【最近読んだ本の感想9】「母親になって後悔してる」とか「推し、燃ゆ」とか6冊

本の感想
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母親になって後悔してる / オルナ・ドーナト

NHKで紹介されていたので興味を持って読んだ本。

まずタイトルがセンセーショナルというか、タブーに踏み込んでいる感があって、横で一緒に番組を見ていた母親は明らかに憤っていた。自分も正直「言うても己が産んだんだろ?」と思った。

読んでわかったのは、まず第一に、全ての母が望んで母になったわけではないこと。

まぁそれは当たり前の話で、むしろ夫婦円満で同意のもとに生まれてくる子供ってそんなに多くなかったりするかもしれない。

自由恋愛の時代だからこそ、母になったのもその人の自由のもとでの選択の結果であると勘違いしてしまう。

例えばパートナーが強く子供を望んだ場合、自分はそうでなくても、そのパートナーとの関係を保つために気は進まないが出産…なんて女性もいるでしょう。また女性にとって母になるとは、そのコミュニティに所属するための条件のようになってしまっている部分があって、そのために…というケースもあるようです。まぁ確かにいい歳こいて独身子無しってのは、どうしても非適合者みたいに見られて孤立しがちで、特に女性はそういうものを感じやすい環境にいるのかもしれません。

つまるところ、その関係を維持するための代償として母になる女性もいるわけですな。

自分は正にいい歳こいて独身子無しですが、周りもそういう人物が多数なのであまり気になりません。しかしそうでなかったとき、またその人たちと親しく繋がっていた時、そうでいられるかは…難しいと感じます。

子どもを望むかどうかや、その結果を考慮せず母になることは、「自由な選択」とは言いがたい。「自由な選択」の概念には、必然的に、その選択のコスト、利益、結果についての考察(13)と、制裁や罰を伴わない他の選択肢の存在が含まれている必要がある。こうした女性の経験は、「受動的な意思決定」と説明する方が的確であろう。

母親になって後悔してる / オルナ・ドーナト 新潮社

第二に、誰もが子供を授かった瞬間から母になるわけでは無いこと。

女性は子供を授かったその日から母へとクラスチェンジし、子のために全てを捧げ、その愛は海より深く。こんな感じで母性を神聖視する風潮はあって、母は自分を犠牲にして子供を優先する。それが当たりまえで、女性とはそういう生き物!みたいに見てしまっているってのは確かに実感があります。

例えば赤ちゃんの世話が忙しくて、趣味のテレビゲームの時間が全然取れない…なんて嘆いている母がいたとして、たぶん私は「いやそれは仕方ないでしょ。」と思う。

でも誰もが子供に全てを捧げる理想の母になれるわけじゃない。趣味だって仕事だって続けたい。自分の時間を取って好きなことをしたいと思う。それは人間なら当たり前のことなのに、こと「母」というクラスになってしまうと、そのような欲求を持つこと…ひいては「母」にクラスチェンジしたことを後悔することは絶対に許されないこととされる。

「母」になることによって、これまでの「私」が消えていく。いや消すことを社会が強要する。消せない者は悪とされる。ああ、母になる前の私に戻りたい。やり直せるなら、母になんてならなかったのに…

特に理想の母になることができた人、今まさにそうである人にとってはムカつきすらする本かもしれませんが、だからこそ、違う考え…自分の理解できない人の考えを知り得る一冊で、良いと感じます。

少なくとも自分は父になれ!という圧力を感じたことは一度もありませんが、女性はどうなんでしょう。あと仮に、もし仮に子どもが産まれたとしても、自分はたぶん、理想の父にはなれない…後悔する側の人間だと思います。

推し、燃ゆ / 宇佐見りん

芥川賞作品。

21歳?でこれ書きましたか…。

こと文学ひいては芸術、あるいは勝負の世界において年齢などせいぜい参考情報にしかならないと、私ももちろん知ってはいます。が、こうしていっちょまえにブログで世間様に向けて文章を公開している身としては、その力量差に唖然とさせられ、そしてただ羨望するしかないであります。

推し(三次元アイドル)が暴力を振るって炎上…と現代風のキャッチーな掴みから起こる本作。しかしそこから先は…

上手くいかないどん詰まりの人生。作者はこのようなことを「遅れ」と表現しますが、なるほど、主人公が遅れ、それでも推しだけが彼女を走らせる様がよく描かれていると感じます。この主人公の遅れっぷりの表現は特に力が入っており、読んでいてマイナスの気持ちを次から次へとブチこまれる感覚がしました。

決して心が明るくなる小説でなく、推し以外の何もかもが崩れ、遅れ、それでも推しがいるからこそ生きるしかない主人公の姿を見せつけられるような作品です。希望よりは絶望の話で、推し以外を失っていく様が印象的でした。失い様には読むものを暗澹とさせる表現力が発揮されており、上向きになれるシーンはありません。

しかし、彼女を生かす推しも永遠には続かない。推しと彼女はどのような姿で物語の最後を迎えるのか。

変身 / カフカ フランツ

ある朝、目が覚めたら巨大な毒虫に変身してしまっているアレ。青空文庫で無料。有難い。

その後がどうなるのか気になって読んでみた。80ページくらいの短編なので、興味があるなら読んでみた方が早い。

一言でいえば、救いがない。

グレゴールザムザは家族のために尽くしていた人物に見える。その彼に対してこの物語、結末はあんまりだと思う。ただ家族が毒虫に変身して、それを受け入れられるか?と考えれば、なるほどこの反応は仕方ない。妹だけが唯一の理解者になるかのように見えたが、それも…

カフカは何を書きたかったんだ?と思い解説を検索してみると、多様な意見があって、その意味で面白かった一冊。

猛スピードで母は / 長嶋 有

芥川賞作品。

良い意味で、論理的でない。

主人公にせよ母にせよ、その心理が、その出来事によってなぜそうなるのかが分からない場面が多々あって、だから物語が不明瞭なんだけど、それは不快だとか物語の不出来さだとは思えない不思議。ただ思うのは、これがもし芥川賞作品でなく、例えば普段遊んでいるアドベンチャーゲームのシナリオなんかだとしたら、果たしこれを良いと思えただろうか?ってこと。

『魔法使いの夜』にせよ『素晴らしき日々 不連続存在』にせよ、一度遊んだだけでは物語を論理的にとらえることができず、それを何とかとらえようとした。ある程度の答えは得られて、それで完了とした。

汎用

それに倣うなら本作ももう一度最初から読んで明確にすべきなんだろうけど、何だかそれが無粋に思えるというか…。なにより理解できなくてもいいと思える自分がいるから面白い。

ドラマティックなアップダウンも意外とあって、でもそれを淡々と描く印象。人物の心理がつかめず、でも一方で自然なシーンもあって、それが良い読み味を出しているのかな。

ちなみに同作者の『サイドカーに犬』という短編も同時収録。こっちの方が好きだったりする。

ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~ / 三上 延

自分がこの本に持っている感情は、憧れなんだと思った。

ビブリア古書堂の事件手帖の、この1巻を読むのは三度目なんだけど、改めて読んでみて、やっぱりページをめくる手が止まらなくなるような本ではないと感じます。そういう面白さなら、上をいく本はいくらでもある。

じゃあこの本の何がいいのかって言うと、それはもう、世界観というか、物語の空気というか…そのようなもの。もっと具体的に言うなら、自分はビブリア古書堂みたいな場所で働きたいと思っているのかもしれない。

いいんですよ。本に囲まれて、ちょっと退屈で、時間の流れが遅くて、そんでたまに珍事件が舞い込んで、でもやっぱりいつもは静かで。
そんな古書店で季節の風景と一緒に語られる物語に、たぶん私は憧れているんだと思います。

ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち / レジ―

自分はファスト教養をバカにする気にはなれないんだよな…。

というのも、他でもないこのブログが、始めるきっかけになったのはファスト教養的なところだったから。具体的にいうとホリエモンの多動力。今でもあの本は良いこともたくさん書いてあると思ってる。

ただ現代、本来であれば時間的効率を求めちゃいけないものにまで効率を求めて、それこそ本なんて要約や動画でパパッと済ませるのがスマート…みたいな考え方があって、それが主にファスト教養にあって、それには反感もある。

というわけでその実態を…と思って手に取った本。

本自体は良いモノだった…とだけ言っておいて、とりわけ自分が感じたのは、この何かとファストにこなそうとする流れは、我々オタクの間にも結構広まってきてるよなってこと。

汎用

例えば50時間とかかかる大作ゲームは時間的効率が悪くて、そんなんやるなら映画20本とか見た方がいいよね…みたいな話があって、正直自分もそれに反論しづらい。

ゲームを遊んでいて「このゲーム、クリアまでのプレイ時間半分にできたよね」とか「このシーンいる? 削って良くない??」みたいに思っちゃうことがある。つまり、ビデオゲームをもっとファストにこなしたいという思いが確かにある。だから時間がかかる大作ビデオゲームよりも、もっとファストに楽しめるアニメ、映画、あるいは基本プレイ無料のスマホアプリにたくさんの人が集まる理由は何となく分かって、でもそれってどうなの…?とは思っていて。

だって、そもそも娯楽って時間的効率を考えて摂取するもんじゃなくないですか?

実際映画やアニメの倍速再生には、嘆いたり憤ったりする人がたくさんいますし。

でもそういう人たちも、実際に訊いたわけじゃないけど時間のかかりすぎる娯楽はNGとしているようにも見えて…

とにかく、この何かとファストにこなそうとする流れは一体何なんだ?と。

本書は主にファスト教養とビジネスパーソンにスポットを当てています。ただこれをきっかけに、サブカルチャーとオタクにスポットを当てて、じっくり考えたいなと思いました。再読したい一冊。

今回のオススメ→『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち 』

今回のオススメは↓

新書なのですぐ読み終わります。気になる方はどうぞ。

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日々プレイしたゲームの、忖度のないレビュー。オタクしていて思ったことを書いています。ADV、音ゲーが特に好き。

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