良い言葉も、良いお話も、まず観客をその物語に入り込ませないことには、伝わらないと感じます。
「What Comes After」はゲーム的な遊びは廃し、プレイヤーにメッセージを伝えることに特化した作品。
しかしプレイヤーをゲームに入り込ませる工夫、演出が大きく不足しています。
良いメッセージを伝えようとしてるのは理解できますが、淡泊な印象ばかりが残るゲームでした。
タイトル | What Comes After |
ジャンル | ADV |
対応機種 | Switch/ PC |
価格 | 770円 |
プレイ時間の目安 | 1~2時間 |
備考 | 2021年9月現在、Steam版は日本語非対応 |
総評
「What Comes After」は、とある電車に迷い込んだ女性「ビビ」が主人公のADVです。
その電車に乗るのは、死者の魂。行く先は死後の世界。
戸惑いながらも、つらい現実から解放されるかもしれない…と、喜ぶ節すら見せる主人公。
ですが死者との会話を通し、再び生への活力を取り戻していきます。
メッセージ性こそ感じますが、それを伝えるには薄すぎる作品でした。
本作はゲームとして、シンプルな作りです。
最初から最後まで、移動と会話を繰り返すのみ。
また舞台が電車であるため、風景も代り映えがしません。
さらにプレイ時間もたいへん短く、2時間もあればまずクリア可能。
では本作の特徴は何かと言えば、明日を生きる活力を与えんとするメッセージ性です。
列車に乗る死者たちは、それぞれの心情を吐露します。
主人公ビビは彼らとの対話を通し、現実へ帰る理由と、未来へと歩みだす勇気を取り戻していきます。
しかし、この本作に込められたメッセージが、プレイヤーに伝わるかは疑問に思ってしまう内容。
私自身、実際にプレイして胸を打たれたかといえば、そうではありませんでした。
プレイヤーを物語に入り込ませる工夫が大きく不足している他、盛り上げる演出も弱い。
そのため印象に残るシーン、セリフはほぼ無し。
生と死、未来と生きる理由に関するメッセージは普遍的ですが、逆に言えばありきたりなテーマです。
それを独自の表現で伝えるパワーが、本作からは感じられませんでした
コロナ禍の現代、このメッセージを改めて伝える意義は大いにあると思います。
しかし、もう一捻り欲しかった。
メッセージ性に特化した作りであるのに、それを伝える力に欠ける一本。
ゲームとしても物語としても淡泊です。
「とりあえず良いことは言っているゲーム」以上の印象は持てませんでした。
価格は安いですがプレイ時間も短く、分岐など物語的な深みもないため、満足感もありません。
よほど主人公に共感できる何かを持っている方でないと、オススメしづらい作品です。
詳しいレビュー
伝える工夫が欲しかった、生と死のメッセージ
本作からはゲーム的な遊び、表現は切り落とし、メッセージを伝えることに特化した作品という印象を受けました。
ゲームクリアまでプレイヤーがやることは移動と会話のみ。
分岐も存在せず、一本道の内容であるためです。
しかし、その肝心のメッセージすらも伝えるための工夫が足りておらず、今一つ印象に残らない作品になっています。
これは残念。
辛い現実に疲れた主人公が、死者との対話を通して未来へ…というのが本作の主題です
しかしこの「辛い現実」の描写が弱すぎるのが、ゲームを開始してまず気になった点です
冒頭の主人公のセリフでわずかに語られるのみで、他の描写は一切無し。
プレイヤーは抱える「辛さ」を具体的に知ることができないため、現実から解放されたいと思う主人公の心理にのっけから付いていけません。
プレイヤーをゲームの世界に引き込むものが不足しており、起承転結の転から始まるような唐突さを感じました。
そして物語が始まれば、生と死にまつわる死者たちの言葉、それにより主人公が再び活力を取り戻していく様が描かれます。
ですが、この主人公を勇気づけていく「言葉」も、印象に残りませんでした。
まずテキストサイズが小さすぎるため、ゲーム上重要であるはずの言葉の主張が弱い。
演出やBGMによる盛り上げも最低限で、言葉から主人公を変えるだけの力を感じません。
とりあえず深く、良いことを言っているのは、わかります。
それ以上のものは残りませんでした。
そもそもこちらはゲームに入り込めておらず、言葉をプレイヤーに響かせようとする工夫も少ないため、まず耳を傾けようという気にすらなりづらい。
また物語に起伏がなく、あらすじから想像できるシナリオを外れることがありません。
想像通りすぎる展開には、呆気なさばかりを感じました。
総じて驚きや感動のない作品で、心を動かされない。
そのため、本作に込められたメッセージも、伝わってきませんでした。
終わりに
耐えても耐えてもつらいニュースばかりの現代
ゲームを通して人々の自己を肯定する気持ち、明日をいきる活力を取り戻すメッセージを…という試み自体は、良いものだと思います。
しかしこれらはゲームに限らず多くの作品で語られる、人類にとって普遍的なテーマ
だからこそ、本作ならではのパワーが欲しかった。
「良い言葉」はありふれています。
プレイヤーの胸を打つ一工夫が少ないため、平坦で印象に残らない作品になってしまっていると感じました。
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