【第12動画欠番】感想。プレイヤーに囁く未来予知の声に抗うノベルゲーム

ADV(ノベル)
この記事は約5分で読めます。

フィクションの物語は、それが作り話であることを自己言及的に明かす…つまりメタフィクションの表現を取り入れることがしばしばあります。

以下はその一例、芥川龍之介の『羅生門』からの引用です。

作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。ふだんなら、勿論、主人の家へ帰る可き筈である。所がその主人からは、四五日前に暇を出された。前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微すいびしていた。今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。だから「下人が雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられた下人が、行き所がなくて、途方にくれていた」と云う方が、適当である。

羅生門 / 芥川龍之介 青空文庫より

作者が直接語り掛けてくるような『羅生門』の文体から、奇妙な感覚を抱く読者は少なくないと思います。引用の文頭には「作者はさっき」とありますが、このような語り口は、他のフィクション小説ではなかなか目にしません。

しかし当たり前ですが、羅生門に限らず、あらゆる小説には作者がいます。誰かが書いて語ってくれなければ、受け手は小説世界内の出来事を知ることができません。作者が語るからこそ、受け手はその虚構世界の出来事を知ることができると言えるでしょう。

つまり小説には読み手と、小説の虚構世界内人物と、そして両者をつなぐ語り手が存在します。この語り手は通常、存在しないかのように書かれますが、羅生門では「作者は…」と、はっきりその姿を現します。この語り口が珍しいからこそ、羅生門は珍しい読み味があるように思います。

プレイヤーを“メタ”するADVたち

そしてビデオゲームには、語り手の更に先にいる存在…プレイヤーを“メタ”する作品が多く存在します…ということは、もはや周知のことでしょう。

例えば、以下はPS4版『EVE burst error R』の、プレイヤーにメタ的に語りかけるシーンのスクリーンショットです。

上段のスクリーンショットには、コマンド「外に出る」があります。これを決定すると、下段のような主人公からのメッセージが表示されます。この時の主人公は、ゲーム内の人物にではなく、コマンドを選択したプレイヤーに向かって「外に出るのは、もうちょっと待とうぜ・・・・。」と返答します。

まるでプレイヤーの存在を認識しているかのようであり、メタな読み味をもたらすテキストです。

通常のフィクション作品ではほとんど透明化されている語り手と、それを受容する受け手。羅生門やEVE burst error Rはメタ表現により、前者は作者が読み手に直接話しかけているような、後者はまるでプレイヤーと主人公がコミュニケーションしているかのような読み味をもたらします。

そして今回の主題であるフリーゲーム『第12動画欠番』も、このようなメタ要素を含む作品です。

未来予知の声を聴け…『第12動画欠番』

『第12動画欠』』はポストコマーシャルズ:アライアンス製作のテキストADV。フリーゲームです。

本作は他多くのテキストADVと同様に、選択肢によって主人公の言動を決定することでエンディングを目指します…が、その内容には面白い工夫が見られます。

というのも本作、未来予知の声を聴き、それに従うか否かを選択肢で決定していくゲームなのです。

例えば以下のスクリーンショットでは、二つの選択肢が提示されていることが確認できます。

片方は「ゲームプレイに自由度などなくなる」で、もう片方は「ゲームプレイは架空の世界でなんでもできるようになる」です。画像では伝わりませんが、実はこのとき、スピーカーからは未来予知の声(という設定の音声)が聴こえてきます。

本作の未来予知の声は、どちらの選択に決定すべきか、加えてその声に従った場合、物語がどのように展開するのかをプレイヤーに伝えます。「こちらの選択にしろ。すると物語はこう展開する…」という具合に。『第12動画欠番』は、このような演出でプレイヤーに未来予知の声を体験させる作品です。

しかし、未来予知の声に従うだけでは、本作のエンディングを見ることはできません。

と言うのも、主人公は未来予知の決定に抗い、自分自身の言葉を紡ぎたいと願っています。この願いを聞いてやらなければ、物語はどうあがいてもバッドエンドへと向かってしまいます。

以下はバッドエンド到達時のスクリーンショットです。主人公の苦しむ様子が、赤いウィンドウのメッセージで表されます。

「自分の言葉を語る道が」
「抵抗できない」

バッドエンドでは、主人公が自身の言葉を上位の存在に勝手に決定されることに苦しむ姿が描かれます。

その言動を勝手に決定している存在こそが、選択肢を決定しているプレイヤー自身。こうして本作は、ゲームを遊んでいるプレイヤーを前景化し、メタの遊びを取り入れています。

ここで面白いのは、そもそも主人公の言動を決定しているプレイヤー自身もまた、未来予知の声によってその選択を指示されていることです。

主人公の選択を一方的に決定するのが我々プレイヤーであることは、確かにそうでしょう。しかし本作の場合は、その更に上に、プレイヤーに選択を指示する未来予知の声があります。

フィクション作品のメタ要素は、時に「第四の壁を越える」という表現がなされることがあります。虚構世界と観客の間にある不可侵の壁を指した言葉でしょう。そして『第12動画欠番』には、その更に上からプレイヤーの選択を決定しようとする存在がいるかのように演出されます。

本作の未来予知の声に関する演出からは、まるで私を取り囲む第五の壁があって、その向こう側にいる何かとやり取りしているような…そんな不思議な物語体験がありました。

ユニークな体験ができる作品で、かつフリーゲームであるため、興味のある方はぜひ、プレイしてみてください。

ただし、本作の遊びはシンプルな正解の選択肢探しで、メカニクス自体になにか珍しさがあるわけではありません。ついでにエンディングへの到達難度も高めなので、遊ぶ場合、攻略情報もためらわずに使用することをオススメします(配信ページにリンクあり)。

第12動画欠番【完全版】 - 無料ゲーム配信中! [ノベルゲームコレクション]
現実のYoutube番組で起きた “ホラードキュメンタリー・ノベルゲーム ”「未来予測の声」を聴いて、未来のビデオゲームに関わるトークを選択するゲームプレイ。現役のゲームライターが運営するYoutube番組『令和ビデオゲームグラウンドゼロ』...
タイトルとURLをコピーしました