一度つまらないと思ってしまうと、それが覆されることはなかなかありません。
仮に尻上がりによくなったとしても、つまらない部分が尾を引いてしまうためです。
しかし、今回遊んだ「パルフェリメイク」は、私のこんな考えを完全にはねのけた作品でした。
個別ルートの面白さに差があり、つまらないルートがいくつかあります。
一方で良いルートも確かに存在します。
その中でも特段に優れた、ラスボスのようなルートがあり、これに胸を打たれました。
このたった一つのルートが、本作への評価を大きく引き上げるきっかけとなりました。
タイトル | パルフェリメイク |
対応機種 | PlayStation 4 / Nintendo Switch |
価格 | 完全生産限定版 9,878円(税抜:8,980円) 通常版 7,678円(税抜:6,980円) ダウンロード版 7,370円(税抜:6,700円) |
プレイ時間の目安 | 15時間 |
判定 | ・良作 ・攻略サイト使用を強く推奨 |
総評
「パルフェリメイク」はテキストタイプのADV。ギャルゲーです。
そのタイトルの通り、2005年に発売された「パルフェ」のリメイクです。
しかしリメイクの名を冠していながら、テキストの書き直しやシナリオの追加は、一切行われていません。
一新されたのはビジュアル=絵のみ。
原作の文章、音楽などはそのままに、見た目だけを現代風にした作品です。
大学生の主人公、高村 仁(たかむら ひとし)は、とある事件により、大切な場所であった“喫茶店”を失います。
その店の名は「ファミーユ」
ファミーユは姉が経営し、自身もアルバイトとして働いた思い出の場所。
失ったのはつらいけれど、もう二度と戻れない。
そう思っていた主人公のもとに、ファミーユ復活のチャンスが舞い込みます。
再建の場所は、オープン予定の大型ショッピングモール
そのテナントとして、ファミーユにぜひ出店してほしいとの知らせ。
千載一遇のチャンスと見た主人公。
素人店長として、ファミーユ復活を目指し奮闘します。
リメイク元である「パルフェ」は、たいへん有名な作品です。
しかしいざ遊んでみると、知名度ほどの面白さではない、と感じました。
あるヒロインのルートをプレイするまでは。
というのも本作、個別ルートの“差”がとても大きいのです。
攻略可能なヒロインは6名。
メインやサブといった区分はありません。
共通ルートでは、それぞれが同等に描かれます。
しかし個別ルートに入ると、大きく差が付き始めます。
内容が良いものとそうでないものに、困惑させられるほどはっきりと分かれます。
良いルートは大変に良く、このゲームを遊んでよかったと思える一方で、そうでないルートは本当に同じゲームなのかと思うほどに良くない。
プラスをマイナスが相殺してしまい、良いゲームだと言い切ることはできない
これだと差し引き60点くらいか…
コンプリートまで少しのところに来て、私の中での評価は固まりかけていました。
しかし、あるヒロインのルートに、これを覆されました。
このヒロインのルートは、私の胸を打ちました。
評価を決定しようとしていたところを、全て引っくり返されたような気持ちになりました。
他のルートは全て、このための布石だったのかもしれない…
そう思ってしまったほどです。
そのルートを攻略するまでは、決して噂通りの面白さだとは思えませんでした。
ですが全てを終えてコンプリートした今なら、はっきりと言うことができます。
「パルフェリメイク」は、面白いゲームです。
例え一度面白くないと感じたとしても、それをはね飛ばす力をもったルートがプレイヤーを待っています。
特にギャルゲーマーに、ぜひ手に取ってみてほしい一本です。
面白くない個別ルートがあります。
それらは伏線、起承転結の「転」が弱く、今一つ印象に残らない。
また一部の声優さんの演技に難があり、没入を阻害しています。
しかし同時に、遊び終えた人は必ず「良いゲームだった」と言う作品だ…そう確信もしています。
最初から最後までが面白いゲームではありません。
しかし、その面白くなかった時間すらも一変させるほどのルートが、本作にはありました。
そんな本作は、ADV好き以上に“ギャルゲー好き”にこそ、オススメしたいゲームです。
詳しいレビュー
ギャグと伏線の、共通ルート
本作の共通ルートは、行き先選択型で進みます。
マップからお目当てのヒロインのアイコンが浮かんだ地点を選択。
するとミニエピソードが始まり、好感度が上昇します。
ある時点で一定以上であれば、個別ルートへと進行します。
本作の物語のポイントは、主人公が心にキズを抱えている点。
その原因は、自身にとってかけがえのない場所であった喫茶店「ファミーユ」を奪った、理不尽かつ残酷な事件。
これが主人公の心に爪痕を残しています。
しかし共通ルートの時点ではまだ、このような重さを感じさせません。
主人公をいじられキャラとし、ギャグを中心に賑やかな日常が描かれます。
素人の喫茶店経営という前途多難な道のりを彩るヒロインと、それに振り回されっぱなしな主人公。
合間には伏線も張られ、個別ルートへの興味を誘います。
飽きる前に次へと進む良好なテンポと、ヒロインへの関心を高める内容。
オーソドックスながらも丁寧に作られた、良い共通ルートであると感じました。
出来がわかれる個別ルート ~良くない方~
個別ルートに入ると、いよいよ共通では感じさせなかった“重さ”に焦点になります。
主人公の抱えたキズと、ヒロインの持つ悩みや葛藤を、どう解決していくのか…
しかし前述の通り本作の個別ルートは、良いかそうでないかにはっきりと分かれると感じました。
良いものは大変良く、そうでないものは、同じゲームとは思えないほどに良くない。
一部ルートが面白くないと感じた理由は、2点あります。
一つは、伏線と真実の繋がりが弱いこと。
もう一つは、起承転結の転が弱いことです。
共通ルートでヒロインが影を見せて、個別ルートでそれが何故であったかを明らかにする。
これが王道の、伏線とその回収であると思います。
ところが本作のあるルートは、影とその真実が、きちんと繋がっていなかったと感じました。
個別ルートで明らかになるヒロインの胸の内と、共通で見せた姿が噛み合っていないように思います。
そのため、真実が判明した時、それにより伏線が回収される驚きよりも、とってつけたような唐突感を抱きました。
また別のルートでは、起承転結の“転”が弱さが気になりました。
物語の面白さは“転”が決める…そう言い切ってもいいほどに、転は重要だと思っています。
それは受け手の予想を裏切り、思わぬ方向へと運ぶターニングポイント。
この転がどうにも弱いため、印象に残らないルートがありました。
転自体は存在するのですが、ヒロインと主人公の関係から容易に想像がつくもので、今一つ響きません。
こちらの予想を裏切ってくれないため、物語が胸に残りませんでした。
もし個別ルートがこのような内容ばかりであったなら、私は本作を人にオススメすることはできません。
しかし、後述する“良いルート”が、本作への印象を変えてくれました。
出来がわかれる個別ルート ~良い方~
伏線と“転”が弱い。
これが本作の良くない個別ルートに抱いた感想です。
しかし、その一方で良いルートでは、この2点が驚くほど活かされている。
全体を通して伏線と転が弱い…というならば、同じゲームなのですから理解できます。
しかしルートによっては真逆になり、面白い物語を展開してくれる。
だからこそ私は、同じゲームとは思えないほど、個別ルートの差が大きい作品だと感じました。
あるヒロインのルートでは、共通での立ち振る舞いの理由が明らかになります。
共通での姿という伏線と、それに繋がった真実。
私が本作に抱いた不満をきれいに払拭する、良いルートであると感じました。
また別のルートでは、意外な“転”でもって、プレイヤーを予想外の展開へと導いてくれます。
そのヒロインは強い劣等感を抱えており、これをどう克服するのかが物語のカギ。
その解決法がユニークな“転”となっており、面白い方向へ話が転がります。
良いルートと、そうでないルート。
これが混在する本作。
ここまでならば、マイナスがプラスを相殺し、60点強という評価に落ち着けるところです。
しかし「パルフェリメイク」は、まだ終わりませんでした。
本作への評価を一気に引き上げるきっかけとなった、“ラスボス”のようなルートが、存在したのです
全ては、彼女のために…
伏線と、転。
この2点が、本作の個別ルートの評価をわけると感じました。
良いものとそうでないものが混在するため、「どちらかと言えば良い」
これくらいのところで、レビューを書くつもりでいました。
しかし、最後に攻略したあるヒロインのルートが、これを一変させました。
今の私は本作を「当分は忘れられないほど良い」
そう感じています。
何故ならば最後にプレイした個別ルートは、それはもう極上の伏線と転を組み込んだ、たいへん印象的な物語であったからです。
そのヒロインの言動、行動…全てが伏線であり、その真実を明かすことは、他のルートへの印象すらも変えるほどの強烈な“転”でした。
作りの甘い他の個別ルートすらも、プレイヤーを油断させるための仕掛けだったのではないか?
こんなことを考えてしまうほど、衝撃を受けました。
同時に、涙が流れました。
そのヒロインの持つ全てが、一本の真実で繋がり、切ない胸の内が明らかにされるシーンでした。
具体的にどんな内容であったか。
それがどのヒロインのルートであったのか。
もちろん、これを語ることはしません。
ぜひ、彼女に騙されてください。
終わりに
16年越しのリメイクとなる「パルフェ」
たいへん有名な作品であり、今回リメイクを遊んだことで、それだけの内容であると納得させられました。
良くない個別ルートがあるのは事実です。
しかし必ず驚きをもたらす仕掛けが、あるルートに用意されています。
ギャルゲーマーならば、これを味わっておいて損はありません。
オススメの一本です。
おまけ 全個別ルートの一言感想 ※ネタバレあり
既にプレイ済みの方と分かち合うための、全個別ルートの簡単な感想です。
風美由飛ルート
上で書いた、伏線と真実の繋がりが弱いと感じたルートが、この由飛ルートです。
由飛はショパンの曲“エオリアンハープ”にトラウマを持っており、それによる失敗から逃避した先がファミーユであったことが明かされます。
これが由飛ルートの転であり、初めて明らかになる彼女の抱えた真実であると感じました。
しかしこの真実を知ってしまうと、共通での彼女はやや陽気すぎるのでは…と思ってしまうのですよね。
仁との初邂逅でも楽し気に歌っていますし、とてもキズを抱えているようには見えません。
それが由飛の持ち前の人懐っこさ、明るさなのだとは思います。
ですがもう少し、何か辛い記憶がある素振り=伏線をチラつかせても良かった。
ピアノに対して病的な様子を見せる姿は深刻ですが、とってつけたような唐突さも感じました。
花鳥玲愛ルート
好きです。
本当は優しいのに頑張ってツンツンするところも、対立していても良い部分は良いと言ってしまうところも、みんなに見透かされていじられがちなところも、好きです。
個別ルートは由飛とは対称的な面白さでした。
その実直さが印象的な玲愛ですが、実はその裏にあったのは姉への劣等感。
共通で見せた姿の裏に意外な真実が用意してあり、伏線が効いています。
ピアノという絶対の強みを持った姉に対し、自分が勝てるのはこのマジメさしかない…
決してそんなことはないのに、そう思ってしまう玲愛を応援したくなる物語でした。
二人でファミーユ本店を復活させるというオチも、玲愛だけでなく、主人公の持つキズをも癒す良い落としどころだと感じます。
悲しい事件の場所であり、そしてパルフェ始まりの場所でもあるファミーユ本店の再始動。
同じものを抱えた二人ならば、良い未来が待っているはず。
玲愛に「スチャラカ!」と罵られたい人生でした…
雪乃明日香ルート
転が弱いと感じたのはこのルートでした。
もっとも好きなのは、主人公が共通ルートで見せる、遅れてきたヒーローのようなカッコよさ。
ですが、ここがピークになってしまったとも感じます。
個別ルートに入った後も、“成績の低下”という転が物語に波乱を起こします。
しかしこれは明日香のポジションを考えるとありきたりで、意外性が感じられなかったのが残念。
今一つ印象に残らないルートでした。
年下キャラの割には控えめな声で「てんちょ」と主人公を呼ぶ姿は、可愛いですけれども。
涼波かすりルート
一番好きなヒロインは?と聞かれたら、かすりさんだと答えます。
共通ルートでは容赦ない言動で主人公を振り回しますが、その胸の内では姉、そして恵麻との腕前の差に悩んでいるギャップが良い。
放っておけなくなります。
キッチンに立つ者として、きっとその差を誰よりも痛感していたのではないかと思います。
ケーキの味が落ちたからと離れる客までおり、内心はとても苦しかったはず。
自分は恵麻が来るまでの間に合わせだから。
そう笑うシーンもありますが、心中を考えるとあまりに切ないセリフです。
家で一人悔し涙を流すような姿も想像でき、描き方次第ではスポ根のような熱い個別ルートもありえたのかもしれません。
最後には意外な形で恵麻、そして姉に、自身のケーキを認めてもらいます。
まさかの板橋店長の活躍はユニークな“転”であり、好きなルートです。
杉澤恵麻ルート
えま姉ちゃんには申し訳ないのですが、このルートはあまり好きではありません
というのも私、あろうことか里伽子のバッドエンドを見た後に、このルートをプレイしてしまったのですよね。
そもそもこのルートの始まりが、 里伽子に振られた主人公を慰める…という誤解から始まっており、 真相を知ってしまうと里伽子が不憫でなりません。
そんな里伽子への救いなのでしょうか
エピローグでは、里伽子がまだ諦めていない姿がコメディチックに描かれます。
このアフターフォローがなかったら、後味の悪いルートになってしまったかも。
主人公、一人、恵麻の関係が詳細に判明するため、物語上は大切なルートなのですが。
夏海 里伽子ルート
まごうことなきラスボス。パルフェの顔。
そう言い切って良いであろう内容でした。
もし本作にメインヒロインがいるなら里伽子であってほしいですし、正史があるのならばやっぱり里伽子ルートであってほしい。
彼女は最初っからドライな印象のヒロインでした
協力はしつつも、主人公にもヒロインにも踏み入れさせない領域を持っているような、そんなイメージです。
しかしそれは全て主人公を想うからこその態度。
「しょうがないなぁ…仁は」
そう言って主人公の世話を焼く時間が里伽子の宝物であり、今の自分ではそうはなれない。
むしろ、大きな夢のために歩き始めた主人公の重荷にすらなってしまう。
助けてくれと頼ってくる主人公に手を差し伸べられないのは、里伽子にとってどれほど辛いことだったのでしょうか。
彼女が救われるエンディングを見たとき、本作を遊んでよかったと感じました。
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