【カルタグラ~ツキ狂イノ病~《REBIRTH FHD SIZE EDITION》】キャラのブレが気になりすぎるが、開発側の苦難も類推してしまう

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カルタグラ~ツキ狂イノ病~《REBIRTH FHD SIZE EDITION》は成人向け作品です。18歳未満及び高校生以下は購入、プレイできません。

・本記事中に、公序良俗に反する描写は一切ありません。

・記事中に『カルタグラ~ツキ狂イノ病~《REBIRTH FHD SIZE EDITION》』の、ネタバレをやや含んでいます。核心に触れるものは避けています。

あまり面白い作品ではありませんでした。FHDとはいえ元は20年弱も前のゲームに、今更やいのやいの言うのもどうかとも思いますが…

カルタグラ~ツキ狂イノ病~《REBIRTH FHD SIZE EDITION》』(長いので以下、カルタグラFHD)を遊びました。看過しがたい難点があり、思っていたほど楽しめなかった…というのが正直な感想です。

これからその理由を書きますが、ただこの難点、仕方ない部分もあるのかな…と思わずにはいられません。それはギャルゲーあるいは一般的な(?)18禁ADVの、いわば性のようなものに従った結果、生まれてしまった難点であるとも感じるからです。

ブレが大きすぎる主人公とメインヒロイン

本作の最大の難点は、主人公とヒロインのブレです。ブレとはつまり、提示された設定や心理と、実際の行動の食い違いです。

人間ですから、完全に一致させることはできなくとも仕方ないでしょう。しかし本作の場合、このブレは到底受け入れがたいものでありました。作品の根幹をぼやけさせてしまっており、致命的です。

まず主人公ですが、「オレはもう人を好きになれない…」みたいなことを言いつつ、異性だらけの環境に身を置き、しかも簡単に彼女らの誘いに乗ってしまう人物です。

しかしそれは、自分の内側に踏み込まれない為の、体の良い言い訳なのかもしれない。

今でもオレは、大切な誰かを作ることを、それを失うことを、恐れている……

カルタグラ~ツキ狂イノ病~《REBIRTH FHD SIZE EDITION》より

なるほど。つまり彼の心は過去の経験により、凍てついてしまったのでしょう。それこそが主人公にとっての課題、トラウマであり、乗り越えられない。ならば、そのぶ厚い氷を溶かす愛とは、一体どのようなものでしょうか?

主人公をこのような人物にした以上、物語の焦点の一つはここであると思います。にも関わらず、主人公は容易く異性と体を重ねますし、選択肢一つで、簡単にこの氷を放り投げてしまいます。まるで始めから何もなかったかのように。このようなところが人物のブレであり、また物語の結末で示すものを、ぼやけさせる原因です。「でも君、わりと簡単に人を好きになってたよね…?」と。

このブレは、メインヒロインである上月和菜こうづき かずなにも見受けられます。

メインヒロイン 和菜

本作の物語は、主人公が失踪したある女性の捜索を依頼されることから幕を開けます。その女性は和菜の実姉であり、和菜自身も、その身を強く案じています。和菜は捜索に同行。その過程で主人公と仲を深めていくのですが…

私には、和菜が姉の身を本気で案じているようには見えませんでした。

姉の身よりも、今自分が夢中になっていることと、そして主人公と仲を深めることばかり優先しています。これもまた、提示される設定や心理と、実際の行動の食い違いです。

また根幹のネタバレになるため伏せますが、こののち、彼女は口で姉を想うセリフを言いつつ、それと大きく食い違う行動に出ます。それでいて結末部分では姉を想う言動を連発し、大胆な行動にも出るため、心理や設定を、まるで道具のように出し入れする人物に見えました。

本作のキャッチコピーでもある「妄執と狂気に至る愛」。そうして一点の愛の行方をクライマックスとし、そのための心理や設定を人物に施しておきながら、シナリオの中で何度もブレさせてしまっている。結果、結末のインパクトは弱まり、人物の魅力も不足するなど、難点の目立つ作品になってしまっている印象を受けました。

またこの他、恋愛の成立がいささか唐突であったり、探偵ものの側面も持っていながら、主人公の良いところがほとんど見られないのも気になる点です。

ただ、冒頭にも書きました通り、このキャラクターのブレは、仕方ない部分もあったのかもと類推します。

複数ヒロインを出し、それぞれに濡れ場と恋愛を作らなくてはいけなかった…?

Innocent Greyが何を思って本作を開発したかは、私には知る由もありません。だからこの先は全て、私の予測になります。

ギャルゲー、そして一般的な男性向け18禁ADVは、ビデオゲームの中でも特にストーリーの自由度が高いジャンルに見えます。しかし実際はどうでしょうか。こと商業作品として利益を見据えた場合、このジャンルであるがゆえの、いくつかの制限も課されるように思います。

その制限には、以下の3点。

・複数のヒロインを出すこと
・それぞれに濡れ場を作ること
・それぞれのヒロインと結ばれる結末を用意すること

これが含まれることは、間違いないように思います。

そして『カルタグラFHD』における、特に主人公のブレは、この制限に従ってしまったからこそ生まれたのでは…と思うのです。

なぜこのような制限が付くと予想するのでしょうか?

まずヒロインですが、そもそもこのジャンルのフルプライス帯では、ワンヒロインの作品というのはまず見かけません。それはボリューム、パッケージデザインの華やかさ、そしていわゆる実用性の有無などに密接に関わる点だから…というのが私の予想です。これが欠けると、売れづらい…と感じるのは、私だけでしょうか。

画像はゆずソフト『千恋*万花』より

もちろん、不利を承知でワンヒロインを貫くことも可能ではあります。ただ商業作品である以上、利益を捨てることはどうあがいても難しいでしょう。そして売れる作品にするためには、複数のヒロインを用意し、価格相応のボリュームと濡れ場を作品にもたせることで、他と比べて見劣りさせない必要が…という開発事情があるのではないでしょうか。

その事情とシナリオの間でブレてしまったのが『カルタグラFHD』の主人公である…というのが、私の意見です。

更にヒロインを出した以上、濡れ場を用意しなくてはプレイヤーの期待を裏切ることにもなりかねません。これはこのジャンルの特徴だと思いますが、男性向け18禁ADVに登場するヒロインは、まず確実に濡れ場を期待されます。ヒロインの濡れ場がないことは、不評の原因になります。シナリオの面白さでよほど突出していない限り。

そうして濡れ場を作る以上、結ばれるエンディングも用意しなくては、主人公が女たらしに見えてしまう恐れがあります。

このような理由から、このジャンルのシナリオには

・複数のヒロインを出すこと
・それぞれに濡れ場を作ること
・それぞれのヒロインと結ばれる結末を用意すること


などの制限があるのでは…と考えます。

カルタグラFHD』のブレは、正にこの制限とシナリオがぶつかった結果、生まれてしまったように見えるのです。

もちろん、これはシナリオライターの技術、あるいは作品規模の調整で回避できます。

濡れ場などほぼ皆無でありながら高評価を獲得した作品はありますし、ミドルプライス帯にはワンヒロイン作品などいくらでもあります。ついでに言えば、アダルト要素無しで全年齢向けに発売することも、当然可能です。

しかし技術は一朝一夕に身につくものではありませんし、ミドルプライス帯は実用性を重視した作品が大半でもあり、シナリオに力を入れた『カルタグラFHD』は埋もれてしまう可能性も高いでしょう。またいっそう肌間隔が強くなりますが、アダルト要素を入れていない作品は、よほどのブランド力を持ったタイトルでない限りは、ファンからの注目度が薄れてしまうように感じています。後にアダルト要素を追加した完全版の発売されるケースがあるのも、これに拍車をかけるでしょう。要は利益をあげづらい。

(いずれも非FHD版『カルタグラ』が発売された2007年当時どうであったかは不明ですが…)

つまるところ、フルプライス帯でシナリオに力を入れたギャルゲーを発売し、利益も考慮する場合、どうしてもヒロインは複数出さざるを得ず、また濡れ場と結末もそれぞれに用意しなくてはならない…という開発事情があるのでは…と私は予想しています。

とは言え、開発事情なんてプレイヤーの知ったことではありません。その制限下で面白いものを作り上げたチームはいくらでも存在します。だいたい、真の意味で物語に制限のない文化など存在しないでしょう。ですから『カルタグラFHD』の評価を変えることはしませんが、開発側の苦難が見えるのも事実ではあるのです。

もちろん、見どころもあり

カルタグラFHD』には、見るべき点もあります。

まず良いのは、作品世界のシチュエーションです。

舞台は戦後間もない上野。雪のちらつく真冬、和装に身を包んだ男女の語らいのシーンは、それだけでも絵としての見ごたえがあります。特筆したいのは、あるヒロインの失恋シーンです。声優の名演も相まって、最も好きなシーンです。そこに至るまでの描写が弱いのが惜しい。

また、ジャンル史に残るのでは…と言いたくなるほど強烈なバッドエンドがあります。単発的な点ではありますが、展開にただ驚かされました。ショッキングなサスペンスシーンでの引き締めを何度も行い、プレイヤーを飽きさせないようにしているのも好印象です。

リマスターに当たって追加されたと思われるビジュアルの精緻さには、目を見張るものがありました。

コメント

  1.   より:

    この作品から始まって、後継作品の殻ノ少女→虚ノ少女→天ノ少女と進む中で書かれているような問題点は払拭されてますね。
    もっともライター自体が変わっている訳ですが…

    • dis-no1 より:

      コメントありがとうございます。
      作品の題材自体はかなりすきなので、殻ノ少女以降の作品もプレイする予定でいます。
      色々書きましたけども、ブランド処女作でこれは凄いなぁ…とも思っています。

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