【EVE ghost enemies】レビュー・評価 疑いと、それを打ち払うもの

4.5
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レビューの補足説明のような内容になります。
特に「疑い」と「疑いを打ち払うもの」について。

やや好意的に解釈しすぎているように見えるかもしれません。
正解ではなく、いち解釈として読んでいただけると幸いです。
明確な見落とし、誤りがあれば、指摘されしだい加筆や修正も行います。

「疑い」について


本作のテーマが「疑心暗鬼」であったことは、プレイ済みの方ならば誰もが納得するところだと思います。
進めれば進めるほど、多くの人物に疑惑が生まれ、誰が味方なのかが分からなくなる。
この人物は信頼できるのか?という疑心が、敵なのではないか?という暗鬼を生み出します。

当初は黒幕だと思われたイヴァンカ。
小次郎を欺いたシェリィ。
明らかに只者ではないアウラ。
E計画の関係者として浮上する山笠、フーリオ。

彼らの表裏をマルチサイトシステムを活かしてEVEらしく描くのが、本作の特徴の一つであると感じました。
例えばアウラは小次郎視点では敵には見えませんが、まりな視点ではレイス殺害の現場に現れる謎の人物。
山笠、本部長こと甲野すらも、小次郎視点では水守事件の関係者として名前があがります。

疑惑のかかる人物が多数登場し、更に彼ら同士でも疑い合わせる。
プレイヤーも含めた疑心暗鬼の連鎖が生む複雑な事件を描くのが「EVE ghost enemies」
なのでレビュー内で本作を「疑い」の物語であったとしました。


「疑心暗鬼」という言葉そのものには、作品の中で出会ってほしいため、あえて使いませんでした。

堀度について

黒幕であった堀度は、正に疑心暗鬼に飲み込まれた人物として描かれていました。
堀度は水守事件の経験からか、裏のない優しさを向けられることに恐怖すら感じるようになっていました。
保証もないのに自分に優しくする隆二が信じられず、ゴーストエネミーズを使って彼を間接的に殺害してしまいます。

しかし隆二は堀度と優先するものの違いこそあれど、堀度がその胸中を打ち明けさえすれば、決して彼を悪いようにはしなかったと思います。(隆二はラヒマ、堀度はEver3を優先)
隆二の性格を考えれば、堀度が求めていた“居場所”を作ってくれたかもしれない。

またイヴァンカは母性の向けどころとして堀度に協力するも、堀度は彼女をまるで信頼していないように見えます。
胸中を話せば、イヴァンカなりのやり方で、堀度に真っ当な生き方ができるよう尽力してくれたのでは…と感じました。

全ての黒幕が、正に「疑い」にまみれ、誰一人信頼できなくなった人物でありました。

信頼の象徴…レイスについて

一方で、このような疑いの連鎖からはずれ、プレイヤーとキャラクターたちから絶対に信頼できる人物として。
更に「疑いを打ち払うもの」として描かれていたのが、レイスとエリスであったと感じました。

(七瀬も信頼できる人物ですが、疑いを打ち払うものとしては描かれていませんでした)

まず信頼できること、相手を疑わずにいられることの素晴らしさを象徴するような人物であったのが、レイスです。

レイスは疑いだらけの「EVE ghost enemies」において、まるで砂漠のオアシスのように見えました。
疑心を抱いてしまうことがなく、だから暗鬼も生まれない。
レイスだけは絶対に大丈夫。
そう思える人物でした。
それは特に、小次郎にとってもそうだったように思います。

探偵…とくにファンタジーの探偵とはすなわち、人を疑う仕事だと言っても過言ではないでしょう。
小次郎は物語序盤、レイスに疑いを向けます。
が、後のエピソードでそれを完全に取り消します。
(部屋に忍び込んだレイスを咎めた際、素直に謝ってしまうシーンなど)

常にだれにでも疑いを持つ小次郎が、その必要が無いと感じた人物。
だからこそレイスは、信頼の象徴のような人物であったと感じました。

それだけに留まらず、そのレイスがいかに大切な存在であったかを、本作はこれ以上ないほど印象的なエピソードで、プレイヤーに突き付けます。
レイスが堀度の凶弾に倒れるシーンです。

汎用

まりな視点初日の最後。
あのとき撃たれた人物がレイスであったと知った時、衝撃を受けました。
なぜレイスが?
信頼の象徴であったレイスが、命を落とさねばならないのか?

EVE ghost enemies」は、プレイヤーと小次郎にとってもっとも信頼できる人物であったレイスを、あえて奪う。

信頼できる人物、疑わなくていい人物がいることが、どれほどの喜びか。
それがどれほど人を支えるか。
レイスを奪うことで、残酷に、そして明確に描きます。


レイスを奪われた小次郎は、復讐の鬼へとなりかけます。
あの小次郎が単純な殺意で動くシーンなど、私は記憶にありません。
小次郎ですら、冷静さを保てない。

彼とレイスを通して、信頼でき、暗鬼を生むことのない人物がいかに尊いものであるか。
それを失うことがどれだけ苦しいかを、描いているように見えました。


疑惑を張り巡らせ、ゴーストエネミーズによるスリリングな物語を展開し、同時に圧倒的に信頼できる人物を描き、あろうことかそれを失わせることで、その素晴らしさを残酷さと共に表現しています。

私が「EVE ghost enemies」でもっとも感動したのは、ghost編の冒頭。
小次郎が沢城堂村で過ごした一年を「楽しかった」と振り返るシーンです。

何者にも疑われず、何者も疑わず。
信じられ、また自分も信じる。
そんな人のために汗を流し、泥にまみれて、働くこと。
その喜び。素晴らしさ。


その日々を支えていたレイスが、どれほど大切な存在であったか。
それを失うことが、どれほど苦しいことか。

小次郎を通してそれが伝わり、涙が流れました。


しかし小次郎は、探偵に戻ります。
またしても疑いの日々に戻っていきます。
もしレイスが生きていれば、彼女のために汗を流すことを選ぶ可能性もあったのではないでしょうか。

またこのことは同時に、レイスが思い悩んでおり、「EVE」シリーズが描き続けてきた作られた存在を救う展開にも繋がっています。
レイスは自身が望まれない子であることに悩んでいました。
しかし小次郎を疑心から解き放ち、ともに過ごした日々を「楽しかった」とまで言わせたレイスが、望まれない子であったはずがありませんから。

疑いを打ち払うもの…エリスについて

更に、本作のもう一人の信頼の象徴。
特にレビュー内で触れた「疑いを打ち払うもの」
私がそう解釈したのが、エリスです。


なぜそう思ったか。

エリスは作中何度も、プレイヤー、あるいはキャラクターの疑心をかき消す存在として描かれていたからです。
それを強く感じたシーンが2つあります。

まず一つは、enemie編の道中。
まりなが菜穂の部屋でうたた寝するシーンです。
香川、杏子にすら追われる身になったまりなは、誰を信じればいいか迷い、思案します。
誰もかれもが敵に見え、正に疑心暗鬼に飲まれそうになったまりな。
文字通り彼女の目を覚まさせたのが、エリスの泣き声でした。


またこれ以上に象徴的なシーンが、物語の終盤、ついに小次郎とまりなが争う場面です。
二人のヒーローが銃すら向けあう。
本作の疑心暗鬼をもっとも感じさせるシーンでありますが、この戦いを止めたのも、やはりエリスの泣き声でした。

汎用

くわえて、エリスが他でもないプレイヤーの疑心を打ち払う存在となるシーンもありました。
プレイヤーにとって信頼できない人物であった、シェリィとイヴァンカ。
二人が、それぞれエリスを抱くシーンです。


イヴァンカはあの性格ですが、堕胎したことに胸を痛めており、エリスを抱くシーンでは珍しく戸惑う姿を見せます。
ほんの短いシーンではありますが、イヴァンカへの印象が大きく変わる場面でした。

シェリィはイレイスの面影をそこに見たのか、エリスを抱いて涙すら流します。
目的のために小次郎すら追い詰めたシェリィ。
しかし、決して根っからの悪党ではないと確信できるシーンでした。

どちらも信用はしづらい。だがエリスを傷つけることだけは、絶対にしないだろう。
これらのシーンを見て、そう思いました。
全てではないにせよ、イヴァンカとシェリィへの疑心暗鬼を、エリスが打ち払ってくれたように見えました。


エリスは、言うまでもなく子供です。
だから人を疑うことを知らず、とくにエリスは幼いため、自分を抱く相手を信頼することしかできません。
決して相手を疑わないこと。
それこそが人の疑心を打ち払い、そうして生まれた信頼は、周りの人間にも伝播していく。
いささか理想論じみているかもしれませんが、エリスを通して、そのような信頼の形を描いたのではないかと感じました。
そこに感銘を受けました。

だからこそ本作の最大の魅力として「疑いを打ち払うもの」をあげました。

いくつかの不満点

一方で気になったのは、堀度の末路が悲惨すぎたこと。
もちろん彼の行いは許されません。
ですが生い立ち、動機を思えば、更生の余地がなかったとも思えない。
最期は死ではなく逮捕。イヴァンカや隆二の想いが届き、心を改めようとする…という展開でもよかったと感じます。
誰よりも疑心暗鬼に陥った堀度だからこそ、そこから救われれば、それは本作のもっとも強いメッセージになったと思うのです。

またクライマックスで示される、シェリィからイレイスに伝えられた「笑顔」に関するエピソードが、やや弱いと感じました。
レイスが信頼できる人物であったのは間違いありません。
ただその信頼を決定づけたのが、笑顔であったとは言い切れない。
笑顔が信頼につながったことがはっきりしているのは、小次郎とのバス内での初邂逅シーンくらいでしょうか。
最後に示すならば、道中にもっと印象付けがあって良かったと感じます。

シェリィがスパイラルへと捨て身で向かうシーンも、盛り上げが不足していると感じました。
最後のイレイスからの問いかけも、演出として面白い一方で、物語のメッセージを不明瞭にしているとも。
現実に即したメッセージになっていることは確かなのですが。

終わりに


純粋な物語の面白さだけでなく、マルチサイトシステムを使って「EVE」らしく疑いを描いたこと。
更にその真逆のものを、あろうことか失わせ、しかもそれがまりな視点の初日に繋がっていく…と、ユニークな描き方で印象付けたこと。
もともと複雑になるマルチサイトを活用しながら、しかも叙述トリックに近い手法まで盛り込んで、それをプレイヤーに悟らせない物語を作り上げたこと。

これらの点から、本作はほぼ満点の★4.5としました。

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