【零 ~濡鴉ノ巫女~】レビュー・評価 7年たっても、今なお怖い。ただし、出会うまで。

3Dアクション
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何も分からない状態こそが、一番怖い。
これはホラーゲームの宿命なのでしょうか。

「零 ~濡鴉ノ巫女~」は、発売から7年がたった今でも、怖いと感じられる作品でした。
描きこまれたグラフィックと、実在しているかのような現実味を帯びた伝承。
それらが作り出す雰囲気は、今改めて味わう価値のあるものでした。

一方、怖さの根源であるはずの幽霊たちは、やや表現の粗が目立っています。
作り物っぽさをカバーしきれておらず、この点は残念です。
幽霊が出たあとよりも、出るまでが、一番怖いゲームでした。

タイトル零 ~濡鴉ノ巫女~
プレイ時間の目安15~20時間
判定準良作
備考・WiiUで発売された作品のリマスター版
・一部だが、シナリオに過去作品との繋がりあり

総評

「零 ~濡鴉ノ巫女~」は、元は2014年にWiiUで発売された作品です。
2021年で20周年を迎える本シリーズ。
しかし長らく新作は発売されていませんでした。

「7年たってもまだ怖い、雰囲気抜群の和風お化け屋敷ゲー」
このような印象を受けました。

本作を遊んでまず驚かされた点。
それは7年前の作品でありながら、今でもはっきりと「怖いゲームだ」と言えることです。

それもそのはず。
本作は、和風ホラーのもっとも重要な点である「雰囲気」が、数年の時などものともしない巧みさで表現されているのです。

ゲームのグラフィック、表現方法は、職人たちの手によって日々進化しています。
そのため、古いゲームを遊ぶとどうしても気になるのが、最新のゲームとの「差」
本作からはこの「差」をほとんど感じませんでした。

今見ても通用する、緻密に描きこまれたグラフィック。
これが本作から、安っぽさ、古くささを感じさせません。

そしてこのグラフィックで描かれた世界が生み出すのが、和風ホラーのキモである「雰囲気」です。



本作の舞台は真夜中の山林。
そしてそこに建つ、日本家屋や神社。
いずれも7年前とは思えないグラフィックで表現されており、古いゲームでありながら作り物らしさがありません。

作り物とは言ってしまえばウソ
そしてウソであることが明確なホラーは、怖さも半減してしまうように思います。

本作のグラフィックは、そのウソをプレイヤーに感じさせません。
そこに「雰囲気」までも味わえる作品に仕上がっています。

夜、か細い懐中電灯の明かりだけを頼りに進む山林。
人など誰も住んでいないはずなのに、不気味に整頓された家屋。
息苦しく、ずっと何かに見られているような、雰囲気。

発売から7年がたった今なお、本作は怖いゲームでした。



この雰囲気づくりのもう一つの柱が、作品の舞台に残る不気味な伝承。
そして切なさを含んだ物語です。


作品の舞台である土地には「人を自殺に追いやる巫女」の伝承が残されています。
その情報はゲーム内ファイルやムービーを通して、断片的に示されていきます。
今探索しているこの場所でかつて惨劇があり、それがもたらした災いは今も消えていない。

このおどろおどろしい伝承が、本作の雰囲気をより強固にしていると感じました。
しかし、そんな恐ろしい存在にも悲しい背景があり…




独自の魅力を失わない「零 ~濡鴉ノ巫女~」
とはいえ、不満点もないわけではありません。

もっとも気になったのは、エネミーである怨霊たちのグラフィック、表現の粗さです。

さっきグラフィックの差は感じない…とか言わなかった?

差は、確かに感じません。
しかしそれは、背景や主人公たちを遠目に見た場合の話。
とはいえ、どちらもそうマジマジと見つめるシーンはまずないため、通常のプレイで粗さを感じることはまずありません。

問題なのは、主人公を襲う怨霊なのです。

と言いますのも、本作の戦闘システムは「カメラで怨霊を撮影してダメージを与える」という作り。
そのため霊たちを超至近距離、どアップで見る機会が頻繁にあります。



するとどうしても、粗が目立ってしまう。
もちろん、当時できる最大の努力をして生み出されたのでしょうけれども。

幽霊の正体見たり何とやら
恐怖の根源である霊たちは、いざ対峙してみると、なんだか造形がチープであんまり怖くない。
その他の点では感じなかった作り物らしさが、出てしまっています。

またタイトルにもある本作のテーマ「濡れ」も、それ自体は大変良いものですが、ゲームのウリにするには、効き目が弱いと感じました。

濡れることによりメリット、デメリットが発生します。、
ところが、これが通常プレイしているだけではほとんど分かりません。
同時に起こる衣服の透けも、これだけかと言いたくなるささやかな変化。

緊張感をもたらす要素としても、エロ要素としても、もっと明確にして良かったと感じます。

怨霊のチープさは気になります。
「濡れ」による変化も、中途半端に終わっていて残念。

しかし、丁寧に作られている分、今でも「和風ホラー」を存分に味わうことができます。
これを題材にしたゲームは少なく、本作にしかない魅力を再確認しました。
切なさを含んだ物語もみどころ。
一人でじっくりはもちろん、実況配信や、カップルで遊ぶにもオススメの内容です。

詳しいレビュー

徹底した「和風ホラー」の雰囲気づくり

ここには絶対に、いる。
背後を振り向くのが怖い。
誰もいないはずなのに、誰かに見られているような気がする。

和風ホラーは何よりもまず、その空間の雰囲気が大切であると感じます。
これを徹底して表現している作品だと感じました。


舞台となる「日上山(ひかみやま)」は鬱蒼とした森が広がっており、“見られると自殺に追いやられる巫女”の言い伝えが残る土地。
山に魅入られ、入り込んでしまった大切な人を取り戻すために、主人公は山へと向かいます。



粗さを感じさせないグラフィックで描かれたマップは、不気味なほどリアリティがあります。
そこかしこに死角があり、何かが潜んでいる気配が消えません。

残された手記からは、「人を自殺においやる巫女」の伝承が断片的に示される。
これもまた丁寧に構築されており、まるで実在するかのような現実味を感じました。

美麗なグラフィックで表現された作品世界と、現実味のある伝承。
これが本作の和風ホラーの雰囲気を作り出しており、ゲームクリアまで崩れることがありません。


緊張をピンと張りつめ、それを緩めることができなくなります。
何もないことが、一番怖い、あの雰囲気が漂い続ける。
そんな場所を、プレイヤーは探索することになります。

進みたくないけど、進むしかない

何もいないけど、絶対に何かがいる。
こんな場所を探索し続けるうちに、だんだんと歩き回るのがイヤになってきます。



だって歩けば歩くほど、ヤツらと遭遇する機会が増えるから。
なるべく動きたくない。最小限のルートを通って、ここを脱出したい。
しかし、本作はそんなプレイヤーの心理を逆手に取るように、これでもかとマップを探索する必要がある作り。

マップには鍵がかかっている、あるいは「強い力」に押さえつけられている扉が点在します。
それを開くには、丁寧に探索して開ける方法を探るしかありません。
当然、動き回ればそれだけ会ってしまう頻度は増えますし、開けたくもない扉を開ける機会だって多くなる。
ましてや、重要なアイテムがある部屋ともなれば…

進みたくないけど、進むしかない。
脱出するためには、動き回るしかない。


プレイヤーをそんなジレンマに陥れる、恐怖のお化け屋敷ゲーム。
それが「零 ~濡鴉ノ巫女~」なのです。

正直粗い、怨霊たちの表現

本作のマップ、主人公たちの造形や表現は、今の時代を基準に見てもキレイだと言えるものです。
しかし、真の主人公とも言える霊たちのグラフィックには、粗さを感じずにはいられませんでした。

総評にも書いた通り、本作は霊をカメラで撮影してダメージを与える戦闘システム。
しかも引き付けて攻撃を誘い、カウンター撮影すると大ダメージ…という仕組みまで用意してあります。
そのため、どうしても怨霊を超至近距離で見る機会が多くなる。
CGの宿命か、やはりどアップだと粗がありありと見えてしまいます。



本作の怨霊は、“出るまで”はとても怖い。
しかしいざ出現してみると、こんなものかと感じてしまう存在でした。

もっと強調してほしかった「濡れ」要素

本作はタイトルにもある通り「濡れ」が、ゲーム上重要な意味を持っています。

ゲーム中、怨霊の攻撃や雨などによって、操作する主人公たちは「濡れ状態」に。

濡れ状態では、敵となる怨霊の出現率が上昇。
しかしそのぶんこちらの攻撃力も上昇するという、リスクとリターンが同時に発生する仕組みです。

更に嬉しい面白い特徴が、濡れ状態であると、主人公たちの衣服が透ける点です。
しっとりと、雨に濡れた女性…
もうそれだけで艶めかしく見えますし、衣服が貼りつき、うっすらと肌の色が透ける様は、良いと言うほかありません。

一方同時に際立つのは、無感情に降る雨と、それに気配を隠した霊の恐ろしさ。

これを両立するとは、たいへんよいアイディアではありませんか。
グッジョブ。よく思いついてくれた。

が、しかし、このどちらもが中途半端に終わっていると感じました。



まずデメリットである霊の出現率ですが、さほど上がっているとも感じられません。
また仮に出会ったところで、あまり強くない怨霊であることが大半。
濡れ状態は危険というよりも、エンカウント率が上がった面倒くさい状態という印象です。
ゲームのスパイス、緊張感を高める要素として弱いと感じます。

そしてもっとも重要である衣服の透けも、見比べて気づける程度の変化。
確かに透けています。
ですが色気、艶めかしさを感じるほどに至っておらず、ガッカリさせられました。
全年齢向けのためのゲームとして、せめぎ合いもあったと思います。
しかしそれを踏まえたうえででも、もっとやってほしかったと言いたくなるものでした。

濡れMAXの状態。確かに透けていますが…



目玉であるはずの「濡れ」がゲームを盛り上げる要素として、弱い。
そう感じました。

終わりに

本シリーズは、大手メーカーによる和風ホラーゲームの最後の砦
そんな作品であったように思います。
このリマスターが、シリーズ復活の兆しになれば良いのですが。

お色気要素にはあまり期待しない方がよいでしょう。

怖いゲームを求めているならば、ぜひ遊んでみてほしい作品。
リマスター版とはいえ、元が良いので古さは感じづらい。
恐ろしい伝承と切ない物語の、「いかにも」な和風ホラー体験ができる一本です

Bitly

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