです。絆のパワーは曖昧ですから、今キャラクターが直面している葛藤に対する答えとしても、やや力が弱いでしょう。そのような物を踏まえた上で、それでも絆のパワーが必ず勝つ…そう信じられるまでにあるべき複雑な流れを、本作は描いていません。
絆のパワーで立ち行かないとき、どうする?
壊れそうになったとき、どうする?
今ある葛藤を、絆のパワーだけで帳消しにできるか?
本作はこのような複雑な諸問題を「支え合えばきっと大丈夫」程度の解答で良しとしてしまいます。なるほど美しい。そして安い。
葛藤から導き出される答えは、キャラたちがたどり着く新たな日常の支えであり、そしてプレイヤーが最後に見る風景です。それは同時に受け手の心に訴えかけるメッセージにもなりうる。それが複雑さを棚上げした「絆のパワー」という解答に留まるのは、道中を描けているだけに、安直なところで終わってしまうもったいなさを覚えます。
終わりに
好奇心を刺激する作品です。心理の動きにも説得力があり、自然に繋がっていると言えるでしょう。特徴的なビジュアルもポイントです。ただ最後の最後に綻びがあります。とはいえ、そこまでたどり着くだけの原動力はゲーム側から十分与えられるため、まず遊び切らせるだけの魅力を持った作品だと言えるでしょう。
※続きから、おまけとしてゲームに関する考察をやります。興味のある方はどうぞ。真相までのネタバレを含んでいます。