「エロい」と「好き」の違いはどこにあるのか?
2025年9月、人気ゲーム『アズールレーン』の8周年記念イベントにて、あるグッズが発表されました。
その名も「揺れ胸」と「揺れ尻」。

これは『アズレン』に登場するキャラクターの一枚絵から、胸とお尻の部分を文字通り切り取ってグッズにしたものです。内部にバネが仕込んであり、触るとプルプル揺れる模様。更に裏側にはスマホリングのような粘着部があります。つまりお好みの場所に貼りつけたうえでプルプルさせて遊べる(?)というわけ。これにはちゃんと元になっているイラストがあります。その元イラストは全年齢向けの限界なのではと思うくらい過激なので、貼り付けることは控えます。検索すればすぐ出てきます。
さて私は『アズレン』は名前こそ知っていますがプレイしたことはありません。しかし美少女ゲーム系のコンテンツにはそれなりにアンテナを張っているので、このような商品が販売されるという情報はSNSから自然と入ってきました。
そして本グッズを目にしたとき、最初に抱いた感情は…何というか、戸惑いでした。
もう少し具体的に言えば「アズレンファンは、このグッズに対して怒ったりはしないのだろうか…」という戸惑いです。ですが「揺れ胸」も「揺れ尻」も特に炎上したとかそういう話は耳にしません。ニュースサイトはジョークグッズ的に受け止められていると報じています。
なるほど、アズレンファンは怒りとかそういう感情は特に抱いていないらしい。あくまでも冗談。それならまぁ、いいのかなと思います。ファンが楽しくやっているところに水をぶっ掛けるつもりはありません。
しかし、疑問は残ります。それは私が抱いた戸惑いは、いったいどのような理由に基づくのか…ということです。つまり「アズレンファンは『揺れ胸』と『揺れ尻』の怒らないのだろうか?」という感情を、私はなぜ抱くのか?という疑問がある。
ここでの「怒らないのだろうか?」という問いには「怒るはずだ」という前提があります。誰かしら怒る人がいても不思議ではないと思うからこそ、だれも怒っていないならば「怒らないの?」という疑問が生まれるのでしょう。すると私は「『揺れ胸』と『揺れ尻』に対して怒るアズレンファンがいるはずだ」と思っていることになります。
ではなぜ私は「怒るファンがいるはずだ」と思うのでしょう?
その答えはもちろん、「揺れ胸」と「揺れ尻」にファンが怒るような要素があると思うからです。
じゃあその怒る要素とは何なのか?
エロいこと?…違います。エロいことに問題があるか否かはともかく、私の考える怒る要素はそこではありません。
ゾーニングされていないこと?…これも違う。ゾーニングにも問題があるのかもしれませんが、今回の怒る要素とは関係ありません。というか結構ちゃんとゾーニングされていると思います。ファン以外の目には届かない場所で販売されているグッズです。
私が思う「怒る要素」…それは言うなれば「キャラクターを冒涜していること」です。私は「揺れ胸」と「揺れ尻」は、開発の意図がどうであれ、キャラクターを冒涜するグッズであると思います。そしてアズレンファンはアズレンのキャラクターが好きなハズです。好きなキャラクターを冒涜されたら、程度はともかく誰もが怒るでしょう。それなのに誰も怒っていない(ように見える)。だからこそ私は「なぜアズレンファンは怒らないのか…」という疑問を持っている。もし私が好きなコンテンツで「揺れ尻」や「揺れ胸」みたいなグッズが発売されたら、私はきっと怒ります。
とはいえ、いきなり「冒涜している!」とか言われても、意味が分からないと思います。それどころか「アズレンに興味ない外野は黙ってろや」って感じだと思います。
ではわたしがいう「冒涜している」とは、具体的にはどのようなことなのか。何をどう見て考えた上で「揺れ胸」と「揺れ尻」がキャラへの冒涜であるなどと抜かしているのか。
本記事ではこれを解説します。解説と言っても私自身もまだぼんやりしている感覚なので、書きながら確かめていく気でいるのですけれども。
ただし注意点として言っておきたいことがあります。私自身は別に「揺れ胸」にも「揺れ尻」にも怒っていませんし、販売中止しろとかも思っていません。ただ「オレが好きなキャラでこれをやられたら怒るなぁ」という感覚を持っています。しかしアズレンファンは別に怒っていないわけですから、それなら良いと思います。
しかし過去に別の記事で書いたような気がしますが、特に二次元の表象は「二次元だから」だとか「道徳の教科書じゃないんだから」などの理屈で、どのような表象も「問題はあるかもしれんが気にする必要はない」みたいにスルーされてしまいがちのように思います。そうして問題を素通りするのは簡単でいい。しかしスルーしているだけで問題自体が消滅したわけではありません。やがては何が問題なのかを考える力や態度も失われていくのではないか…私はそういう危惧を持っています。
そのため「揺れ胸」と「揺れ尻」にある「キャラへの冒涜」という問題をここできっちりと考えておきたい。もちろん、そんな問題が本当に存在するのかどうか、そしてその指摘が適切なのかどうかは大いに疑う余地がありますけれども、そういう話をするためには、やはり私が感じていることをきっちり残しておく必要があるでしょう。
私はアズレンを遊んだことはありません。キャラクターも一人も知りません。しかしキャラクターに強く根差すコンテンツに親しんだことのある人間として、「揺れ尻」と「揺れ胸」には「キャラへの冒涜」という問題が提起されるはずだと直感しています。
その冒涜とは具体的には何なのか。
現時点で簡単に言えば、それは「キャラから人格を剥ぎ取り、特定の身体の部位を「エロい」と楽しませようと切り出すことを、公式がやったこと」という冒涜です。意味が分からないと思います。最後まで読めばわかるはず。多分。
では詳しい話を始めましょう。
「エロい」と「好きだ」の違いは何か?
まず一枚の画像を見てもらうことから始めます。どうぞ↓

この画像はSHIFT UPが開発、SIEから発売されている『Stellar Blade』という作品のキャラクター「イヴ」の画像です。
さて見てもらったうえでの質問です。
皆さんは↑の画像のキャラ、「エロい」と思いますか?
あるいは「セクシー」でも構いません。ここではこの二語をほぼ同一の意味の言葉として考えています。
恐らく多くの人は、↑のキャラをエロい、またはセクシーだと感じると思います。もちろんそう感じない人もいるとは思いますが、それでもエロいまたはセクシーだと言われる要素が大きく含まれていることには同意してもらえるはずです。本来はもっと過激な画像を使って、はっきりと「エロい」と思ってもらいたいところなんですが、なにぶん当ブログは全年齢向けなのでこの辺が限界です。
ではもう一つ質問をします。
皆さんは、上記の画像のキャラクターが「好き」ですか?
なおこの質問は、皆さんが上記のキャラクターを全く知らず、この画像で初めて知った…ということを前提にしています。そのためもし元々このキャラを知っている場合は、知らないものとして考えてほしい。
おそらく「エロい」には同意できても、「好き」には同意できない人が多いと思います。画像のキャラにエロいまたはセクシーな要素があることは多くの人に認められるでしょう。しかしだからといって突然好きとまでは言えない人が大半だと思います。
「エロい」も「好き」も、ポジティブな価値判断を表す語彙で、なおかつ人物やキャラクターに対して使われる言葉という意味でも共通しています。ポジティブといっても前者は欲望に率直すぎて嫌らしい感じがしますから、言われた側が嬉しいかどうか微妙ですけれども。
そういう共通点を持つこの二語ですが、当然、大きな違いもあります。その一つはこれまでの流れで既に浮かび上がっています。
もう一度画像を確認してみましょう。

この画像のキャラは「エロい」けど「好き」ではありませんでした。
ではなぜ、私たちはこのキャラに対して「エロい」と感じるのでしょうか?
それは言うまでもなく、このキャラクターの身体に胸に要因があるでしょう。画像のキャラはまず胸が大きく、かつ脚が長い。また身体全体に贅肉がほとんどないように見えます。しかも衣装はその胸と足をおおきく露出するものです。そういう身体の形状や、その露出した部位を見て「エロい」とか「セクシー」と感じていると思います。
しかし「好き」ではありませんでした。このキャラは確かにエロいが、好きではない。ではここから浮かび上がる「エロい」と「好き」の違いは何か。
それは「『エロい』は身体の形それ自体、あるいは露出された身体の部分を見ること、またその両方を経てなされることがある価値判断であり、『好き』はそうではない」ということだと思っています。
「エロい」と感じる要因は、画像のキャラの胸の大きさや脚の長さ、贅肉のない身体という、いわば身体の形状と、それを露出していることの両方にあるだろうと上で言いました。恐らくこれはそれぞれ単体であったとしても「エロい」と価値判断するには十分な要因であると思います。そのため「身体の形それ自体」と「露出された身体の部分を見ること」の二つに分けて「あるいは」で繋いでいます。
一方で「好き」は、ふつう身体を見ただけでは抱くことのない感情だと思います。もちろん「好き」という言葉も多義的ですが、どのような意味で取ろうとも「好き」は「エロい」とはしぜんに区別されるでしょう。恋愛の文脈であれ、架空のキャラに対してであれ。
「エロい」は身体だけを見ても出てくる
重要なのは「エロい」は身体を見るだけでも出てくる価値判断だということです。
胸かお尻か、あるいは脚、横腹の凹みか、はたまた各々の好みの部位かは分かりませんが、そういう身体の形や露出された部位そのものを見て「エロい」と感じることがある。
だから私たちは、身体を模したフィギュアや、身体がうつった写真などに対しても「エロい」と感じ得る。グラビアアイドルの写真を見て「エロい」と感じた経験は、程度の差はあれ異性愛男性にはほぼ必ずあると思います。その「エロい」は、アイドルの身体の形や露出された部位そのものを見て言っているのではないでしょうか。
こんなことを言うと「いや、その人の顔だって見た上で言っている!」と反論されるかもしれません。確かにアイドルの表情や目線、キャラクターの顔だち…そこから読み取れるものを加味した上で「エロい」と言うこともあるかもしれない。しかし、それを除外したうえでも「エロい」と感じることはあるはずです。顔を見た上でいうこともあるが、なくても言える。
例を出しましょう。野々宮ミカさんという元グラビアアイドルがいます。現在はeスポーツ関連の仕事をしているようですが、昔は水着着用のうえで写真集やイメージビデオを発売していました。そんな野々宮さんがグラビアアイドル時代に自身のキャッチコピーとして使っていたワードが「身体100点、顔0点、グラビア界の50点」です。インタビューなどによれば、SNSでそのように言われていたものをキャッチコピーとして頂戴したとのこと。
人の容姿を採点したうえで「0点」とは失礼極まりない発言ですが、ここではその悪さの追及はひとまず置いておきます。

注目したいのは、SNSにて野々宮さんを採点したその人が、顔と身体を別々に評価していることです。「顔は0点」というのは、可愛くない、美人でないという意味で言ったのだと思います。一方で「身体は100点」だという。ここにはどんな意味が込められているのかと言えば「エロい」あるいは「セクシーだ」ではないでしょうか。
どこの誰とも知らない人が切っ掛けの、たった一つの例ではあります。しかしこれは、私たちは人の身体だけを見て「エロい」と判断することがあるし、その感覚はキャッチコピーとしても使われ得るほど一般的であることを示す、たいへん分かりやすい例ではないでしょうか。
もちろんSNSで発言したその人も、何だかんだ野々宮さんの顔も見た上で「身体は100点」と発言している可能性はあります。顔を度外視しているようで、実はそこに入り込んでいる可能性がある。しかしより極端な例え話をすれば、私たちは首から下だけを見ても「エロい」を感じることがあり得ると思います。ここに貼ることはしませんが、インターネットにはそのような、首から下をおさめた身体の画像がいくらでもあります。そしてそれに「エロい」を感じ得るし、画像をつくった側もそのように思われることを想定しているはずです。
一方で「好き」はどうか。
私は身体だけを見てその人を好きになるなんて、ふつう有り得ないと思います。時には「エロくて好き」のような言い方がされることはある。しかしこの場合の「好き」は性行為をゴールと想定し、それ以上に関係はいっさい考慮していない「好き」ではないでしょうか。そしてここで私が「エロい」と対比したい「好き」は違います。それはもっとその人と関係を深めたい、より長い時間を共に過ごしたいと思うような、そういう感覚です。これは「エロい」と「好き」の一般的な区分であると思っています。
ではそういう「好き」は何を通して出てくるのか。私は人格だと思っています。
人格は、人にもキャラにも欠かせない大切な要素である
では人格とは何か。
その全てを言葉にすることは難しいですが、言うなればその人の性格や人柄など、その人をその人と認識する上で欠かせない種々の事柄のこと…とここでは言いたい。
人体を模すことはフィギュアやイラストでも可能です。しかしそれは人格を帯びることはない。そして人にせよキャラにせよ、私たちがその存在を好きになるとき、必ずこのような人格を通すように思います。
上記画像『Stellar Blade』のイヴで言うならば、イヴが他のキャラに接する時の態度や物語中で表出する性格などを通したうえでイヴを好きになることがある。野々宮ミカさんならば、ゲーム実況などを通してそれが伝わるでしょう。
「エロい」は身体を見ただけでも思うことがあります。しかし「好き」は人格を通さない限りは思わないのではないでしょうか。
そして人格は、もはや身体すら通さずに認知されることが普通にあり得る。ポッドキャストやラジオの音声だけから人格を読み取ることはあるし、何ならChat-gptとのやり取りにおいてすら、AIに人格を見ることがあるかもしれません。
ここで強調したいのは、このような性質を持つ人格はその人をその人として構成する要素のうち、身体よりも遥かに重要であるのではないか…ということです。私はそう考えています。もちろんこれは身体はどうでもいいという話ではありません。身体はとても大切です。しかしその人やキャラを他でもないその人、そのキャラとして認識したりするうえでは、人格の方が重要だと思います。
例えばの話、ドラえもんとサザエさんの人格が入れ替わったとしたら、私たちはその「ドラえもんの人格のサザエさん」や「サザエさんの人格のドラえもん」を、身体と人格、どちらを基準にして認識するでしょうか?
私は人格だと思います。いくら見た目がサザエさんだろうが、人格がドラえもんになっているならばドラえもんとして接することになるはずです。これを身近な人やキャラクターに置き換えて考え直してもいい。あなたのよく知る人やキャラの人格が全く違うものになったとして、あなたはその人、キャラにそれまでと変わらずに接することができるでしょうか。別人になってしまった、と感じるはずです。
身体も軽視されるべきではありません。しかしもっと重要なのは人格だと主張しています。これは難しい論文などを引用しなくとも、私たちの経験から根拠づけられると思っています。
だからキャラクターにとっても人物にとっても、人格はとても大切なものです。それがなくなったらその人ではなくなってしまうように感じられるのですから。
ときにキャラクターファンの間で「このキャラはこんな行動はしない。だってこのキャラの人格はこうだから」という論争が巻き起こることがあります。いわゆる解釈違いというものだと思います。なぜこんな論争がおこるのか。それは人格がそのキャラがそのキャラであるための極めて重要な事柄であるからではないでしょうか。それが崩れてしまうことは、まさにそのキャラが別人になってしまうことに他ならないからではないでしょうか。
このように、とても大切な人格を通して私たちは初めてキャラを好きになる。

一方で、上で話した「エロい」は違います。「エロい」に人格は必要ない。あってダメではありませんが、なくても問題ない。私たちは人格を一切感じられない、単純な身体の形、あるいは露出したその部位からだけでも「エロい」と感じます。だから人体を模した表象や、首から下だけをうつした写真に対しても「エロい」という感情を抱き得る。話しているところを見たことがない人やキャラなど、人格を全く知らない存在に対しても、胸やお尻、衣類の隙間から見える肌など、その身体を見ただけで「エロい」と感じることがあります。
しかし人格を通していないならば「好き」にはなり得ない。そして人格は、そのキャラや人物にとって決して欠かせないものです。人格がなくなったり変わったりしたら、たとえ身体の形が全く同じであったとしても、別人のように感じられてしまうくらいに。人格は人物からもキャラからも決して切り離せない、もっとも重要なものであるとすら言えると思っています。
それを通して、私たちはキャラクターを好きになる。「エロい」は身体だけでも感じることがある。しかし人格はそうではない。人格を通して「好き」が生まれる。
そしてアズレンのファンも、この感覚は同じではないかと思います。
アズレンの公式サイトを見てみますと、女性の身体による「エロい」を喚起しようとしているであろうイラストが目も眩むほどに見られます。しかしそういう身体を持っているキャラクターたちであっても、「好き」になるときは、きっとその人格を通しているはずです。興味をもつきっかけとして「エロい」があるかもしれない。しかしその先でキャラの持つ人格に触れ、それを通して好きになっているはずです。そしてその人格がもし変わったりなくなったりしたら、もうそのキャラは、どれだけ「エロい」身体を変わらずに持っていようが、そのキャラではないように感じられやしないでしょうか。だから人格は大切で、そのキャラにとって欠かせないものです。
改めて「揺れ胸」と「揺れ尻」を見てみます。はたして、ここにキャラクターの人格は見て取れるでしょうか。

ここからが、本記事の核心です。
キャラから人格を剥ぎ取ることを許せるか?
上で私は「アズレンファンは『揺れ胸』と『揺れ尻』に対して怒らないのか?」という戸惑いを抱いていると話しました。裏返せば私は「アズレンファンの中には、これに対して怒る人がいるはずだ」と思っている。なぜそう思うか。それは「揺れ胸」と「揺れ尻」がキャラを冒涜しているからだと話しました。
ではその冒涜とは具体的に言うと何なのか。それは「キャラから人格を剥ぎ取り、特定の身体の部位を『エロい』と楽しませようと切り出すことを、公式がやったこと」です。これを掘り下げることが本記事の目的でした。
ここまでの話を踏まえると、私が言いたいことが何となく分かってもらえるのではないかと思います。ただまだ私自身もうまく掴めない。読んでいる方もそうでしょう。そのため話を「揺れ胸」と「揺れ尻」に引き戻し、改めて解説してみましょう。
さて「揺れ胸」も「揺れ尻」も、キャラクターの胸とお尻の部分だけをイラストから切り出したグッズです。
私がまず思うのは、このようなグッズを製作することは、そのキャラクターから人格を剥ぎ取るような行為ではないか…ということです。
私は上で、キャラや人物にとって人格は身体よりも重要だと話しました。人格はキャラや人物そのものと言ってもいいくらいかもしれません。キャラにとっても人物にとっても人格は不可欠であり、それを切り離してしまうことは、もはやそのキャラでなくなることと同じです。
では「揺れ胸」と「揺れ尻」から、そのようなものが伝わるでしょうか?
私には読み取れません。そこにあるのは、物言わぬ肉塊です。それでもその形は私たちの「エロい」に訴えかけます。「エロい」は身体の部位を見ただけでも抱き得る感情だからです。だから「揺れ胸」と「揺れ尻」を見て私は、ただ私たちの生的興奮を煽るだめにの身体の部位を切り離してしまうことで、本来あるはずの人格が剥ぎ取られているように感じられるのです。
胸とお尻という体の一部分だけを切り出すことで、キャラにとって欠かせないものであるはずの人格を剥ぎ取っている。これがまず主張したいことです。

とはいえ「そもそもが人格を持った存在から切り出した部位なのだから、例え一部分であったとしても人格を感じることはできる」という反論があるかもしれません。いきなり胸やお尻だけをドンと出されているのではなく、もともと全身像や人格があるのであれば、一部分からだけでもそれを読み取ることは可能ではないのか。
なるほど、これはその通りだと思います。例えばキャラクターの顔の部分だけを切り出したキーホルダーなんかはよく見かけます。
しかし同時に思うのは、特に女性キャラクターの胸やお尻だけを切り出すのは、キャラの顔の部分だけを切り出すこととは違う意味を持つのではないか、ということです。
切り出された胸やお尻から、もともと備わっていた人格を読み取ることは可能です。むしろ自然に読み取ってしまうかもしれない。しかしそれはあくまでも私たちが勝手にやってしまうことであって、胸やお尻を切り出す側の狙いは、人格とは関係なく、胸やお尻を「エロいもの」として楽しんでもらうことではないかと思うのです。
例えばドラえもんやポケモンの顔だけを切り出したグッズがあるでしょう。それは確かに「揺れ胸」や「揺れ尻」と同様に、キャラの身体の一部分だけを切り出している。しかし顔という部位を切り出すことには、たとえ身体の一部分だけであってもそのキャラの持つ人格を想起させ、これによりキャラへの愛着を喚起させる…そのような狙いがあると思います。そこにあるのはドラえもんやポケモンの頭部かもしれませんが、その頭部を通して人格含めたキャラクター全体を無意識に思い浮かべて楽しむような、そういう感覚がないでしょうか。ドラえもんの顔を通して、私たちは他でもないドラえもんの人格を想起し、そこへの愛着…要はドラえもんへの人格を前提にした「好き」を感じる。
しかし特に女性キャラの胸やお尻を切り出すことは、これとは違う意味を帯びる。なぜなら女性キャラの胸やお尻は、それ自体が受け手に「エロい」を強くもたらすからです。胸やお尻から人格含めたキャラ全体を想起することはできます。しかし胸やお尻だけを切り出すそのねらいは、人格含めた全体を思い浮かべてキャラへの愛着を喚起させるというよりは、人格など関係なく、単に胸やお尻という部位そのものが持つ「エロい」を楽しんでもらうことにある…そのような意味を帯びると思います。
人格含めた全体を想起させはするけれども、まず狙っているのは、部位を「エロいもの」として楽しんでもらうことにあるように思うわけです。
そこでは人格ではなく、単純なエロい形をした身体それ自体のみを楽しもうとする態度がある。それがキャラから人格を剥ぎ取る行為であり、冒涜だと言っています。なぜならそれは、そのキャラクターをそのキャラクターとして認識するうえで最も重要であるはずの人格を無視し、ただキャラクターの身体の部位だけを見て、その部位だけが放つ「エロい」を狙う行為だからです。それはキャラクターを見ているようで見ていない。ただ身体の部位を「エロい」を呼び起こす道具として扱っているだけであり、そこには態度や性格などの人格=キャラそのものが度外視されています。
例えばの話、ある男性が女性と会ったとします。そのときその男性が女性の身体ばかりを見て、身体から感じる「エロさ」だけを気にしているとしたら、それはその女性をその女性たらしめる人格を見ようとしない失礼な態度だとは思わないでしょうか。私がいいたいのはこういうことです。

とはいえ、これは二次元と三次元を混同しすぎている話かもしれません。
現実に存在する女性に対し、その人格を一切みようともせず、胸やお尻だけを見て「エロい」として楽しむのは失礼な態度にあたるでしょう。しかし当たり前ですがアズレンのキャラは現実には存在しない。ここで私がやいのやいの言っている人格すらも、あたかも存在するかのように演出されているだけです。だからそれを無視して身体をエロいものとして見て楽しんだからといって、冒涜だなんだというのは現実とバーチャルの混同が過ぎる。
うーむ、確かにそうかもしれません。
しかしアズレンのキャラが二次元であることを踏まえたとしても、それでも私は、アズレンファンは「揺れ胸」と「揺れ尻」に怒っていい…誰かしら怒る人が出てくるはずだと思います。
なぜならば、他でもない当のアズレンファンとアズレンを開発するスタッフらだけは、そのキャラの人格をあたかも実在するかのように尊重しようとすると思うからです。ファンとスタッフらだけは、その冒涜に怒る…いや怒らねばならない。
「揺れ胸」と「揺れ尻」の元になったイラストを見ますと、なるほど、アズレンスタッフらの女性の身体表象でもって「エロい」を喚起させる力は凄まじいものがあると思います。私もR18ゲームを色々と遊んできた身ですが、アズレンの女性キャライラストは構図にせよ色使いにせよ肉感の表現にせよ、私のような人間の「エロい」を喚起させるという目的の追求においてはずば抜けたものがあると直感します。それはアズレンに、そしてそのキャラたちにプレイヤーを引き付ける強烈なきっかけになることと思います。
しかし、その先では人格との邂逅があるはずです。その人格を通してアズレンファンは、キャラの身体から感じる「エロい」だけでなく、「好き」という感覚を抱くのでないでしょうか。とうぜんスタッフらも、エロさをフックに使いつつも、人格でもってキャラクターをデザインしているはずです。
その人格は、言ってみれば壮大なごっこ遊びです。架空のキャラが現実の人間と同じように人格を持つことなどありえない。しかしそのごっこ遊びは、当のファンやスタッフらにとっては大切なものだと思います。なぜならその人格こそ、そのキャラがそのキャラたる所以であり、そのキャラを好きになるために絶対に欠かせないものだからです。これを「作り物だから」と軽んじる態度は、アズレンに本気で関わる者ほど許すことができないのではと思います。
だからこそ私は「揺れ胸」と「揺れ尻」を見たとき「アズレンファンは怒らないのか?」と戸惑った。私は別に何とも思わないですが、しかしアズレンファンは、アズレンキャラの人格をないがしろにするような行為を他でもない公式がやったことに、怒りを表明するように思うからです。
もし私の好きなコンテンツがこのようなことをしたら、私はきっと怒ります。SNSで騒ぎ立てるかはともかく、キャラクターをこういう風に扱うな!とキレます。私はキャラの胸やお尻だけを見て好きでいるわけではない。そのキャラの人格にこそ魅力を感じて好きになっている。その人格がなくなったら、もうそのキャラはそのキャラではなくなる。なのに当の公式が胸やお尻だけを切り出しこれを「エロい」と鑑賞させ、人格を見ようともしない態度へ誘導するグッズを発売するとはどういうことか。
端から見ればそれは間抜けなごっこ遊びかもしれないけれど、ファンとスタッフだけは、そこに真剣でなくてはいけないはずです。
【終わりに】まぁ、それでもアズレンファンが怒ってないならそれでOKだと思う
言いたいことはこれで終わりです。
ここまでいって改めて言い訳しますが、私はアズレンファンが現に怒っていないならそれで良いと思います。
そもそも「揺れ胸」にせよ「揺れ尻」にせよ、元のイラストはどう見てもそのお尻や胸による「エロい」の喚起を大きく狙って描かれていることが明らかです。ならばそこに焦点を合わせたグッズがでることは、そうでないキャラクターから同じグッズがでることとは違う意味を帯びるかもしれません。
それでも私が今回、こうして長々と記事を書いたのは、一連の話が「性的客体化」に繋がるのではないかと思っているからです。
特にフェミニズムとメディアの話では、よく性的客体化が話題になります。基本的には問題のあるものとして論じられるのですが、実は私はこの性的客体化というのが具体的にはどういう事態を指しているのかが、よく分からなかった。
しかし「揺れ胸」と「揺れ尻」を見て、思うことを書き連ねて、それがいくらかつかめたように感じています。つまりそれは女性が持つ人格を無視し、その身体を私の生的興奮を起こすもの、その欲望を満たす機能をもった物体として扱うような…そういうことを言っているのではないか。
その女性の人格がどうであれ、私は露出された身体の部位やその形状に興奮し得ます。そしてそれは私の性欲を満たす機能も持っている。その女性がどう思おうが、その身体はその機能を備えている。しかし女性には当然人格がある。意志や感情がある。これを無視して身体を、欲望を満たす機能を持つモノとして扱う行為が、性的客体化でありその問題点なのではないか…そう思っています。
もちろん、まだ不十分な理解だと思います。しかし前進はできました。第4回がいつになるかは分かりませんが、勉強を深めてまた更新します。
参考にした作品、サイト紹介
アズールレーン

本記事を書くきっかけになった「揺れ胸」と「揺れ尻」の元になっているゲーム。昔からありますが遊んだことはない…PS4でもスピンオフ的な作品が発売されたりもしましたねそういえば。
Stellar Blade
SHIFT UP開発、SIEから発売の3Dアクションゲーム。元はPS5で発売され、今はSteamでも配信されています。セクシーなキャラクターが話題になりますが、アクションもまぁ楽しいゲームです。
フリー素材ぱくたそ
フリー素材「ぱくたそ」記事中に挿入した海および女性の画像はこちらから。有名なフリー画像配信サイト。ちなみに女性の画像は顔が見えないようにトリミングしていますが、これも利用規約で認められている範囲内の加工です。

