【くまのレストラン】レビュー・評価 感動的だが、感動できない。素朴な表現で味わう、生と死の物語。

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それがどんなに感動的な話であっても、自分に関係のない話では、人は感動できないと思っています。
地球の裏側で、感動的な最期を迎えた人がいたとして、それに涙を流せる人はいない。
自分に関係のない話だからです。

今回レビューする「くまのレストラン」は、天国と地獄の狭間でレストランを経営するクマ、そしてそこで働くネコの物語。
訪れる客は、死者。
彼らに最後の晩餐をふるまうのが、「くまのレストラン」の仕事です。

世界で100万ダウンロードされた本作が、ついにSwitchに登場しました

感動的な物語が展開され、爽やかな気持ちでプレイできます。

しかし描写が浅く、感動的ではあるものの、感動はできない…そんな作品になってしまっていると感じました

タイトルくまのレストラン
ジャンルADV
対応機種Switch、Android、iOS
価格1500円
プレイ時間の目安3~5時間

総評

くまのレストランは、天国と地獄の狭間の街で経営されるレストランを舞台にした2Dアドベンチャーです。
主人公はレストランでウエイターを務めるネコ。
シェフであるクマと共に、レストランを訪れる死者たちに「最後の晩餐」を提供します。

最後の晩餐と言っても、注文される料理は決して豪華なごちそうではありません。
どの死者たちも、生前食べた思い出の一品を注文していきます。



晩餐のあとは、死者たちは天国行きの列車に乗るため、駅へと向かっていきます。

そこでは彼らと会話することが可能。
生前の姿を垣間見ることができます。

彼らの話す内容は様々で、生きていた頃は言えなかった本音が漏れたり、思い残す後悔や残してきた人たちへの想いを語ったり。

どれも切ない気持ちを感じさせる内容で、号泣…というよりは、ほろりとする感動的なエピソードを体験できました。
ネタに近いキャラクターもいますが…


更に物語が進むにつれて、やがて主人公であるネコ、そしてクマの抱える真相へとスポットが当たっていき、本題へと入ります。
そこから先は”意外な展開”が待っており、前半とは大きく雰囲気が異なる展開に。

生と死、絶望の中にあっても輝きを失わない希望、命の理すらも超えて届くお互いを想う気持ちなど、感動的な展開が短編の中にしっかりと盛り込まれている。
ドット絵の表現は素朴ですが印象的で、BGMも場を盛り上げる良い仕事をしています。




しかしその一方で、プレイヤーを物語に深く入り込ませる前フリが、不足していると感じました。
生と死という重いテーマを扱っていながら、その描写は驚くほどあっさりとしています。
ごく短いイベント、会話で内容が語られるため、感情移入などできたものではありません。

私は、人が死ぬことそのものには感動できません。
そこに至るまでのエピソードを知ることで、心を動かされ、涙を流すことができます。

本作は正に、それまでのエピソードの描写が足りていないと感じます。
またエピソードの内容がありきたりなのも、残念な点です。

感動的なのに、感動はできないゲームになっていると感じました。

手軽に遊べて、爽やかなプレイ感
涙で前が…とまではいきませんが、心が温まる感動が表現されたストーリーです。
特に、お父さんお母さんゲーマーにオススメしたい作品です…詳細は言えませんが。


一方、重厚な物語、名作映画のような感動を求める方には、オススメできません。
描写の浅さにより感情移入しづらく、しっかり泣きたいプレイヤーほど肩透かしを食らってしまう内容だと感じました。


詳しいレビュー

生と死、それすらも超える想いを描く、感動”的”なストーリー

天国と地獄の狭間のレストラン。
様々な死者が、最後の晩餐をしに訪れます。

注文される料理は、決してごちそうではありません。
スパゲッティやハンバーガー、おでん、中には「みかん」を注文する死者も。

上手く言葉にできない死者もいますが、その場合でも死者の記憶に「ダイブ」することで、思い出のワンシーンを知ることが可能。
死者の生前のエピソードが描かれます。

死者たちは料理(?)を食べ終えると、天国行の列車を待つために駅へ。
そこでの会話で、ポツリポツリと生きていた頃の思い出を語りだします。

最後まで伝えられなかった本音。
あそこでああしていれば…という後悔。
残してきた人を想う気持ち。

もう二度と戻れないからこそ出てくる言葉は、プレイヤーの胸に切なく響く。
BGMも良い仕事をしており、心温まる作風のゲームとなっています。



ユニークなのは「記憶のかけら」というアイテムを使用することで、死者たちが死ぬ瞬間を見ることができる点。
極短いイベントシーンではありますが、これにより彼らの言葉をいっそうリアルに感じることができます。

これだけでも十分感動的なのですが、物語は後半に進むにつれて、主人公であるネコ、そしてクマの関係、その真相へと迫っていきます。

そもそも、なぜクマがレストランなどやっているのか?
なぜ、ネコはここで働いているのか?

謎が明らかになると共に、そこから先は前半とは打って変わっての意外な展開が。
不気味なシーンもいくらかあります。



待ち受けるクライマックスはやはり感動的。

詳細は伏せますが、生と死、命の理を超えて繋がる想い、そしてそれが絶望すらも強く照らしていく様が描かれます。

決してボリュームのあるゲームではありません
しかしテーマに沿った感動が多く盛り込まれており、読後感も爽やか。
手軽に遊べて、心温まるストーリーのゲームでした。

感動的だが、感動できない。描写が浅く、他人事のような物語。

感動的な物語が特徴の本作。

しかし私は最後まで、実際に感動することは一度もできませんでした。

なぜなら、本作は「生と死」が重要なテーマであるにも関わらず、それらの描写がとても薄いからです。

何せ本作の「死」は、1分もあれば終わるイベントシーンと、ごく短い会話のみで表現されています。
これではその死を他人事のようにしか感じられず、いかに感動的とはいえ、心が動かされることがありません。
また、その死にまつわるエピソード自体もありきたりで、驚きがありません。

リアリティがある…という見方もできますが、ゲームのシナリオの一部として、プレイヤーの心を動かすための要素としては、弱すぎると感じます。
どうにもキャラクター描写に深みがなく、全く感情移入できませんでした。



さすがに主人公であるネコ、そしてクマのエピソードは、ある程度の尺をとり、じっくりと描写されていきます。
しかしそれでもどうにか及第点…というレベルであり、内容はやっぱりありきたり。

ゲーム終盤はそれまでと大きく雰囲気が変わるのですが、なにぶん人物描写の浅さにより物語に入り込めないものですから、前半とのちぐはぐさばかりを感じさせられました。

人物のドラマで泣かせるならば、その人物の描写は丁寧にやる必要があると思います。
本作はそれが大きく不足している
とってつけたようなエピソードは感動的ではありますが、本当に感動することはできませんでした。


ただ本作は元々はスマートフォン向けアプリとして配信されていたゲーム。
そのことを考えると、これくらい浅めな描写の方が、プレイヤーの遊び方にマッチしているのかもしれません。

終わりに

感動的な物語に期待して遊び始めた本作

エピソード1つ1つは感動的ですし、ドット絵の表現は素朴な、でも爽やかな切なさを感じさせるにはぴったりです。
BGMも少ないながらも良いものがそろっており、心温まる一作です。

しかし描写の浅さが目立ち、物語は感動的なのに全く感動できません。
大作RPGやADVのような感動を求めてプレイすると、やや期待外れな印象を受けてしまう
かもしれません

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