タイトル | パラノマサイト FILE23 本所七不思議 |
ジャンル | ホラーミステリーADV |
対応機種 | Nintendo Switch/Steam/iOS/Android ※いずれもDL販売のみ |
価格 | 1,980円(税込) iOS/Android版は1,900円(税込) |
プレイ時間の目安 | 5~8時間 |
奥深く展開し、先を読ませないエンタメ作品
まず本作の良いと感じた点は、奥深く展開させ、プレイヤーに結末を悟らせない物語です。
シナリオの根幹は「呪い」の力を手にした人物たちによる、秘術をめぐる呪い合い…となっています。しかしそこには別の猟奇殺人の影があり、過去の出来事の真相解明も絡めて、多数の因縁が渦巻くストーリーへと発展していきます。
その様相は怨霊にまつわる秘術をかけたオカルト×デスゲームのようであり、一方で殺人事件の真相を解き明かすサスペンスのようであり。独自の設定も多数盛り込んで語られるため、遊ぶ側に先を予測させないシナリオを展開することに成功していると感じました。
またテキストを読む以外の遊び、仕組みも用意されています。
いずれも既視感はありますが、プレイヤーを参加させるビデオゲームらしいエンターテインメント性を味わえるポイントでありました。
さすがに横幅は狭く、コンパクトに仕上げにきている印象はあります。
しかし事の起こりからは予想もつかないほど多数の人物が登場し、思惑が交錯する深めな物語展開は、飽きさせず、予測させずにエンディングまで遊ばせてくれる魅力を持っています。
せっかくの面白い設定を、広げきってくれなかった感は有り
これは不満というよりは、もったいないと感じた点であります。
前述の通り本作は、多数の人物が登場する物語です。それぞれには思惑があり、それが交錯するからこそ、物語にエンタメ的な深みを感じました。
一方で、その思惑をほとんど動かすことなく、あっさりと物語から降りてしまうキャラクターも目立ちます。
例えるなら、複数の人間が参加するデスゲームでありながら、その大半が開始直後に殺し合いを放棄してしまうような展開です。
本作はまずタネを人物たちに蒔くことから始めますが、あっさり手放してしまう人物も多い。せっかくのユニークな設定であるのに、それを広げすぎることを避けているような印象を受けました。結果、幾人もの思惑が蠢きながらも、それらが交差し合う複雑さによる面白みは少なくなってしまっている印象を受けました。
ただ本作は値引きなしでも1980円とミドルプライスでありますから、これは実際に、設定を広げすぎることを避けたが故のことかもしれません。
カメラがややヒーローに寄りすぎているか
本作は複数の主人公の物語を同時進行するADVです。
一般に群像劇と呼ばれるジャンルとして見て良いと思います…が、遊び終えてみると、なぜか群像劇に触れた感覚が意外と薄い。
この理由は、本作のカメラが、ややヒーローに寄りすぎていることだと考えています。
物語を複数の視点から描く本作。しかしその視点はやや善側…この殺し合いを止めようとする側への偏りを、やや感じました。
例えば近いジャンルの群像劇で、かつ名作と評価される作品に『428 〜封鎖された渋谷で〜』があります。428とてさすがに悪側に視点をやることはしませんが、一見は全く無縁だったり、他主人公と全く絡まない人物の視点もあったりと、実に多様なカメラから物語を映す作品でありました。
一方で本作は、その点で片側への偏りが見えます。また主人公らが結託するシーンも多く、複数の視点を用いた物語でありながら、その魅力を十分に感じられる域にまでは、達しきっていない印象を受けました。
もっとも428はフルプライス帯の作品でありますから、単純にあっちが良いとか悪いとかの話ではないのですが。
総評
他にもいくらか細かい不満点はあります。しかしクリア時間は短めで、よほど周回するような遊び方をするのでもなければ気にならないレベル。
ミドルプライス帯のエンターテインメント作品として良い一本です。テキストを読み続けるのみの時間は少なめ。大事な部分にもオカルトやギャグ的なシナリオ運びがあるため、本格推理、本格ホラーというよりは、展開を楽しませることに特化した作品という印象を受けます。とはいえ締めるところはきっちり締めており、緊張感ある展開も十分。このジャンルが好きならもちろん、普段あまり遊ばない方にもオススメできます。
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