私は物語から、様々なものを与えられてきた。
それは純粋な面白さだけに留まらない。
人物の内面への共感。決して折れない信念。それを支える理由。たどりついた先に見える風景。
優れた物語は、触れたものに何かを与えていく。
面白さや興味深さを越えて、胸に何かを残していく。
そうして与えられたものは、時に生き方にすら影響を及ぼす。
描かれるキャラクターの生き様は、巨大な感情で胸を満たす物語は、もはや“架空”の枠すら飛び越えて、現実を変える力を持つ。
あのキャラクターのセリフ、あの物語のワンシーンが蘇り、支えてくれることが確かにある。
『蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2』は、それは強いものを与えてくれる作品でありました。
これは私の生き方を変えうる作品です。
本作から与えられたものが、いつか必ず私を支えるだろうと思います。
では、いったい何を『蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2』から与えられたというのか
それは「憧れ」です。
本作を遊び終えた今、たまらなく憧れています。
『蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2』の世界に、そこで生きる人物に、憧れずにはいられないのです。
『蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2』は『蒼の彼方のフォーリズム』に登場するヒロイン、鳶沢みさきの個別ルートの後日談を描いた作品です。
そのため、『蒼の彼方のフォーリズム』をプレイしていない方には、オススメできません。
しかし、もしあなたが本作に興味があるならば。
時間を作ってでも『蒼の彼方のフォーリズム』と『蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2』を、ぜひ遊んでほしい。
「今、目の前の相手に、絶対に勝ちたい」
その気持ちがぶつかる試合シーン。
闘い続けるならば避けられない、恐さ。
苦悩しながらもそれに立ち向かい、やがて答えにたどりつくヒロイン。
そのとき、彼女を支えるもの。
これらを描き切った作品でありました。
私は今、この物語の世界に憧れて憧れて、どうしようもないのです。
タイトル | 蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2 |
対応機種 | PC |
価格 | 7,980円(税別) |
プレイ時間の目安 | 6~8時間 |
備考 | 18歳未満および高校生以下は購入、プレイできません。 |
総評
傑作でありました。
本作が描くものの中で、私が特筆したい点は以下の2つです。
・絶対に勝ちたいもの同士の、試合シーン
・戦い続けるなら避けられない“恐さ”との直面、そして乗り越える姿
本作は架空の対戦型スカイスポーツ「フライングサーカス」(以下、FC)に挑む少年少女を描いた作品です。
公式は、特にこの『蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2』(以下、EXTRA2)は“FCシーンが多い”と直々にアナウンスするほど力を入れており、大きな見どころです。
事実、本作の試合シーンは、圧巻の完成度でありました。
私は『EXTRA2』の試合シーンを見ていて、叫びだしたくなりました。
立ち上がって、喉が潰れるまで声援を送りたい。
画面の外で、ただテキストを送るだけしかできないことが、もどかしくてたまらない。
そんな気持ちにさせられました。
なぜなら本作の試合は「今ここで、目の前の相手に、絶対に勝ちたい者の戦い」であったからです。
誰でもいいから勝ちたいわけじゃない。
いつか勝てればいいわけじゃない。
今この試合で、目の前の相手に、絶対に勝ちたい者の戦いです。
面白く、熱い試合シーン
まず『EXTRA2』の試合シーンは、その展開だけでも十二分に面白い。
一試合として先が読める、定石通りの内容はありません。
どの試合にも必ず下馬評を覆すシーン、流れを逆転させるポイントがあります。
だからこそ最後の一秒まで目が離せない。
FCが架空のスポーツであることも活かされており、次々に未知の戦術、新たな技が登場します。
シンプルな出来事だけを追いかけてみても、プレイヤーを決して離さないよう練りこまれていることがわかります。
また、静止画を巧みに組み合わせた演出も、試合シーンをいっそう盛り上げるポイントです。
というのも本作はビジュアル面での表現において、頑なに動画を使わない。
FCは高速で空を飛ぶスカイスポーツ。
スピード感の表現が重要なのは言うまでもなく、そのような“動き”を伝えるには動画…アニメーションが最適であるはず。
テキストAVGであっても、戦闘シーンなどの一部にアニメを採用している作品は、決して珍しくない。
これは勝手な予測ですが、『EXTRA2』のスタッフたちが、アニメによる表現を検討しなかったはずがないと思うのです。
しかし彼らはまるで頑固職人のように、静止画だけで“動き”を表現しきった。
この頑固さが、試合シーンにテキストAVGならではの魅力を感じさせてくれます。
動画ではなく、静止画差分を組み合わせて動きを表現する試合シーンは、だからこそプレイヤーのワンクリックごとに展開していく。
ワンクリックで駆け引きが進み、技の応酬が始まり、攻守が入れ替わる。
そこには空白が一切ない。
まるでプレイヤー自身が物語を動かしているような、テキストAVGらしい感覚があり、大量の静止画差分がそれを強くします。
そしてついに訪れる得点の瞬間。
負けてたまるかと全身で咆哮する一瞬。
本作は全てを余すことなく静止画で切り取り、プレイヤーに叩きつけるのです。
上記の点だけを見ても、類稀なるものを持つ『EXTRA2』
ですが本作の試合シーンは、ただ面白いだけでは終わりません。
それ以上に、熱い。
立ち上がって叫びだしたくなるくらい、熱いのです。
その理由は一度書いた通り。
「今ここで、目の前の相手に、絶対に勝ちたい者の戦い」であるからです。
試合や勝負ならば、勝ちたいのは誰もが同じでしょう。
しかし、世のあらゆる勝負ごとが「絶対に勝ちたい」という気持ちで行われるかと言えば、決してそうではない。
現実では勝っても負けてもいい勝負、楽しむことをいちばんに考えた勝負などが大多数。
持ちうる全てを賭けた「絶対に勝ちたい」勝負とは、ごく一部です。
『EXTRA2』には正に、そのごく一部。
身体と精神の全てを賭す、全身全霊をかけた勝負があります。
本作はそれを示すかのように「キャラクターがこの一戦にどれだけ賭けているか」をはっきりと描く。
それは様々な形で表現されます。
試合の前の語らいや、心情を吐露する回想シーンで。
あるいは戦いの最中で見せる表情、言葉から。
そこから見えるのは「やる以上は勝ちたい」だとか、そんな生ぬるいもんじゃない。
負けたくない。いや、勝ちたくて勝ちたくて仕方がない。
勝って得たいものがある。
そのために積み重ねてきた。
だから今この試合で、アイツに、絶対に勝つ。
そうしてキャラクターが勝ちを渇望する理由と心理を、プレイヤーにも共有させ、試合シーンではいよいよ真正面からぶつかり合います。
男も女も、格上も格下も一切ない。
繰り広げられる、ただ本気で勝ちたいもの同士の戦い。
これが熱い。
お互いが全力で、この一戦で魂すら燃やし尽くす覚悟だと伝わるからこそ、たまらなく熱いのです。
展開の面白さ、静止画表現の巧みさに加え、「今ここで、目の前の相手に、絶対に勝ちたい者の戦い」であることの熱さ。
これらでもって描かれる試合シーンが『EXTRA2』を傑作へと完成させていると感じました。
鳶沢みさきの、成長
本作のもう一つの魅力。
それはヒロイン鳶沢みさきの、成長です。
無印『蒼の彼方のフォーリズム』で描かれたように、鳶沢みさきは生々しい醜さを持ったキャラクターです。
彼女の個別ルートでは、それと向き合い、克服していきました。
しかし『EXTRA2』で、みさきはまたしても壁にぶつかります。
そしてみさきの内側にあり、また人間ならば誰もが持つ醜さが再び鎌首をもたげ、みさきを絡めとらんとします。
みさきを阻む壁は、いうなれば“恐さ”です。
無印『蒼の彼方のフォーリズム』で乗り越えたと思ったはずの、恐さ。
しかしそれは、まだ消えていませんでした。
それどころか、戦い続けるならばこの恐さからは、決して逃げることができない。
永遠に付き纏うものなのだと、みさきは思い知ることになります。
こんな恐さを抱えたまま、試合し続ける理由が一体どこにある?
しかしそうして試合から離れたとして、それは逃げではないのか?
ではいつまで戦い続ければ、自分は逃げたのではないと言い切れるのか?
いちど乗り越えた先にある恐さと、それに苦悩するみさきの姿を、本作は描きます。
みさきは物語の果てに、その答えを見つけます。
成長し、自分なりの道を歩みだします。
そうしてみさきがたどり着いた場所は、私にはただ眩しいものでした。
無印『蒼の彼方のフォーリズム』で醜い感情に飲まれ、一度は孤立すらしかけた彼女だからこそ、たくさんのものを得た姿に、涙すら流れるほど感動しました。
鳶沢みさき、そして主人公まで含めた成長の物語。
『EXTRA2』でその行く末を、ぜひ見届けてほしい。
今の私は『EXTRA2』の世界に、そして登場人物たちに、憧れています。
何かに全力を出すことも、全身全霊を賭けて戦うことも、それを経て成長することも、私には難しいことだからです。
ですが本作から得たこの憧れは、何かに直面した時、私に影響を及ぼすだろうと思います。
『蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2』は、私にそのようなものを与えてくれる作品でした。
終わりに
ファンディスクであるため、前作のプレイは必須です。
この点はどうしてもハードルになるでしょう。
ただ、もしあなたが本作に興味を持ったならば、ぜひ無印『蒼の彼方のフォーリズム』と『EXTRA2』を手に取ってみてほしい。
熱い戦い。眩しい成長。
お金と時間をかけて遊んでも、絶対に後悔することない大傑作であると、自信を持って断言できる一本です。
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