まず誤解を防ぐために書いておきます。
本作が架空の物語であることは、私ももちろん理解しています。
そのうえで本作を、ある意味で真実で、またある意味で、実在するものだと断言します。
中だるみを感じられる場面があり、ここをどう感じるかで評価が変わるでしょう。
しかし、伏線の連続と圧巻のどんでん返しでプレイヤーを引っ張る物語はお見事。
それでいてヒロインたちは魅力的に描かれており、恋愛物語としても興味を誘ってくれます。
更に本作は、“面白い物語”だけでは終わりません。
作品に含まれる実在と真実が、プレイした者の“見え方”にまで影響を与えうる力を持っています。
印象的な一本でした。
タイトル | さくらの雲*スカアレットの恋 |
ジャンル | ギャルゲー |
対応機種 | PS4、Switch |
価格 | 完全生産限定版/10,978円(税込) 通常版/8,228円(税込) DL版/7,810円(税込) |
プレイ時間の目安 | 25時間 |
判定 | 良作+ |
あらすじと総評
「さくらの雲*スカアレットの恋」はノベルタイプのADV。ギャルゲーです。
本作は2020年9月、PC用に成人向け作品として発売されたものを、全年齢向けに調整、移植した作品です。
それに際して、おまけシナリオに新OPの追加、更にキャストの一新までされました。
あらすじ
現代に生きる主人公が、100年前…大正時代になぜかタイムスリップすることから、ゲームがスタートします。
同じ日本と言えど、100年前では当然身寄りは無し。
あわや路頭に迷うところであった主人公。
手を差し伸べてくれたのは、「大正のシャーロック・ホームズ」を自称する、ある探偵事務所の所長でした。
彼女のもとで、助手として働くことになる主人公。
自身もまた依頼人として、所長にあるお願いをします。
「自分がここへ来た謎を、解いてほしい」
大正のシャーロック・ホームズとその助手(と仲間たち)の、数奇な物語が始まるのでした。
総評
力作であると感じました。
大きな魅力は、まず物語。
伏線の連続とその回収、そしてとどめの“どんでん返し”で、プレイヤーを強く引き付けてくれます。
更にギャルゲーの花であるヒロインたちも魅力的。
物語と、ヒロイン。
良いギャルゲーの基本と言える両輪を、本作は外しません。
前述の通り主人公は、タイムスリップにより大正時代へ飛びます。
主人公はなぜ、タイムスリップしたのか?
どうすれば、現代へと帰ることができるのか?
本作の物語は、このナゾを柱に展開されます。
そしてこれには、予想のつかない思惑が隠れています。
このナゾを解き明かす過程で、多重に伏線が張られ、ときに放心させられるほどの“どんでん返し”が訪れます。
何度も驚かされる内容でした。
くわえて、ヒロインたちを魅せることも忘れていません。
CG=外見もハイレベルですが、加えてヒロイン一人一人が、人物として面白い。
それぞれが可愛げのある一面と、ユニークな一面によるギャップを持っており、これがヒロインの魅力を引き立てます。
この二点だけでも、良作だと言える本作。
しかし「さくらの雲*スカアレットの恋」は、“シナリオが面白くて、女の子が可愛い”だけでは、終わりません。
私が感じた、本作の真髄。
それは、物語の中で示される真実と、実在です。
当然ですが本作は、架空の物語です。
全ては作り話です。
しかしある地点で、物語は私たちが生きるこの現代へとリンクします。
そうして本作は、真実が込められた物語へと昇華していきます。
キャラクターたちは、ある意味で実在する人物へとなってゆきます。
面白い物語…というだけでも十分です。
しかし本作はそれを越えて実在に近付き、やがてプレイヤーと物語が繋がっていきます。
このような、物語を越えた感動をくれたからこそ、私は本作を、他にない体験ができる、素晴らしい作品であったと感じました。
一方で、不満を持った点もないわけではありません。
もっとも気になったのは、中盤にやや中だるみを感じられたこと。
中盤に差し掛かると、本作は物語のスピードを落とします。
真相に迫るためのカギ集めを、じっくりと描いてゆきます。
これ自体はつまらなくはありません。
しかし如何せん本筋に全く絡んでいないように見えるシーンが多い。
先が見たくて仕方ないこちらと、物語のスピードが、ズレてしまったと感じます。
更にもう一点気になったのは、ヒロインとの関係を深める過程の描写。
これが不足していることです。
ヒロインによっては、まるで途中をカットしたのかと思うほど、突然関係が進展します。
これには唐突さを感じました。
本筋は時間をかけて進めているだけに、描写不足が余計に目立ちます。
中盤の、真相にせまるための長いカギ集め…これは賛否のわかれる点でしょう。
また一部ヒロインとの恋愛模様の描写が不足しており、唐突に関係が変化しているように見えるシーンがあります。
他を丁寧にやっているだけに、これには不自然さを感じました。
しかし伏線と回収、どんでん返しでプレイヤーを引っ張る物語は、特筆すべきものがあります。
放心させられるほど驚いたシーンもあり、この物語はシナリオの面白さを求めるプレイヤーにオススメしたい。
更に作品を通して伝わる“真実”が、本作を忘れられない一本へ仕上げています。
オススメのゲームです。
詳しいレビュー
伏線で引っぱり、どんでん返しで落とす物語
本作の良い点としてまず挙げたいのは、先が気になる物語です。
物語の中心となる大きなナゾは、2点。
・主人公はなぜ、100年前へタイムスリップしてしまったのか?
・どうすれば、現代へ帰ることができるのか?
主人公は冒頭、ある日突然、何の前触れもなく、100年前へと飛んでしまいます。
もちろん自分の意志ではありませんし、怪しげな科学実験をしていたわけでもありません。
そこには複雑な思惑があり、真相は容易には明らかになりません。
ナゾを解き明かす過程で、次々に伏線が張られ、時にはどんでん返しによる一撃が放たれます。
これらが、プレイヤーを物語に強く引き込んでくれます。
伏線で物語への好奇心を生み、どんでん返しがプレイヤーの予想をひっくり返す。
これらは、良い物語の基本と言える点だと思います。
そして本作は、この基本を外しません。
特にどんでん返しの威力は、それはもう強烈の一言。
コントローラーを持ったまま、呆然としてしまうことすらあったほどです。
先が気になる物語。
これを求めている方に、本作は特にオススメです。
可愛く、面白いヒロインたち
シナリオで読ませつつ、ヒロインたちを魅力的に描くことも忘れていません。
良いキャラクターに共通する特徴として、二面性があります。
ツンデレやドジっ子メイド、生徒より幼く見える先生、私生活はずぼらな生徒会長…
見た目やポジションから予測できる一面と、そうでない一面を合わせ持ったキャラクターは、ギャルゲーの世界でも長く愛されてきました。
良いキャラづくりの基本だと思います。
そして本作はシナリオ同様、ヒロインを描く上でも、この基本を外していません。
ヒロインは皆、イメージ通りである一面と、ややズレた一面を合わせ持っています。
例えば本作のあるヒロインは、探偵でありながら、実はお金が大好き。
探偵というポジションから予測できるのは、冷静沈着かつ聡明なキャラクター。
実際彼女はそのような人物ですが、一方でお金をチラつかされると目を¥マークにして喜ぶ一面も持っています。
進むほどに見えてくる予想外の一面が、ヒロインを可愛いだけでない、ユニークなキャラクターに仕上げています。
イメージにおさまらない個性を持ったヒロインは、可愛い以上に面白い。
そのため、個別ルートへの興味も増します。
本作は続きが気になる物語として、まず面白い。
その一方でヒロインたちも、魅力ある存在として描かれています。
恋愛物語としても、プレイヤーの興味を引く内容であると感じました。
中だるみと見るか、ナゾを解くための「鍵集め」の道のり
良い物語と魅力的なヒロインで、プレイヤーを引き込む本作。
ただいくつか、気になった点があったのも事実です。
まず最初に挙げたいのは、物語に中だるみと感じられる部分があったことです。
というのも本作は、ある地点で巨大なナゾをプレイヤーに提示します。
これは物語の根幹に関わるナゾ。
本作のエンディングへ繋がるだろうと、直感的に思わされるものです。
そして物語は、このナゾを解くための“カギ集め”へと進んでゆきます。
ここに、中だるみを感じる部分がありました。
カギ集めの過程は、決してつまらないわけではありません。
ヒロインとの個別エピソードが多くありますし、それまでに張られた伏線が回収されたり、新たに張られたりもします。
十分に面白いシナリオだと言えます。
ただどうにも、時間をかけて進むのです。
プレイしながら、早く先に進んでくれ!と思ってしまう自分もいました。
何しろこちらとしては、先に提示された巨大なナゾが、気になって仕方がないのです。
ところがゲームはそれに反して、時間をかけてカギを集めていきます。
そのためこの場面を、中だるみのように感じることがありました。
しかし繰り返しますが、決してつまらないわけではありません。
驚くべき真相が見えるシーンもあります。
何よりさっさとナゾを解いてしまうのも、それはそれで無粋です。
ジェットコースターが最初はまずゆったりと進むように、緩急をつけるからこそ、動き出したときの衝撃も大きくなるもの。
ずっとアクセルを踏みっぱなしでは、良いものにはなりません。
ただ本作の場合、一度アクセルを踏んだあとで急に止まるため、アクセルを踏みたい!と思うプレイヤーと、物語のスピードが乖離してしまったのも事実です。
本作を遊ぶ途中、中だるみを感じるシーンがあるかもしれません。
しかしどうかそこで降りず、最後までプレイしてほしい。
それは真相に迫るための、大切なピースであるからです。
全年齢向けの宿命? 関係を深める過程の描写不足
もう一つの、本作の気になった点。
それは、恋愛の過程に、描写不足があることです。
ヒロインと主人公の関係が、唐突に進展したように見え、戸惑うことがありました。
またルートによっては、過程を飛ばして突然エンディングに入ったように感じられることも。
と言っても、出会いから結末まで全てにおいて不足…というわけではありません。
物語の途中に、まるで切り落としたかのように描写が欠け、いきなり関係が進展するシーンがあるのです。
これには違和感を覚えました。
何しろ本作は、タイムスリップにまつわる本筋の方は、それはもう伏線を使ってじっくりと進めていくからです。
恋愛と本筋という二面のうち、片方だけに描写不十分な点があるため、余計に目立ちます。
恐らくですがこの原因は、全年齢向けにするにあたっての調整ではないかと思います。
本作はもともと成人向けのゲーム。
そのためCSへの移植に際して、未成年でも遊べるように内容が調整されます。
シーンをそのまま切り落としてしまうこともあれば、そのままにしてCGに“白いモヤ”を入れるだけにすることもあります。
本作の場合、この切り落としたシーンの中に、ヒロインとの関係を深めるシーンが含まれていたのではないか…
そう推察します。
精神的な距離を縮めるための、重要なシーンがあったのではないでしょうか。
事実ルートによっては、一夜明けたら突然に恋人同士となっていることもあり…
苦笑いで“察する”こともありました。
調整自体は仕方のないことです。
むしろ、しっかりやってもらわねば困ります。
ですがそれにより展開に不自然な場面が生まれるのであれば、何かフォローが欲しかった。
ヒロインと主人公の関係が進展するきっかけ
これが十分に示されないため、物語の盛り上がりとこちらの心理が離れてしまうことがありました。
本筋を丁寧にやっているだけに、これはもったいない。
(おそらく)調整によって生まれたこの描写不足は、実に惜しい点です。
作品から感じた、真実と実在。
上記の通り、気になった点もあった本作。
ですが私は、レビューの最後となるここで改めて、「さくらの雲*スカアレットの恋」は、素晴らしい作品であったと断言します。
なぜならば本作は、ある意味で真実、またある意味で実在の物語であったと感じるからです。
真実で、実在したからこそ、今私がこうしていられるのです。
いささか大げさであるかもしれません。
しかしここまで言いたくなるほどの感銘を、私にもたらしてくれました。
素晴らしい作品でした。
言うまでもなく本作の物語は、架空です。
登場人物はみな作られた存在で、実在の団体や地名、個人とは一切関係ない。
それは承知しています。
ですが本作は、ある地点で現実世界へと繋がります。
物語は真実へ、キャラクターは実在へと変わり始めます。
その時、“良い物語”を越えた作品へと、本作は昇華していきます。
ではなぜ、ある意味で真実だというのか?
なぜ、ある意味で実在しているというのか?
どのような形で、本作は現実へと繋がるのか?
こればかりは、今こんなところで語るわけにはいきません。
ぜひ、あなた自身の手で本作をプレイし、確かめてください。
もしあなたが本作を既にプレイ済みであるならば、おまけの個別ルート感想を読んでいただけると、嬉しいです。
そこで私が感じた全てを語っています。
終わりに
中盤をどう感じるかが、本作の評価の分かれ目になるでしょう。
しかしどうか投げ出さずに、結末を見届けてほしい。
単純な“良いゲーム”だけでは終わりません。
私たちが生きる、今この瞬間にすらリンクする物語は、全てのギャルゲーマーにオススメです。
また移植に際して追加されたシナリオも、感動をいっそう強くするもので好印象。
令和の良作リストに名を連ねることは、間違いない一本です。
おまけ 全個別ルート一言感想 ※ネタバレあり
プレイ済みの方のための、全ルートの感想です。
ネタバレを含みます。
共通ルートの最後に、彼女が銃を構えて怪盗を撃ち殺す…という、強烈な引きから始まる本ルート。
そのため、興味を持って進めることができました。
怪盗ヘイストのナゾに迫り、更にネフェルティティの胸像にまつわるエピソードで、加藤の存在はより一層ナゾが深まる…と、プレイヤーを引き付ける物語のピースが散りばめられています。
加藤がヒトラーにまで接触していたというのは…空恐ろしさを感じました。
ただ気になったのはレビューでも書きましたが、遠子との恋愛模様の描写不足です
特にエンディングにはずいぶんと唐突な印象を受けました。
また回収しつつも、新たに多くの伏線が張られるルートであり、その点には一周回ってやや消化不良を感じました。
本筋とはもっとも縁遠いルート。
序盤でアララギから渡される、未来の自分から来た…ように見える電報には驚かされました…けど、あれって結局何だったんだんでしょう?
「別府から手を引け」に迫ったり、ナリゴンと加藤の繋がりが判明するなど、引き付けられる要素がなかったわけではありません。
しかし蓮は本筋にほぼ無関係であり、そのためルート内で起こる事件にもあまり関わりがありません。
そのため、蓮のルートなのに、彼女をほっぽり出して話が進むシーンが多いと感じました。
遠子ルートでは、遠子の過去を明らかにすることが物語の真相への鍵に直結していました。
蓮にはそのようなものがなかった。
ただ蓮というヒロイン自体、あの時代の普通の女の子として描かれているように思います。
それを考えて、あまり深く関係させる必要もないとしたのでしょうか。
であるにしても、蓮自身を深く描くシーンはもっとあってよかったと思います。
恋仲になったあとの描写も、遠子同様に足りていないと感じました。
ただ蓮は、とても好きなヒロインです。
自由恋愛なんて許されなかった時代に生まれた蓮。
彼女が言う「私に恋を、教えてくれますか」には、胸を打たれました。
なんと切ない願いでしょうか。
恋を求めて命すら落とす女性がいる世の中で、蓮はいったいどのような気持ちで、司にああ言ったのでしょう。
やはりエンディングには唐突さを感じました。
何か壁を乗り越えて、恋を知る描写が欲しかった。
でも、彼女が幸せになってくれて、とても嬉しく思いました。
メイドの分際でそのような…モグモグ…が可愛いメリッサ。
突然の途中下車不可、急行電車で殺人事件…は、さすがに強引に話を運んだ印象を受けました。
とはいえ前2ルートで中だるみを感じていたタイミングであり、そこに刺激のあるエピソードを持ってきてくれたのは良い点です。
しかしミステリとしては…どうなのでしょう?
あまり推理小説を読まないので、深い話はできません。
ですが最大のナゾであった返り血が、トリックではなく、単なるおばあちゃんの知恵袋のような真相であったのは拍子抜けしました。
また千里眼という異能にまつわる説明がないのも、気になります。
加藤や主人公はタイムスリップこそしたものの、能力者ではありません。
しかしメリッサはれっきとした特殊能力持ちであり、これになんの説明もないのは不自然と言いますか…
そういう人もいる世界…ってことで決着なのでしょうか。
またメリッサと主人公が恋仲になるきっかけも、もっと描写すべきだったと感じます。
ただ彼女と遠子の過去が明らかになり、その他にも遠子ルートにて母が言っていた「荒んだ目をしたメイド」の意味が分かったのも良い点でした。
満場一致のメインヒロイン。
本作への評価を決定づける面白さを持ったルートでした。
物語のナゾを解いていく過程で、一番信頼できるはずの主人公が、気が付けばいちばんナゾの存在に…というのは、過去に何度か見たことがあります。
しかしあの真相は全く予想しておらず、月並みですが雷に打たれたような衝撃を受けました。
物語の流れから言って、主人公が帰るのは今この時代、令和であると思うでしょう…
全く、完全にやられた瞬間です。
ただ大ボスであった加藤は、あれだけ余裕を見せていた割には呆気ない終わりだったなと思います
彼ならば、あれくらいのことは対策していそうなものですが…
また批評空間のレビューに目を通しますと、SF周りの設定の不備について言及している方が多く見られます。
これに関しては私も、確かに…と思わされました。
そもそもあれだけの歪みを起こした加藤が、今更親殺しのパラドックスで消えるものかと思います。
また元号が違うほど変化した未来に、主人公は無事に帰れるんだろうか…という疑問もあります。
加藤が結局何をしたかったのか…これがあやふやであった点も、ちと気になる点です。
東京再編というのはわかりましたが、その再編によって一体何を成したかったのでしょうか?
このようにいくつかの気になる点はあります。
しかし、私はこれらをあまり重視していません。
なぜならシナリオライターが描きたかったものは、別のところにあると思うからです。
また私が感動した点も、違うところでした。
所長たちは未来を変えるため、強い理想をもって戦うことを選び、主人公と別れます。
彼女たちが目指したものは、正に私たちが生きている、今この瞬間。
戦争のない、平和な日本です。令和の時代です。
そして、このような理想をもって尽力した人物は、間違いなく実在したはずです。
歴史の教科書に名前が載っていなくても、この国の平和を願って戦った人物は、きっと数えきれないほど実在したことでしょう。
彼らが平和な国…つまり、今私たちが生きているこの瞬間のような国を願って戦ったからこそ、この令和があるのだと思います。
その点で所長たちは実在しており、その理想は真実であったと感じました。
彼女たちの存在は架空です。しかし掲げた理想とそのための戦いは、実在したはずです。
だから、それを描いた本作の物語も、ある意味で真実だとおもうのです。
私がもっとも感動したのはこの点です。
物語と現実がリンクし、今まで意識してすらいなかったものが、とても尊く、愛おしいものに感じてくる。
平和な今この瞬間は、決して当たり前のものではなく、先人たちの果てしない戦いの上にあるものなんだと、感じます。
“見え方”が変わりました。
だから私は、SF周りの設定に多少の不備があっても、中だるみを感じても、本作を素晴らしい作品であったとしました。
本作は昨今のギャルゲーとしてはたいへん珍しく、移植にあたって新規エピソードが追加されています。
内容は1時間程度でおわる後日談ですが…
これにはとても感動させられました。
妖精の正体は、ホタル
なんてことはない真相です。
しかしこのホタルは、100年前に別れた所長たちからの、贈り物のように見えました。
だから私は、このシナリオにとても感動しました。
ホタルは住みやすい環境が整った場所でないと、あっという間に見られなくなってしまうのだとか。
それほど変化に敏感なホタルを主人公たちが現代で見られたのは、ホタルが住む環境が、昔と変わらずに残っていたからではないかと思います。
そしてそれを守ったのは、時代を築き上げてきた先人たちに他なりません。
100年後の世界では、当たり前ですが所長たちヒロインは誰も生きていません。
でも、彼女たちがその人生をかけて守ったものは確かに息づいており、その象徴が、あのホタルであると思うのです。
もう二度と会うことはできなくても、その意志は確かに伝わったシーンであったと思います。
コメント