【都市伝説解体センター】レビュー・評価 頑張らないって最高だ!…まぁ、俺はそうは思わないけど。

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失速はあれど、驚きと興味深いナゾを提示してくれるシナリオ

さてシナリオを語るなどと大上段に構えましたが、ぶっちゃけ本作のシナリオをどう語ればいいのか、私にはよく分かっていません。

それでも本作のシナリオへの第一印象をざっと書けば「ナゾと驚きによる引きは良いが、自分としては好きになれない」というところです。

本作のシナリオは、ゲーム中に起こる事件のナゾ、そしてその展開と真相に関連する驚きで、プレイヤーの興味を喚起し、引き付けてくれるものだと思います。ただし私としては、それを踏まえたうえでも好きとは言えないと感じています。

これは具体的にどのようなことを言っているのか、以下、掘り下げてみましょう。

あくまで主観をベースに語ります

本作のシナリオの魅力は、ナゾと驚きであると思います。

ナゾと驚きがなぜ魅力であるのかというと、プレイヤーの興味を喚起するからです。ナゾがあれば、ではそのナゾはどのようにして起こったのか…と、プレイヤーの興味を引き付けることができます。そのような興味は物語を面白くする要素の代表的なものだと思います。そして本作にはそういうナゾがある。驚きも似たような意味です。

…といっても、驚きだとかナゾだとか、それがいかに興味深いかだとかは、これまでしてきたゲームシステムの話以上に良い悪いを語ることが難しい。同じナゾでもある人は興味を持ち、ある人は興味を持たなかったりするでしょう。だから私が「このナゾは興味深い」などと言ったところで、別の誰かが「私はそうは思いません」と反論することができますし、私はそれに再反論する術を持ちません。強いて言うなら「それでも、私はそう思いました」という再反論が思いつきますが、これでは水掛け論です。

もちろん、やり方次第でこのような「人それぞれ」で終わるつまらない話を回避することはできると思います。何らかの基準を示し、それに対してどうであったかを語る方法がそうでしょう。しかし、私は本作の物語を話すうえで、何を基準に持って来ればいいかが分かりません。

とはいえ、だからといって何も話してはいけないということもない。あくまでも私の主観…私の経験に根差した話です、と、そう前置きしたうえでなら、主観を話すこと自体に何も問題はないし、その主観に誰かが同意することもあるでしょう。ただしその主観は脆いものであると認識しておく必要はあります。

…というわけで、その主観に基づいて、私が本作の物語のどこに魅力…つまりナゾと驚きを感じたのかを、私なりに書いてみます。

1話をピークに、その後はやや失速を感じる内容

私は本作の物語的な面白さのピークは1話「ベッド下の男」であると思っています。その後は波はありますがだいたい失速するイメージで、しかしさすがに最後は盛り上がって終わる。

そう感じていますから、本作のストーリーは各話で区切って話す方が、私の主観を伝えやすいでしょう。そのためこの先は各話ごとにその良し悪しを考えてみます。

繰り返しますが、これより下は本作の重大なネタバレを含んでいます。

これより先は『都市伝説解体センター』の重大なネタバレがあります。

1話…本作のピーク。推論を裏切るナゾと緊張の展開…そして驚きの結末

1話「ベッド下の男」は前述の通り、最初にして本作のピークであると思っています。

まず1話の良いところは、人の命がかかっている(ように見える)点です。逆に言うと他の話はそうでないということになります。これは語っていくうちに明らかになるでしょう。

1話の依頼主であるミオは、突如部屋に現れた男に悩まされています。しかも男は斧を所持している。このことから、男が最低でもミオに危害を加えるつもりであると見るのが自然でしょう。しかも男はミオの部屋の中に出現している。つまり1話は人命にかかわり、かつ緊急性の高い事件の話です。このような状況自体がまず物語に緊張感を生んでいると感じます。

また事件の展開も、プレイヤーの推論を裏切るように重ねられます。これによってもたらされるナゾと驚きは、真相への興味を喚起する…少なくとも私はさせられました。たとえばプレイヤーはセンター長との「特定」により、事件が「ベッド下の男」ではないかとの推論をします。そのためベッド下を荷物で封鎖しますが、しかしその直後、男はなぜか部屋の中に出現します。このとき戸締りは完璧であったため外部からの侵入は有り得ない。しかし侵入経路と思われたベッド下は封鎖したはずです。

では男はどこから、どのように侵入したのか?

そしてその後のシーンで、ミオは男と玄関先で遭遇します。前回の遭遇では戸締りによって外部からの侵入は有り得ないとしました。しかし玄関先で遭遇したならば、やはり外部からなのでしょうか…?

…と、こんな感じでプレイヤーが立てた推論を裏切るように事件が展開し、これにより生まれるナゾが興味を喚起すると考えています。そうして何度も現れる犯人が、しかし斧を持っていながらミオを襲わないのも興味深い点でしょう。いったい、なにが目的なのか。

また合間にミオが一人で部屋に残るシーンが何度かあるのも、緊張感を高める良い展開だと思います。

緊張の一瞬…保護してやれよ!

結末も驚かされるものだったと思います。「ベッド下の男」と特定しておいて犯人が天井裏にいるというのは、ちょっと状況的に無理があるような気もしますが、ユニークだと感じます。またミオの豹変も印象的です。冴子が明らかに怪しいからこそ、一連の事件の一部がミオの犯行であったというのは驚きの展開でした。

こんな感じで、私は1話を面白いと思っています。ただ、無視できない…絶対にこの記事内で触れておかなくてはいけないと感じる不満点もあります。それは記事後半で改めて触れるとしましょう。

2話…いきなり失速。だがまだ面白い。

2話はいきなり失速を感じる内容だと思います。

まず難点だと感じるのは、依頼者であるきのこがさっぱり困っていないことです。これは1話と比較すれば明白です。命の危機に瀕し本気で助けを求めていたミオに対し、2話の依頼主きのこは状況を楽しんでいる。また出現した幽霊と思わしき存在も、窓の外からきのこを眺めているだけであり、これもやはり1話と比べて切迫していないように感じます。このような理由により、1話と比べて2話は全編を通して話に緊張感がありません。

私はこのような点から、本作は1話をピークに失速していっていると感じています。この傾向は続く3話でより顕著になります。

ただ、興味につながる魅力的なナゾ自体は提示されていると思います。そのナゾとは、まず事件全体がキノコのやらせであるか否か、だと思います。キノコはどう考えても胡散臭い人物であり、しかも動画配信者。そのためやらせが疑われますが、しかしそうだとすると、キノコ自身がセンターに依頼して霊を探すのは不自然ですし(やらせだとしたら、本気で探られたらバレる恐れがあるはず)、その幽霊がなぜか主人公にしか見えないのも変な点です(やらせでそういうトリックをやるのは難しそうなので)。

また過去にあった残酷な殺人事件のくだりなどで不可解さ、不気味さも演出されていると感じます。

ジャスミンの背後の霊…なぜ!?

もう一つの良いナゾは、キノコの部屋で過去にあった心中事件と、それを探って出てくる情報の齟齬でしょう。調べるほどにズレが生じる不可解さが表出するこの場面こそ、2話のいちばん面白いところだと感じています。

…とはいえ、やはり1話に比べて緊張感に欠ける点は否めないでしょう。やらせ云々と1話の生きるか死ぬかの緊張感では、どう考えても2話は軽い。

それでも、続く3話を考えれば、まだ2話は十分面白いと言えると思います。

3話…最大のウィークポイント。いちばん面白くない。

3話は本作で一番面白くないと思います。

まず苦しいのは、作中あざみらも自分で言っていますが、話が始まった段階ではとくに事件が起こっていない点です。2話ですらナゾの幽霊が現れたという事件が起こっているのに、3話は「怪しいツアーに行ってこい」というだけであり、受け手の興味関心を引き付ける要素がとても弱いように思います。

更に3話はプレイヤーに探し物やパズルをやらせますが、これは悪手の積み重ねです。そもそもが「考える」を排し、未読コマンドを潰していけば必ず進行する本作の仕組みでは、プレイヤーが本気でパズル、探し物に取り組む姿勢を作ることが難しいように思います。本作でやるパズル、探し物はそれこそ単なるコマンド潰しに近いものになり、そんな方法でパズルを解いても、快など生まれはしないでしょう。

これに加えて登場人物が多いのも難点で、話自体の引きが弱いのに、未読コマンドを埋めるために何人ものキャラに話しかけなくてはいけない。

…と、色々言いたいことがあるんですが、私が思うに、3話の最大の失敗は、幕の転換を印象付けることができていない点です。

3話は当初は「ナゾのオカルトツアー」程度のものでしかなかったのが、やがて架空の非解決事件「上野天誅事件」にまつわるものだったことが明らかになっていきます。この「何でもないように見えたツアーが、実は意味のあるものだった」という転換…物語の雰囲気が一変するその瞬間を、もっと演出すべきです。一見無意味な4桁の数字が、じつは…ということが判明するその瞬間を強く演出すべきです。

「上野天誅事件」は最終的には重大な意味をもちますが、この段階でのプレイヤーにとっては「なんか作品世界で過去にあった事件」でしかありませんから、その事実だけいきなり出しても引きとして弱いと思います。

結末も、他と比べて驚きが薄いと思います。木村はいちばん初めに消えた人物であり、かつ死体が見つかったとかでもないので(死体にするべきだったとは言いません)、順当な終わりだと思います。

4話…全体から見れば面白い方。でもちょっとオチがズルい。

4話は3話、そして続く5話よりは面白いと思います。ただちょっとオチがズルいです。

4話の良い点は「呪い」という不可解な要素が序盤からある点だと思います。普通に考えれば呪いなどあるわけがない。しかし呪いとしか思えない症状が人物らに出ており、しかもジャスミンまでもが犠牲になる。呪いをかけられたものはみな幻覚を見て、西谷は心筋梗塞…だか脳梗塞だか忘れましたが、命にかかわる症状で緊急搬送されていく。

本作のここまでの流れからすれば、これが人の手による犯行であることが自然に予想されます。しかしこのような症状を人為的に起こすことなど、可能なのだろうか…そのような引きが4話にはあります。これは興味深いナゾに感じます。

何だかんだ頼りになるジャスミンがダウン…緊張の展開だと思います。

惜しむらくは、オチがちょっとズルいことです。本作の呪いのタネは何かといいますと「そういう症状を引き起こすお茶」です。これはズルいと思います。

そもそも呪いが興味深いナゾであるのは、それが現実世界…つまりゲームの外の世界では起こり得ない(と思われる)状態であり、しかし現実世界の法則をおおむねそのまま使っている作中内では起こっているから…だと思います。ここはもっと掘り下げた方がいいかもしれませんが、たぶん複雑な話になるのでやめておきます。

『都市伝説解体センター』が現実世界の法則をおおむねそのまま使っているからこそ、そこで起こる不可解な事象は、現実世界の法則の中で説明可能だと予想できる。しかし呪いが引き起こす症状は説明不可能に見える。だからこそ、そのナゾは「どのようにして?」という興味を喚起するのではないでしょうか。

このとき「どのようにして?」が現実世界の法則の外で説明されると、それはプレイヤーが期待するものとは違うものを見せることになりうるし、法則の外に出て良いのなら何だって可能であるため「ずるい」という感覚が生まれる。

例えば、とある物語で「人が右手だけ残し、他の痕跡は一切残さず消失する事件」みたいなのがあったとする。これは興味深いナゾです。現実世界の法則の中で説明するとなると、右手だけ残し、かつ他の痕跡を一切残さず消失させるのは不可能なように思えるからです。しかしこの真相が「右手だけ残して人体が消失するスゴい薬が開発されていた!」とかだったら、ズルいと感じると思います。

※画像はイメージです

私が4話に感じている「ズルい」という感覚の出どころは、このようにして生まれていると感じます。

そして結末の驚きも薄いと思います。眉崎の因果応報的なオチは、彼のあからさまにヘイトを集めるような高慢さからすれば驚きというよりは妥当な落としどころですし、配達員が犯人である!というのも、事前のヒントが丁寧であるため、やはり本作はここでは驚きを作れない。1話や2話がそうであったように、ヒントからは推し量りづらい捻りがもう一発あるべきだったと思います。

5話…クライマックスに近いのに、どんどんマイルドになる問題

5話は面白くないと思います。正確に言うと、面白くできそうな話だと感じるのですが、それを避けざるを得ない作りになっているように見えます。

どういうことか。

まず気になるのは、クライマックス近いにもあるにも関わらず、起こる事件がスケールダウンしている点です。5話で起こる事件は要するに窃盗であり、人の命がかかっているように思われた1、2、4話あたりと比べるとやはり引きが弱い。もちろんやがては国家転覆すら狙うような組織の犯行であったことが明らかになりますが、それは終盤の話であり、掴みとしては機能しません。

更にもっとも問題…というか、純粋に変だなと思うのは、5話で探求するナゾが窃盗の動機にばかりフォーカスされる点です。

5話は「特定」によりドッペルゲンガーによる犯行ではないかという疑念が浮かびます。もちろんこれは怪異ではなく、人間が何らかのトリックで行っていると思われるでしょう。しかし秘書ら証言者はみな、ドッペルゲンガーとしか思えない存在を見たと言っており、5話の最大のナゾはここにあるように思います。

もうひとつの大きなナゾというか事象は、ドッペルゲンガーを見た人物らが次々に失踪する点です。ドッペルゲンガーの都市伝説通りにいくとすれば、彼らは命が危ないかもしれない。これは明らかに緊急事態だと思います。

であるのに、5話はなぜか執拗にドッペルゲンガーの動機や、ジマーなるナゾの組織に関することを調べさせる。もちろんそれが依頼主の希望であるというのはありますが、しかしそれはプレイヤーの興味からはズレた展開だと思います。物語的に整合性を取っているから良いという話ではない。

ドッペルゲンガーの正体がジマーであると仮定しても、家政婦や秘書すら気づけないほど黒沢そっくりの人物として各地に出現することが可能であるのかだとか、失踪した人たちは無事なのかどうかだとかのナゾが大きくあり、ジマーの窃盗の動機は重要度は低いように思います。

なぜそこを?というところを掘り下げていく5話

重要度の低いナゾへの興味関心はとうぜん低いでしょう。なのに調べるしかない。これが5話のつまらなさの根源だと思っています。

もっとも、この窃盗は最終話を考慮すればもっとも掘り下げる必要があるナゾですから、こういう風に話を展開せざるを得なかったのかもしれません。

最終話…さすがの盛り上がり。驚きは十分。

最終話は難点はありますが、最後に相応しい盛り上がりも見られると感じます。

まず先に難点を述べますと、最終話はSNS調査がこれまでで一番面白くありません。とはいえ、これは物語とは言えない部分なので、詳しくは語りません。ちょろっと言っておきますと、ヒントメッセージがないうえに、調べても意味が無さそうな下らない書き込みを調べることが進行の条件になっている場面が多いように思います。

シナリオ的な気になる点は…個人的には特にありません。これまでの伏線が回収される話であり、かつあざみ、ジャスミンがやられるなどスリリングな展開が続きますし、オチの驚きは…ちょっとヒントが多いので半分見えてしまっている部分もありますが、しかしセンター長=あざみ=歩は最後にもたらされる驚きとしては十分なものだったと思います。

【総評】「驚き」というポジティブな体験は十分だけど、綻びにより減じられる部分は少なくない。

記事後半はちょっと息切れしていますが、ここまで書いたことをベースに、本作のシナリオへの私なりの評価、それを踏まえた総評をまとめます。

本作が「頑張らなくてもクリアできる」によって全てのプレイヤーに体験してほしかったもの…それがシナリオによる「驚き」という体験であったことは明らかでしょう。インタビュー内でのエンディングを見てほしいとの発言は、つまり最終話の内容を見届けてほしかったという意味だと思います。そしてそこで明かされるセンター長=あざみ=歩という真相は、結末に持ってくる巨大な真相としては十分なスケールを持っていると思います。だから「驚き」を与えうる作りになっていると感じます。本作が描くSNSの悪しき一面も高まり、一連の事件の繋がりもはっきりする。良いと思います。

ただ気になるのは、やはり綻びがある点です。その綻びとは私が上で書いた各話のつまらなさがまずそうです。

1話が緊張感のある内容であったのに、波はあれど終盤になるにつれてマイルドになり、最終話に向けての伏線張りが強引になされる(3話の上野天誅事件、5話のやたらドッペルゲンガーの動機に固執すること)ように見えます。

加えて、センター長=あざみ=歩だとすると、シナリオ上にいくつかの無理が生じる点も問題だと思います。例えばセンター長は電話越しにあざみ以外の人物とも会話していますが、これはセンター長=あざみだとすると無理があるというか、想像しづらい内容でしょう。

思うに、巨大なトリックをやるうえで難しいのは、いかに整合性を保ちつつ成立させるかです。本作はそれを達成しきれていない部分がある。つまり難しい部分を決められていない。その意味で評価を下げざるを得ないと思います。

ただ本作はそのような整合性を捨ててでも、最後に与えるインパクトを重視したのだと思います。センター長=あざみ=歩は、単純なインパクトの強さだけをみれば十分な仕掛けだと思います。大半のプレイヤーに驚きを与えるでしょう。SNS関連の描写と伏線の回収もあるわけですから、整合性の甘さをマイナスとカウントしても、このプラス面が帳消しになるわけではない。だから本作を「驚き」を中心にしたポジティブを伴う「ゲームをクリアする」体験をもたらすゲームとして、評価できると考えています。

そしてその「ゲームをクリアする」を誰にでも体験できるものにするため、合理的な作りになっているゲームであること、しかしそこに綻びと弱点があることは記事前半で述べました。

これらを踏まえて、最後に総評を書いてみます。

本作は「頑張らなくてもクリアできるゲーム」を、それに合理的な仕組みを用いて実現しています。その仕組みとは具体的に言うと「探さなくていい」と「考えなくていい」です。ただし「考えなくていい」は「真相を当てる楽しみ」を大きく減じているため、これを重視する人にとって、本作は物足りない体験になるでしょう。一方のストーリーは、最後に「驚き」というポジティブな体験を与える内容になっていると思います。しかしここにも整合性の甘さという綻び、そして道中の失速という問題点は無視できないものとしてあります。それぞれにどれだけの加点、減点を見るかはプレイヤー次第でしょう。

私の『都市伝説解体センター』の感想は、以上に……なりません。

私は記事冒頭にて本作を「良いゲームだが好きではない」と言いました。私の本作への評価は以上の通りですが、これとは別の理由に基づいて、本作を好きではないと感じています。

最後に、この理由を語るとしましょう。これから先は、これまで以上に私の好き嫌いに寄った話になります。

ミオはあの後、どうなるの? 「人」がフォーカスされない空虚さ。

私が本作を好きではないと感じる理由はシナリオにあります。いやゲーム部分にも、もうちょっと難しくして達成感を出してくれた方が自分好みであるというのはありますが、より大きいのはシナリオに関することです。そしてそれはこれまで書いてきたこととは全く異なる点です。

それはどのような点かと言いますと、本作のシナリオが人にフォーカスしない点です。

これはどういう意味か。

例えば本作のシナリオにおいて、私が特に気になっているのは、1話「ベッド下の男」の依頼主であるミオのその後です。

ここまで読んでいるプレイ済みの方になら説明不要でしょうが、ミオはいわゆるパパ活により妊娠し、恐らくはその子を中絶したのでしょう。そのことをSNSを通して不特定多数の人に知られてしまった(と思い込んだ)結果、ミオは故郷にすら帰ることができなくなります。これはウワサが伝播し、親や地元の友人たちに知られている恐れがあるからでしょう。更に顔写真すらSNSにアップしていたため、どこに行っても好奇の目を向けられるであろうことをひどく恐れていました。

……で、ミオはその後、どうなったのでしょう?

ミオは最終話にてもう一度登場し、まだあの部屋に住み続けていること、今はほとぼりも冷めて、落ち着いて自身のことを考えられていることを、あざみに話します。その後は…ちょっと記憶が曖昧ですが、確かあざみともう一度会う約束をして別れたと思います。これがミオの最後の登場シーンです。

しかしあざみの正体はセンター長、かつ歩でした。彼女はサイバーテロによりSNSに個人情報を強制アップロードして混乱をもたらしたあと、行方をくらましたと思われます。ならば当然、ミオとは再会できていないでしょう。

するとやはり気になるのはミオのその後です。個人情報を何もかも知られて、外を歩くことすら恐れているように見えたミオ。再会時はいくらか落ち着いていたように見えるとはいえ、親友であるあざみと予期せぬ、しかも一方的に別れを告げる…いや告げられることすらなかったでしょうが、二度と会えなくなったであろうミオは、その後どうなったのか。もっと言えば、どのようにして立ち上がり、生きていくのか。

私が「人にフォーカスしていない」というのは、本作のこういう点を指して言っています。

事件以降、行き場をなくしたミオ…その後は!?

どのような事件も事故も、あるいは災害が起こっても、その後を生きていく人たちがいます。各々が各々の、きっと生涯きえない傷跡を胸に抱え、それでも人は生きていくでしょう。ではその人たちは、その事件事故あるいは災害を通して、何を失い何を得るのか。それは人の一生をどのように変えていくのか。

私が物語を通して見たいのは、このような人の姿です。そして本作の物語は、事件とその真相の話ばかりで、それを踏まえて生きていく人へのフォーカスがないように思うのです。

全ての元凶であった5ソサエティも、復讐計画を達成した歩も、それに翻弄され続けたジャスミンも、あれだけの事件があったのに、特になにも変化していないように見えます。5ソサエティのその後は分かりませんが、あの様子では反省など特にしていないと考えて無理はないでしょう。あざみは新天地で再びセンター長をやっているようですし、ジャスミンもいぜんと変わらず仕事を続けていました。

しかし、あれだけの事件が人物らに何の影響も変化ももたらさないことなど有り得るでしょうか。…有り得るか否かで言えば、有り得るでしょう。しかし有り得るとして、そういうエンディングが私は好きではありません。何と言うか、余韻が無い。なぜ余韻がないか。事件を通して葛藤、あるいは苦悩した結果、その後の生がいかに変化していくかを描いていないからに他なりません。

事件を踏まえて、何か成長でも、あるいは後退かもしれませんが、何らかの変化…つまり事件を踏まえたその後の生…それが欲しい。だから私は、せめてミオだけでもその後を描いてほしかったと思います。その後が描かれていない人物の中で、かつもっとも気になる人物であるからです。ミオは事件に強い影響を受けていました。そしてその後を生きようとするとき、きっとミオの中に何かが起こるだろうと思います。それが見たい。

ミオを追い詰めたのはSNSで、そして歩はサイバーテロからのSNSへの個人情報の強制アップロードだなんていう乱暴な手段を取りましたが、SNSは決してその全てが悪ではないはずです。信頼できる人はたくさんいますし、よく考えられた言葉だってたくさんある。誰かを傷つけるのと同じくらい、誰かを助けることだってあるはずです。

「勝手に括っちゃだめだよ。色んな人がいるんだよ」とあざみ自身が言っています!それはSNSにも当てはまるはず。

だからミオを助けてくれる人だっているはずです。ミオは確かに大きな声では言えないことをしたと思いますし、刑法に触れる部分もあったのかもしれません。しかしそれを踏まえた上で生きていくことはもちろんできますし、そこに手を差し伸べてくれる人はたくさんいると思います。

しかしミオの様子を見る限り、あの時点での彼女にそのような人物はいなかったようです。強いて言うならあざみがそうなったのかもしれませんが、彼女は消えてしまう。

では、ミオはその後どうするのでしょう。再び自らの生を歩もうとするとき、彼女は一連の出来事から何を失い、そして得たうえで踏み出すのでしょう。本作はここにフォーカスすべきでした。

実家にすら帰れない…ミオを理解しようとし、助けようとする人はいないのでしょうか?

……と、ちょっと勢いづいて「フォーカスすべき」とか言いましたが、これはあくまでも私がそういう話を見たいからです。別に物語に「こうしなくてはいけない」なんてルールがあるわけじゃありませんから、描かないのもアリです。「そんなクサいストーリーは見たくないです」という人もいると思います。だからこれは、あくまでも私の好き嫌いの話です。

しかし、これは狭い価値観の中での話ではないとも確信しています。

古今東西の多くの物語は、そこで起こる出来事に加えて、その出来事によって人が変わっていく様を描く。むしろ真のテーマはその人の方にこそ宿る場合が少なくないように思います。『都市伝説解体センター』の中では、いくつものネガティブな人の一面が描かれました。あざみもミオも、それに囚われてしまっていたように見えます。事件を通して、それがどのように変化するのか…それを描けば、そこには事件が解決したとか犯人が捕まったとかだけでない、単なる答え合わせを越えたテーマが宿ると思います。

それがないから本作はどこか味気なく、だから私は「良いけど好きではない」と感じています。

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