コンビニ人間 / 村田 沙耶香
芥川賞作品。
受賞も納得の凄い一冊だった。
ファンタジー要素なんて何もない人間たちのお話なんだけど、それが色んなものを暗示している…
というか、社会の縮図ってのは身の回りのちょっとした場所にも、当たり前のように転がっているのかもって思った。
驚いたのは、初めは異常者にしか見えなかった主人公が、どんどん共感できる人物に変わっていくこと。
自分も今30歳で童貞だけど、このことに焦りとか後悔とかはあんまりない。
ただそれでも「彼女が欲しい」とか「いつか結婚したいけど、相手が見つからなくて困ってる」っていう設定で生きてた方が、何かと便利。
でも今は多様性がやたら重視される気もあるので、そういうのは減っていくのかな。
ハサミ男 / 殊能 将之
そういう引っかけ方もあるのか…と思った。
この本はある表現の名作と呼ばれてるらしい。
でも自分はそうと知らずに読んだので、余計に驚いた。
これはラッキーだった。
振り返ってみるとズルっこい点もあるとは思うけど、十分満足。
描かれる人間も面白くて、小説としても楽しく読める本だと思う。
月魚 / 三浦 しをん
さすがの表現力に溜息をつかされた。
何を読んで、何を書いていればこんな表現ができるようになるんだろう?
冴えた月光は、澄み渡った銀色の触手で部屋を一撫でし、部屋の温度をますます下げた。硝子戸と障子の間にある細い縁側が、濡れたように光っていた。池の水面は、水銀を湛えているのかと思われるほど重く、さざ波一つ立たない。
月魚 / 三浦 しをん 角川文庫より
どこかで聞いたことのある言い回しに頼らず、独自の正直な表現で切り取る。
これは自分がもっとも憧れる文章の形の一つで、それを存分に味わえた。
もちろん人間の描写も抜かりない。というかそっちが本題。
BL…と言う人もいるようだけど、自分はそうは思わなかったな。
描かれているのはあくまで友情の範疇に感じる。
異性愛者同士のどこまでいっても恋愛には発展しない、でもこれ以上ないほど強い結びつきを感じられた。
「うまい!」と言わせる文章の裏ワザ / 石黒 圭
期待外れだった一冊。
裏ワザ…と謳っているけれど、どこでも見られるテクニックが大半。
新たな発見はほとんどなかった。
語尾は被せないのが基本だけど、あえて被せることで独特なノリを出すこともできますよ~とか、そういうの。
確かに日常の文章でサラッと入れたら「うまい!」と言われるかもしれん。
ただその裏ワザが、なぜ定石を外れているのに良い文章に感じられるのか?という点を、論理的に解説してくれているのは良かった。
動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 / 東 浩紀
難しい本だった。一度読んだだけではなかなか。
ただここで投げ出しては成長しないので、再読して理解を深めようと思う。
幸い短いし「デ・ジ・キャラット」や「この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO」など、なじみのある名詞も出てくるので敷居は低めのはず。
ただ、データベース消費っていう考え方はすごくしっくり来る。
どんな作品も一度世に出るとバラバラに解体されて、その各要素がデータベースに登録される。
「異世界転生系」とか「日常系」とか。
そしてそのデータベースから各要素を組み合わせて、作品が新たに作られる。
これはキャラクターも同じで、「お嬢様」とか「ドジッ娘」とかの属性に分解、再構成されて次々にキャラクターが生み出される。
この辺りの話はとても面白かったので、もう一度挑戦して、理解したい。
コメント